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中国リポート

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 昨日、高熱によりプロツアーグランドファイナルへの出場が危ぶまれているとお伝えした劉詩ウェン。しかし、母親がつきそっての看病の甲斐もあってか、現地時間8日午後2時には丁寧と組んだダブルスに出場。ドデアン/サマラ(ルーマニア)を4-2で下した。女子ダブルスでは今日9日に行われた決勝まで3試合を戦い抜き、見事に優勝を飾っている。

 しかし、女子シングルス1回戦では福原愛(ANA)に2-4で敗れ、初戦敗退。要所でロングサービスからの強気な攻めを見せた福原に対し、劉詩ウェンは終盤でやや集中力が低くなったか。試合後のインタビューでは「棄権するかもしれないと思っていたけど、ダブルスが終わった後も状態はそれほど悪くなかったので、夜のシングルスでも頑張ろうと決めた。孔令輝コーチも『できる限り頑張れ』と言ってくれた。敗因は体調が良くなかったのも多少はあるけれど、勝ちを焦って粘り強く戦えなかったこと」と語った。世界ランキング1位としてのデビュー戦はほろ苦いものになったが、「大事なのは世界ランキングではなく、重要な大会で好成績を収めること。私は試合への出場が多くて、ポイントを稼げたから、ランキングが高いだけです」と冷静なコメントを残した(出典:『北京日報』)。通州卓球訓練基地での集合訓練に合流し、再び仕切り直しだ。

 グランドファイナルの詳報は1月21日発売の卓球王国4月号に掲載。ご期待ください!

Photo:苦い敗戦を喫した劉詩ウェン(写真は09年アジア選手権より)
 昨日1月7日に中国・マカオで開幕した「2009プロツアーグランドファイナル」。2009年のプロツアー・スタンディングで2位以下に大差をつけ、グランドファイナル初出場を果たした劉詩ウェンが発熱。出場が危ぶまれていることを中国のメディアが伝えている。
 『体壇周報』によると、劉詩ウェンはマカオに到着した1月5日の夜から発熱。1月6日夜に行われたドロー(組み合わせ抽選)を欠席し、病院で点滴などの治療を受けたが、1月7日夜の時点でも38度5分と熱が下がらないようだ。「(発熱について)はっきりとした原因はわからないが、天候の変化が影響したのだろう。とにかく8日朝の状況次第だ」(施之皓監督)。「もし8日の時点でも熱が下がらなかったら、出場は難しい。プレーできない以上、シングルス・ダブルスの2種目とも棄権することになるだろう」(孔令輝コーチ。

 今日1月8日の14時(日本時間15時)に丁寧とのペアで女子ダブルス1回戦に登場する劉詩ウェン。そして19時(日本時間20時)には、女子シングルス1回戦で福原愛(ANA)との対戦が予定されている。両選手は2006年シーズンに超級リーグの広東佐川急便でプレーしたチームメイト、ホームだった広州市はグランドファイナルが行われるマカオにほど近い。ともに地元の卓球ファンからは声援が送られるはずだが、果たして劉詩ウェンの出場はなるのか。

Photo:劉詩ウェン、世界ランキング1位として初めて臨む大会だけに、欠場は避けたいところだが…
 この1月、中国で世界の卓球ファン注目の一戦が行われる。卓球界の永遠の課題に、ついに明確な解答が下されることになったのだ。「ペンホルダーとシェークハンド、強いのはどっちだ?」。これはひとつの歴史的事件と言わねばならない。

 1月14日、「雅居楽地産-“金球拍”直横大対決」が四川省の省都・成都市で開催される。スポンサーの雅居楽地産(アジャイル・プロパティ)は広東省に本社を置く不動産ディベロッパー。この試合はシェークハンドプレーヤーとペンホルダープレーヤーの対抗戦というユニークな形式で行われる。ITTF(国際卓球連盟)の主催で昨年6月に行われた「2009Volkswagen中国vs.世界チャレンジマッチ」をはじめ、これまでにも世界のトップ選手と中国の対抗戦は行われてきたが、やはり中国が圧倒的に強く、卓球ファンにとっては魅力に乏(とぼ)しい部分もあった。それだけに今回の試みは注目される。出場するプレーヤーたちは以下のとおりだ。

[シェークハンド代表]
王励勤(中国)/ボル(ドイツ)/メイス(デンマーク)
[ペンホルダー代表]
王皓(中国)/馬琳(中国)/柳承敏(韓国)


 …正確にはシェークドライブ型とペンホルダードライブ型の対抗戦であり、ペンホルダー表ソフトの速攻型や、カット主戦型の選手にとってはちょっと寂しいところ。しかし、所属協会の枠を越えてチームを組むという、新しいスタイルは大いに卓球ファンの注目を集めそうだ。「中国隊、加油(中国頑張れ)!」の大声援ではなく、観客席がまっぷたつに分かれて「横拍(シェーク)、加油!」「直拍(ペンホルダー)、加油!」と応援合戦をやる。想像してみただけで、ちょっとワクワクする光景だ。もっとも中国には、オリジナルのラケットを自作して「最強」「最先端」を自任するコアなプレーヤーが相当数いるものと思われる。「その対決、ちょっと待った!」と彼らがコートに乱入してこないように、会場の警備は厳重にすべきだろう。

 そして今回の対抗戦は、08年5月に発生した四川大地震のチャリティマッチとして行われ、入場料は全額が被災地へ寄付される。これまでにも中国卓球界は、チャリティオークションなどを通じて被災地へ多額の寄付を行ってきた。かつて超級リーグの四川全興でプレーした柳承敏も、被災地へ100万ウォンを寄付している。再び成都へと帰ってきたペンドライブ型の英雄に、中国選手にも負けない大きな声援が送られることになりそうだ。

Photo上:中国でも人気が高いボル。1月7~10日までマカオで行われるITTFプロツアー・グランドファイナルからの転戦となる
Photo下:柳承敏、かつての地元で豪快なドライブが火を噴くか?
 1月3日、北京の街はシベリアから南下してきた寒気のため、記録的な大雪に見舞われた。冬には氷点下10度を下回ることも珍しくないという北京だが、大陸のど真ん中にあるため、降雪量はそれほど多くない。今回の大雪も、市内の平均積雪量は13cm程度と意外なほど少ないが、首都国際空港では欠航が相次ぎ、周辺の高速道路も閉鎖されている。
 この大雪で思わぬ足止めを食らったのが、3日に北京を出発する予定だった国家女子卓球チーム。江蘇省南通市にある中国卓球通州訓練基地で1カ月余りの集合訓練を行う予定だったが、出発の延期を余儀なくされている(張怡寧はチームに帯同していない)。通州訓練基地は国家チームだけでなく、海外選手も積極的に受け入れる「国際」訓練基地として08年5月に落成。南通市は00年五輪女子複金メダリストの李菊や、04年五輪男子複金メダリストの陳杞を輩出した街でもある。

 国家女子チームの現状について、中国の報道では最近「無核」という表現がしばしば見られる。王励勤・馬琳・王皓といったように、同じくらいの力量の選手がチームを形成する男子チームに比べ、女子チームは技術面・精神面ともに他の選手を圧倒する「核」、つまりエースがチームを引っ張ってきた。曹燕華、トウ亜萍、王楠、張怡寧と続く女王の系譜があるのだ。トウ亜萍から王楠、王楠から張怡寧への王冠の委譲はスムーズに進み、07年世界選手権・準決勝で張怡寧を破った郭躍が新女王への道を歩むかに見えたが、その後は張怡寧に格の違いを見せつけられている。その張怡寧が不在の今、国家女子チームは「無核」の状態ということになるのだ。

 ちなみに中国で「無核葡萄」と言えば、種のない葡萄のこと。種のない葡萄のように、中国女子が相手チームにとって「おいしい」存在になる…可能性は低い。1月5日付けの『光明日報』は「施之皓監督率いる国家女子チームは、この数十年で最も厳しい冬に挑もうとしている」としながらも、「国家女子チームの豪華な陣容は他を圧倒している。チームを支える選手層の厚さから言っても、国家女子チームの『無核』時代を心配する必要はないだろう」と結んでいる。日本女子チーム、世界団体選手権モスクワ大会で何とかひと泡、吹かせたいところだ。

Photo上:中国女子の「核」への最短距離にいるのは、やはり郭躍か
Photo下:北京で大雪ということで、北京市出身で北京五輪ベスト8の呉雪(ウー・シュエ)さんにご登場いただきました…
新年好! 皆さま明けましておめでとうございます。今年も卓球界、盛り上がって参りましょう。
 2010年の中国レポート第1弾、昨年の話題で恐縮ですが、12月23日に行われた「2009年国家卓球チームコーチ報告会およびコーチ選考会議」での、女子の施之皓監督の談話をお伝えします。

 女王・張怡寧が世界選手権横浜大会、全中国運動会を制し、改めてその存在感を見せつけた2009年。しかし、張怡寧は全中国運動会後に結婚し、すべての大会出場をキャンセルしている。2008年世界団体戦を経験したメンバーのうち、王楠はすでに引退し、郭炎も若手に出場の機会を譲る可能性が高い。
 これから中国女子チームの中核となるのは、世界ランキング2位の郭躍と同4位の李暁霞。施之皓監督は、まず郭躍に対して「今年(09年)はアジアカップで優勝したものの、06・08年の世界団体戦ではともに決勝で敗れ、北京五輪でも王楠に敗れた。まだ中国女子チームの主力となるだけの条件を満たしているとは言いがたい」。続いて李暁霞には「08年に女子ワールドカップで優勝したが、その後はタイトルを獲得できていない。アジア選手権では団体決勝でスン・ベイベイ(シンガポール)に敗れ、技術的にも大きな進歩は見られなかった。総合的に見て、まだ王楠や張怡寧とはかなり大きな差がある」。期待の裏返しでもあるのだろうが、施之皓監督のコメントはかなり手厳しい。
 また、郭躍の担当コーチである孔令輝が「(郭躍は)技術的には優れているが、精神面をコントロールする能力がまだ足りない」。李暁霞の担当コーチである李隼が「激しい競争の中にあってなお、李暁霞にとっては低迷が続く1年だった。試合の重要な場面で闇雲(やみくも)に打つだけになることが多く、苦しい展開、難しい展開を打破していくことができない」と苦言を呈している。

 一方、09年は「90後」と呼ばれる、1990年以降の生まれの選手が頭角を現した年でもあった。その代表格は劉詩ウェンと丁寧。施之皓監督も「劉詩ウェンと丁寧はかなり伸びてきている。劉詩ウェンが女子ワールドカップで初のビッグタイトルを獲得したこと、丁寧がワールドチームカップやアジア選手権の女子団体決勝で素晴らしいプレーを見せたことには、合格点を与えられる」と称賛した。
 もっとも、称賛だけでは終わらないのが中国女子の厳しさ。劉詩ウェンに対しては「技術の全面性、安定したパフォーマンスは評価できるが、プレッシャーに打ち勝ち、逆境を跳ね返す力がまだ足りない」。丁寧に対しては「対カットの弱さが致命的だ。女子はカットの選手が多く、このままではロンドン五輪への出場はないと彼女にも伝えている」とコメント。ロンドン五輪へ出場するため、2010年も劉詩ウェンと丁寧に足踏みは許されない。

 技術的には他国を圧倒している中国女子。とはいえ、まだ精神面にわずかな不安要素もある。施之皓監督は警戒すべき選手として、馮天薇(シンガポール)と金キョン娥(韓国)のふたりを挙げているが、これらの選手に団体戦で失点するようだと、後の選手に大きなプレッシャーがかかり、番狂わせが起きる可能性もある。
 そうなると、精神的な支柱としてやはり張怡寧の存在感は大きい。しかし、現在長期の休暇中である張怡寧が復帰するかどうかは未定だという。「張怡寧は常に高いレベルのプレーを見せ、国家女子チームに多大な貢献をしてきた。いまは調整のための時間が必要であり、十分な休暇を与えたいと考えている。現役続行か、引退の道を選ぶか、それは彼女自身の判断に委ねたい。半年や一年くらいのブランクは、彼女にとっては大きな問題にはならないだろう」(施之皓)。張怡寧が世界団体戦のメンバーから外れるようなことがあれば、女王の現役引退が現実味を帯びてきそうだ。

Photo上:女王・張怡寧の復帰が待ち遠しいファンは少なくないはず
Photo下:一時の勢いがウソのように、09年後半は精彩を欠いた李暁霞。「90後」世代には負けられない
 12月23日に行われた「2009年国家卓球チームコーチ報告会およびコーチ選考会議」で、中国男子チームの劉国梁監督は次のような発言をしている。
「中国における卓球の競技人口は決して少なくないが、しかし年齢が低くなるにしたがって人口が少なくなっている。我々の卓球というスポーツは、単に成績を挙げるだけでは不十分だ。継続的な発展を考え、より注目を集める必要がある。金メダルを獲り続けることだけが、卓球の唯一の特徴になるようではいけない。
 卓球を通じた社会への還元、そしてより個性的な選手のモデルを作っていくべきだ。我々は次第に卓球から離れつつあるファンを、引き戻していかねばならない」。

 劉国梁監督にファンやマスコミの卓球離れを痛烈に感じさせたのは、今年11月にアジア選手権から帰国した際の衝撃だったという。アジア選手権では、男子団体決勝で日本にあと1点というところまで追いつめられながら、優勝を勝ち取った中国。近年の国際大会で、中国が最も苦しみながらつかんだタイトルだった。しかし、記者からの質問攻めにあうことを予想して降り立った北京首都国際空港で、彼らを出迎える記者はひとりもいなかったのだ。「本当に意外だった、あんなに苦しい試合をして、ほとんど負けかけていたっていうのにね。その時僕は思った、卓球に対する注目度は、間違いなく低下しているのだと」(劉国梁)。

  もっとも、中国における卓球人気の低下は、今に始まったことではない。卓球が国際社会への架け橋として絶大な人気を誇った1960~70年代をピークに、卓球は他のスポーツとの競争の中で、次第にその存在感を失ってきている。現国家女子チームコーチの孔令輝とともに、「双子星」の愛称で親しまれた劉国梁は、男子の卓球選手としては最後の国民的スターと言えるかもしれない。それだけに、卓球人気が低迷する現状が、劉監督には歯がゆいのだろう。
 王励勤や馬琳、王皓は技術的には申し分ないが、性格はどちらかというと内向的で、スター選手というにはやや物足りない。それは後に続く馬龍や許シンについても同じことが言える。男子陸上ハードルの劉翔や男子バスケットボールの姚明のように、中国人選手のパイオニアであれば、性格やプレースタイルに関わらずスターになりうるが、卓球は中国のタイトル独占が続いている。もはや強いだけの選手は国民的スターにはなれない。

「中国卓球界はリーダーシップを備えた人物を創造し、大衆の眼を卓球に向けさせねばならない。大衆は明確な個性と生まれ持ったスター性、そして勇敢かつ大胆なファイトを求めている。そうでなければ、卓球ファンの間に共感を呼び、新たなファン層を獲得していくことはできない」(劉国梁/出典はいずれも『北京晩報』)。より個性的な選手像について、劉監督は成都商報の取材に対し、意外な選手の名前を挙げている。国家男子チームの問題児である邱貽可だ。「邱貽可は若い選手たちにとって、学ぶべき個性を備えた選手だと思う。それは成績面とは関係ない。彼はコートでファイトあふれる戦いぶりを見せ、観戦しているファンを盛り上げるだけでなく、相手を気迫で上回り、精神的な打撃を与えることができる」(出典『成都晩報』)。邱貽可の地元、四川省のマスコミに対するリップサービスも多少含まれているかもしれないが、邱貽可が不思議と印象に残る選手であることは確かだろう。

 強いだけではスターになれないとは、さすが卓球大国・中国。しかし、ルックスとファイト、豪快なプレースタイルは申し分なかった陳杞がスターになり切れなかったように、成績を残すこともやはり必要不可欠だ。次代のスター候補の登場を期待したいところだが、まずは現世界チャンピオンの王皓に、かつての端正なルックスを取り戻して貰いたい気もする…。


 中国リポート、2009年は今回で最後になります。今年は長く間が空くことがしばしばあり、失礼を致しました。来年も時間のある限り更新していきますので、卓球王国HPともども、よろしくお願い致します。

Photo上:精悍(せいかん)だった頃の(?)王皓。2004年アテネ五輪より
Photo中:ルックスとファイトは抜群の陳杞
Photo下:思わぬところでお誉めの言葉を頂いた邱貽可。上から3人並べると、ルックスはなかなかですが…
 12月23日、国家体育総局にほど近い北京市崇文区体育館路の北京天壇飯店で、「2009年国家卓球チームコーチ報告会およびコーチ選考会議」が行われた。
 2005年から毎年末に行われているこの会議は、国家卓球チームのコーチ陣によるその1年間の活動報告、そしてコーチ陣に欠員がある場合は補充のための選考会議が行われる。今回は国家男子チームコーチの補充が行われる予定だ。国家男子チームの劉国梁監督は、8人の主力選手(馬琳・王皓・王励勤・馬龍・許シン・張継科・陳杞・ハオ帥)に対して次のような評価を与えている。

1. 王皓&馬龍
「ふたりとも選手としてピークの年齢を迎えつつあり、打法も他の選手より進化している。ロンドン五輪までの準備期間において、主力となるふたりだ。しかし、王皓は水谷隼とボルに相次いで敗れ、消極的で平凡なプレーだった。馬龍はビッグゲームでタイトルを獲得できず、ワールドカップではサムソノフに、アジア選手権では岸川聖也に敗れている。これは馬龍にまだ乗り越えるべき壁があることを示している」

2. 王励勤&馬琳
「王励勤と馬琳のふたりのベテランは、すでに競技生活も終わりに近づきつつある。ロンドン五輪への出場は非常に困難だ。年齢や技術的な限界、そしてふたりの性格がかなり内向的であることから言っても、チームのリーダーとなることは難しいだろう」

3. 張継科&許シン
「この一年は、ふたりにとって鍛錬の一年だった。彼らはまさに伸び盛りで、まだ成績を残すような段階ではないが、五輪に出場するためにはビッグゲームでの経験と鍛錬が不可欠だ。ロンドン五輪までの1回の世界選手権(個人戦)と、2回の世界団体選手権で、彼らを鍛えていかねばならない」

4. 陳杞&ハオ帥
「まだふたりとも、代表への道を諦めてはいないだろう」

 …王励勤と馬琳に対するコメントは、事実上の「引退勧告」とも思えるほど厳しい。2012年ロンドン五輪では、北京五輪での団体戦の採用に続き、シングルスの出場枠が各国2名までに減る可能性があると言われている(卓球王国2010年2月号P.52/シャララITTF会長インタビューを参照)。北京五輪で男女シングルスとも3枚のメダルを独占した中国にストップをかけるためだ。そうなれば、(体重を落とした)王皓と馬龍がロンドン五輪への最短距離にあることは明らか。王励勤には五輪金メダル獲得という夢を実現してほしかったが、やはり北京五輪がラストチャンスだったようだ。
 同様に、ここ数年プロツアー以外では目立った成績のない陳杞とハオ帥も、ロンドン五輪への道は限りなく細く険しい。同じ左シェークドライブ型で、07年世界選手権では4回戦でハオ帥が陳杞を破り、ベスト8に入っている。しかし、04年アテネ五輪で男子ダブルス金メダリストになり、世界選手権でも団体と男子複で4枚の金メダルを獲得した陳杞に比べ、ハオ帥はやや薄幸なイメージだ。ダブルス要員としても、陳杞に続いて許シンが頭角を現してきた。国家チーム引退は、そう遠い話ではないかもしれない。

 そして劉国梁監督は、中国における卓球の現状について、危機感をあらわにしている(その2に続きます…)。

Photo上:例年になく厳しいコメントが続いた劉国梁監督
Photo中:「今年は一気に行くか?」と思われた馬龍だが、思わぬ黒星も相次いだ
Photo下:世界選手権横浜大会では、男子ダブルスと混合ダブルスで3位に入ったハオ帥
 はや12月も半ば、目の前に迫りつつある2010年。今年2009年の中国卓球界は、男女とも有望な若手が次々と飛び出してきた。男子では張継科と許シン。09年12月発表の世界ランキングを1年前の08年12月のものと比較してみると、張継科は51→11位、許シンは113→18位といずれもジャンプアップ。一方の女子も、劉詩ウェンと丁寧が一気に世界ランキングのトップ10入りを果たしている。

 長く中国の屋台骨を支えて来たベテラン選手と、これらの勢いのある若手選手たちは、2010年から本格的にロンドン五輪へのスタートラインに立つ。国家男子チームの劉国梁監督は、2010年世界団体選手権モスクワ大会の代表選考会「直通莫斯科(直通モスクワ)」で、団体代表メンバー5名のうち2~3名を選出することを明らかにした。
 国家男子1軍チームは来年1月の年明け早々から、福建省厦門市の中国卓球訓練基地で集合訓練に入る。2010年の春節(2月14日)が明けるとすぐにITTFプロツアー・カタールオープン(2月17~21日)とクウェートオープン(2月23~27日)が行われるため、「直通莫斯科」は1月末の開催となるようだ。

 今年2~3月に行われた「直通横浜」では、第1・第2ステージに分けて総当たりのリーグ戦が2回行われ、さらに男女代表決定戦も開催された。国家チームは「公平・公開・公正」というスローガンのもと、選手たちに均等に機会を与えることをアピールしている。しかし、「直通横浜」では王励勤が地力で代表権を獲得できず、救済措置のような形でシングルスの代表に選ばれ、物議をかもした。男子シングルス3連覇という大記録がかかっていたこと、また王励勤が横浜大会で準優勝という好成績を収めたことで批判の声は抑えられたが、もし王励勤が早いラウンドで敗れていたら、大きな問題になっていたかもしれない。
 華西都市報(四川省)は12月18日付の記事で「“直通”の選抜制度はより公平であるべき」という記事を掲載。過去の戦績、試合経験などを考慮したコーチ陣による選考に理解を示しながらも、「“直通”での選抜制度はすべての代表メンバーを決めるものではなく、“直通”以外の代表メンバーの決定権は、すべてコーチ陣に委ねられている。現在の選抜制度は、詰まるところ“エキシビションマッチ”に過ぎない。真に公平な選抜の機会と言えるだろうか?」と疑問を呈している。

 選考会で出場枠をすべて決定する方式だと、95年世界選手権・団体戦で優勝の立て役者となった丁松(右シェークカット+攻撃型)のような用兵は難しくなる。秘密兵器と言われる選手の多くは、慣れられている国内では成績が伸びないからだ。若手の育成という観点からも、選考会で選手をすべて選ぶというのは難しい。「直通莫斯科」で思いがけない伏兵が飛び出してくると、改めて「直通~」の選考制度にスポットが当たることになりそうだ。

Photo上:前回の「直通横浜」で王励勤、馬龍らを連破。総合2位と大健闘した張超
Photo下:「直通横浜」で第1・第2ステージとも1位。安定した強さを見せた王皓
 コロンビアのカルタヘナで行われていた第7回世界ジュニア卓球選手権は、16日(水)に全日程を終了。中国が初めて7種目完全制覇を果たした。しかも男子シングルス、女子シングルスともにベスト4を中国が独占。近年、世界選手権で繰り返されている光景が、世界ジュニア選手権でも再現される結果となった。

 今大会生まれたもうひとつの新記録は、前大会で女子初の4冠王となった曹麗思(中国)に続き、男子初の4冠王が誕生したことだ。その名は方博(ファン・ボォ)、1992年1月9日生まれの17歳。
 中国屈指の名門・山東魯能卓球学校出身の方博、戦型は右シェーク両ハンドドライブ型。06年アジアジュニア選手権のカデットで国際大会に登場したが、カデット団体決勝では日本の松平健太、上田仁に連敗している。国家2軍チーム時代の08年4月に国家女子1軍チームとエキシビションマッチを行い、郭躍に3-1、王楠に3-0で完勝。続く08年6月には「2008“雲台山杯”U-17中国オールスターマッチ」で、準決勝で閻安、決勝で宋鴻遠を下してタイトルを獲得している。この頃から次第に頭角を現していったが、国家2軍チームの李屹総監督には「方博の最大の弱点はフットワーク。体重がありすぎるから、いかに早くうごけるかが今後の課題になるだろう」と評されている。

 この李屹総監督の評価に対し、方博は見事に答えを出した。国家2軍(ジュニア)チームから1軍チームへ昇格し、今年3月の世界代表選考会「直通横浜」では総合15位に終わったものの、馬琳、張継科らを撃破。以前は下半身がややぽっちゃりしていて、上半身はまだ細い体つきだったが、09年9月の全中国運動会で見た時には体つきがはるかに逞(たくま)しくなり、シニアクラスの選手に生まれ替わっていた。
 プレーにはまだ台上での攻めの厳しさはないが、前陣で打たれ強く、中陣からフルスイングの両ハンドドライブを放つ。一発のフォア強打の威力では同世代のライバル閻安のほうが上かもしれないが、バックハンドとラリー戦での強さでは方博に軍配が上がりそうだ。全中国運動会の男子団体準決勝でも、世界チャンピオンの王皓と堂々とラリー戦を引き合ったが、シングルスで左ペン表速攻型の孫建に完敗するあたり、対応力はまだこれからの課題か。

  豪快な両ハンドドライブのプレースタイルから、中国では「リトル馬龍」と呼ぶ人もいる方博。人材不足と言われる中国男子のU-17世代の中で、存在を大いにアピールした。2011年世界選手権ロッテルダム大会(個人戦)での代表入りが、当面の目標になりそうだ。

Photo上:カンフーをやっていそうな雰囲気もあるガッツマン・方博
Photo下:全中国運動会のマスコット「泰山童子」にちょっと似てると思ったのは、筆者だけでしょうか…
 コロンビア・カルタヘナで行われている2009Volkswagen世界ジュニア選手権は、男女団体戦を終了。中国が男女アベック優勝を決めた。低空かつ不安定な飛行だった男子に比べ、女子は実力、選手層の厚さともに他チームを圧倒。予選リーグ3試合、準々決勝~決勝の3試合、計6試合を全てストレートで制しただけでなく、なんと相手チームに1ゲームも与えなかった。
 世界ジュニアでは03年第1回大会から、女子団体7連覇を達成した中国。これまでの大会では日本、韓国やルーマニアが意地を見せ、中国の完全優勝を阻んできたが、今回の中国の勝ちっぷりは衝撃的。これ以上の勝利を望むとしたら、デュースに持ち込まれた3ゲームを9点以下に抑えるということくらいだが、それはさほど意味を成さないだろう。

 それにしても、今回の中国女子のメンバー構成を見ると「もう出なくていいのでは?」と思う選手もいる。05年大会準優勝で、前回大会4冠王の曹麗思は世界ジュニアはもう「卒業」してもいいはず。そして世界ランキング35位の武楊に至っては、8月の中国オープンで帖雅娜(香港)、馮天薇(シンガポール)に完勝して準優勝、11月のアジア選手権でも福原愛(ANA)を破ってベスト8に入っている。アジア選手権で優勝した丁寧も、この武楊に当たっていたらどうなっていたかわからない。その実力は完全にジュニアレベルを超えているのだ。

 武楊は1992年1月5日生まれの17歳、出身は山西省。05・06年全中国ジュニア優勝、06年全中国選手権では団体戦で王楠と李暁霞を破り、注目を浴びた。戦型は右シェークフォア裏ソフト・バック表ソフトのカット主戦型。フォアカットは切れ味鋭く、バックカットはナックルも織り交ぜ、対戦相手のミスを誘う。金キョン娥に代表される韓国のカットスタイルはバック面にツブ高を使用し、ボールが台の外に出てくるまで引きつけてカットやツッツキをする場面が多いが、武楊は積極的な台上ツッツキで相手を揺さぶり、チャンスには威力のある攻撃を仕掛けていく。おかっぱ頭と射るような鋭い眼光、鎌で刈るような一撃必殺のカットにフォアドライブ。この武楊には「耐えて忍んで」という昔ながらのカットスタイルは当てはまらない。
 武楊が中国女子の主力に成長するかどうかは微妙なところだが、ノングルー時代を迎えた現在、国家チームの首脳陣が注目する存在であることは間違いなさそうだ。世界ジュニアの女子シングルスでは、初戦となる2回戦でゴンデリンガー(ルクセンブルク)を11-5、11-4、11-4、11-2と一方的なスコアで退けている。「張怡寧を破った女」、この武楊を一体誰が止められるのか…?

Photo:09年アジア選手権での武楊のプレー。カット主戦型とは思えない、ダイナミックな攻撃フォーム