100年以上の歴史のある世界卓球選手権で、一度だけ女子シングルスの優勝者が2人いる大会がある。1937年バーデン大会だ。
この前年、1点取るのに1時間以上もかかるという、あまりにもラリーが続きすぎる問題があったため、この年は「試合が始まってから1時間45分以上たっても勝者が決まらなければ両者失格」という乱暴なルールが適用された。この見せしめのようなルールにすればさすがに早く決めに行くだろうという読みだ。
ところが女子シングルスの決勝、アメリカのアーロンズとオーストリアのプリッツィは意地になって粘り切り、本当に両者失格となってしまった。アーロンズは前年のチャンピオンだがこの判定にショックを受けて卓球界を去ってしまった。一方、プリッツィは翌年チャンピオンとなった。
このようないきさつで、卓球史においては長い間、1937年の女子シングルスは「優勝者なし」だったのだ。それから64年後の2001年に国際卓球連盟は、この判断が間違っていたことを認め、両者をチャンピオンとして名誉を回復した。アーロンズはすでに亡くなっていた(プリッツィは不明)。
2人の世界チャンピオンの記録は、その悲劇の痕跡なのである。