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全日本卓球選手権大会

 今大会は大島祐哉と組む男子ダブルスのみのエントリーとなった水谷隼。開会式後の会見では、天皇杯返還の時の心境を尋ねられ、こんなコメントを残した。「(優勝を)いっぱいしたなと思いましたね。レプリカもたぶん10個目だとおもうんですけど、たくさんいただいて。でもこの全日本選手権が始まると、自分自身興奮してきたというか、勝ちたいなという気持ちが沸いてきたので、またいつか出場することも考えています」。……何とも思わせぶりな「水谷節」。そして水谷節はまだ止まらない。

 「今まで10回優勝して、ダブルスで7回優勝して、その水谷隼というのはもし今回ダブルスで優勝したら完全に引退すると思います。ただ生まれ変わって、違う自分として全日本選手権に出たいという気持ちはあります。そこでは全日本で優勝するだけの力はないと思うんですけど、持っている力をすべて出し尽くして、優勝を狙っていきたいとは思っています」(水谷)

 戦術、技術、練習に用具とすべての面において徹底して勝利にこだわり、誰よりも繊細に神経を注ぎ続けてきた水谷隼。そんな彼が、「自分の集大成、すべての力を出し切りたい」という東京五輪を最後に、「ニュー水谷」に生まれ変わるというのか。多彩な戦術と守備力の高さを考えれば、まだまだ勝ち星は稼げる。全日本シングルス通算84勝の水谷。連続優勝の記録を塗り替えるだけでなく、通算勝利数でも齋藤清の持つ101勝という記録が視野に入ってくる。

 「ぼくにとっては、いつもと同じ全日本という感じですけど、周りからは『すごくリラックスしてるね』とか、『試合に出ないからいつもと全然違うよ』と言われる。全日本の期間中は食事がのどを通らないことも多いんですけど、今年は違いますね。組み合わせに自分の名前がないだけで全然違う。
 もともとダブルスや団体戦は全然緊張しない。シングルスはとにかく自分の責任になってしまうので、緊張することが多いんですけど、ダブルスや団体戦ではあまり緊張したことがない。今後も卓球を続けていくならダブルスとか団体戦に出場したい」(水谷)

 ……結局、来年の全日本はシングルスに出るのか、どうなのか。名言を交えながら、報道陣を煙に巻いた水谷。この男の行くところ、話題は尽きない。
  • 果たして来年、ニュー水谷の登場はある?

 「目の前の試合」という言葉を、10回以上は使っただろうか。オリンピックイヤーを占う年明けの全日本選手権で、3年連続3冠という偉業への挑戦。それでも伊藤美誠は開会式後の会見で、「目の前の試合で自分の力を出し切ることが大事」と何度も繰り返した。

 成績を目標にしてしまうと、どうしても先を見て試合をすることになり、メンタルが影響を受けてしまう。目の前の試合で、1球ずつベストのボールを打ち続ければ、自ずと結果はついてくる。「目の前の試合」や「一戦一戦」という言葉は、コメントでは「おきまり」のキャッチフレーズだが、伊藤ほど徹底して実践している選手はそういないだろう。以下は会見でのコメント。

 「毎年、全日本選手権がその年度の初戦ということで、1戦1戦すごく大事にしたいと思っています。たくさん練習してきたので、試合するのがすごく楽しみですし、今日はミックスの初戦があるので、私らしく自分のプレーをして、楽しんでいけたらと思います。

 もちろん出るからには3種目とも優勝を目指しますけど、まずはミックスダブルスの初戦ですね。そこで勝って女子ダブルス、シングルスとつなげていきたい。目の前の試合で自分の力を出し切ることが大事で、それが目標でもあります。

 (ファンの方には)目の前の試合を楽しんでいるところを見てもらえたらいいなと思います。あとは実力が上がった自分を見てほしいなと思います。東京五輪に向け、1日1日がすごく大事になってきますけど、いつもと変わらず自分らしくいたいというのが今年の目標でもあります。目の前の戦いをやり抜いて、五輪につなげていきたいし、今は全日本に集中したい。

 3種目出るうえでは、気持ちの切り替えがすごく大事になってきます。練習をしっかりしてきたので、体力は保つと思いますが、一番大事なのはやはり頭の切り替え、気持ちの切り替え。勝っても切り替えをなるべく早くして、次の試合に備えたい。ミックスが全部終わってから女子ダブルスが入るのは自分にとってありがたい。ミックスにしっかり集中できるなと思います」(伊藤)
  • 「自分らしくいたいというのが今年の目標」と語る伊藤

 1月13日午前10時、昨年に続いて会場となる大阪・丸善インテックアリーナ大阪で、全日本選手権の開会式が行われ、7日間の熱戦がスタートした。開会式では前回チャンピオンの水谷隼(木下グループ)、伊藤美誠(スターツ)が天皇杯と皇后杯を返還。今年はダブルスのみエントリーした水谷は穏やかな表情、伊藤はいつもどおりの笑顔を見せていた。

 選手宣誓は伊藤美誠。「宣誓、我々選手一同は、歴史と伝統のある天皇杯・皇后杯2020年全日本卓球選手権大会の舞台に立てることを誇りに思い、これまで積み上げてきた努力の成果を発揮するとともに、支えてくださった方々への感謝の気持ちを忘れず、一球一球心をこめて、最後までプレーすることを誓います」と高らかに誓いの言葉を述べた。

 大会第1日目は混合ダブルス1・2回戦、ジュニア男子1回戦、ジュニア女子1・2回戦が進行。混合ダブルス2回戦では3連覇を目指す森薗政崇・伊藤美誠(BOBSON・スターツ)、張本智和・長﨑美柚(木下グループ・JOCエリートアカデミー/大原学園)などの強豪ペアが早くも登場する。今年も熱戦の数々を、ホットな写真と文章でお伝えします!
  • 10回目の天皇杯返還を行った水谷

  • 終始笑顔がのぞいた伊藤、3連覇への挑戦が始まる

  • 選手宣誓は伊藤。ビシッと決めました!

 男女シングルスの他にも、注目トピックスは盛りだくさん。男子シングルスは欠場となった水谷隼(木下グループ)だが、男子ダブルスには出場。今大会で優勝を果たすと、松下浩二、渋谷浩の持つ7回の記録を抜き、単独1位の8度目の男子ダブルス優勝となる。前回大会と同じく、大島祐哉(木下グループ)とのペアで出場するが、ダブルスでも歴代1位の座をつかみ取るか。

 次に今大会の男女シングルスの最年少出場者。男子は小学6年の松島輝空(木下グループ)で一般シングルスは今回が初出場、女子は小学5年の張本美和(木下グループ)で昨年に続き2年連続での一般シングルス出場となる。張本は前回大会で3回戦まで進出。松島も世界選手権1次選考会で金光宏暢(日本大)らから勝利を上げており、一般でも十分に戦えるポテンシャルはある。松島はジュニア男子と混合ダブルスにも出場しており、大会1日目から登場。昨年ベスト8まで勝ち進んだジュニアでは、張本智和(木下グループ)以来の小学生での表彰台を狙う。張本はジュニア女子、女子ダブルスに出場し、こちらも大会初日第1試合から登場する。

 女子はジュニア世代も将来性溢れる逸材揃いで、ジュニア女子でも白熱の優勝争いが繰り広げられそうだ。世界ジュニア優勝の長﨑美柚(JOCエリートアカデミー/大原学園)は今回エントリーがなかったが、昨年度大会でサプライズVを果たした出澤杏佳(大成女子高)が連覇を狙う。ジュニア女子の連覇となれば、2006〜2009年度大会で4連覇の石川佳純(全農)以来となる。今大会は中学生に有望株が揃っており、前回大会で中学2年にして決勝に進んだ大藤沙月(ミキハウスJSC)、中学2年にして一般準優勝の木原美悠(JOCエリートアカデミー)、世界ジュニア準優勝の中学1年の小塩遥菜(JOCエリートアカデミー)と注目株がめじろ押し。Tリーグでも勝利をあげた中学3年の赤江夏星(貝塚第二中)も高い攻撃力で大器の予感漂う。
  • 前回は3位に終わった水谷・大島。2年ぶりVで記録更新なるか

  • 一般男子最年少の松島。ジュニアでも期待がかかる

  • 張本は小5にして2年連続の一般シングルス出場

  • 出澤は石川以来のジュニア連覇に挑む

 続いて女子シングルスの展望を見ていく。女子の優勝戦線を引っ張るのは、現在2連覇中の伊藤美誠(スターツ)。世界ランキングを3位まで上げており、中国選手とも互角の戦いを繰り広げるなど、変幻自在の速攻プレーはこの1年間でさらに凄みを増した。女子シングルス、女子ダブルス、混合ダブルスと3種目のエントリーになるが、目の前の1試合1試合に集中しきれる精神力、そして重圧にも動じない鋼の心臓で優勝へ突き進む。3年連続の3冠となれば、男女通じて史上初の快挙。19歳の若き女傑が全日本の歴史に新たな伝説を刻むか。

 伊藤とともに五輪代表に内定している石川佳純(全農)、平野美宇(日本生命)はV奪還を目指す。両者は勝ち上がると準決勝での対戦となる。サービス・レシーブからのフォアドライブは鋭さを増した石川。女子の出場選手の中では「ベテラン」にあたる年齢となったが、プレーはより力強く進化中。平野は五輪シングルス代表を逃した悔しさ、選考レースの重圧から吹っ切れたような怒濤の猛攻が復活し、12月の世界選手権代表選考会を制した。前回大会では石川は早田ひな(日本生命)、平野は木原美悠(JOCエリートアカデミー)と年下に不覚をとったが、今大会は「さすが五輪代表」というプレーを見せたいところだ。

 五輪代表3人以外にも、多士済々の日本女子。昨年度大会では石川を破るなど、圧巻のプレーを見せた早田ひなは今大会第4シード。準決勝まで勝ち上がると伊藤と昨年のリベンジマッチとなる。持ち前の女子選手離れした両ハンドにサービス・レシーブが磨かれ、得点力が向上。このところ爆発力が鳴りを潜めている感があるが、全日本で再び会心のプレーを見せるか。前回大会ベスト8の加藤美優(日本ペイントホールディングス)は、よりアグレッシブなスタイルにパワーアップ。押し引き自在のラリーに加えて、打ち合いにも強くなり、12月の世界選手権選考会では平野と互角の打ち合いを演じた。
 佐藤瞳、芝田沙季、橋本帆乃香のミキハウス3人衆も上位候補。芝田はこの1年、インパクトのある活躍を見せられなかったが粘りと攻撃力の高さで実力をアピールしたい。丁寧(中国)に2連勝するなど、国際大会で強さを見せる佐藤だが、世界選手権選考会時に「海外選手より日本選手のほうがボールをしっかり選んで打ってくる」と同士討ちに課題を見せる。橋本も同様に、カット攻略に定評のある日本選手に勝ち続けるには何かブレークスルーが欲しいところだ。

 前回大会、史上最年少で決勝に進んだ木原美悠、日本女子初の世界ジュニア女王に輝いた長﨑美柚(JOCエリートアカデミー/大原学園)とジュニア勢も先輩に割って入りたい。木原のブロックには平野のほか、橋本、加藤、出澤杏佳(大成女子高)、さらに同学年の大藤沙月(ミキハウスJSC)がおり、混戦が予想される。長﨑は勝ち上がるとベスト8決定戦で佐藤との対戦となる。
 故郷・大阪で5年ぶりの表彰台となった森さくら(日本生命)、初のベスト8入りを果たした安藤みなみ(十六銀行)も上位を伺う。安藤はベスト8まで進出すると伊藤との対戦。伊藤を撃破した2016年度大会の再来なるか。成本綾海(中国電力)、野村萌(デンソー)と日本リーガーも意地を見せたい。
  • 史上初の3年連続3冠に挑む伊藤

  • 石川は4年ぶり5度目の栄冠を目指す

  • トップ12では復調を予感させた平野

  • 早田も虎視眈々と上位を伺う

 明日よりスタートする2020年全日本選手権。まずは男子の展望から。昨年度大会で、前人未到のV10を達成した水谷隼(木下グループ)は、優勝インタビューで語ったとおり、今大会のシングルスを欠場。男子シングルスは前回王者不在の中での戦いとなる。

 その中で、実力で頭ひとつ抜き出た存在が張本智和(木下グループ)。ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ前回大会は準決勝で涙を呑んだが2年ぶりの頂点を目指す。この1年間でさらに力をつけ、スピーディーな連打にパワーも上昇中。特にフォアの威力は目を見張るものがある。11月の男子ワールドカップでは馬龍(中国)を破り、樊振東(中国)にも肉薄。12月のワールドツアー・グランドファイナルでは宿敵・許シン(中国)を追いつめ、ジャパントップ12でも他を圧倒するプレーで優勝を果たした。東京五輪が控える勝負の2020年、まずは全日本制覇でロケットスタートを切りたいところだ。

 張本を追う1番手は、同じく五輪代表に内定した丹羽孝希(スヴェンソン)。一時期はワールドツアーで初戦敗退を繰り返すなど、低迷したが実力は本物。全日本では優勝した2012年度大会以降、ベスト4が一度だけと上位進出はないが、五輪選考レースの重圧から解き放たれ、センスフルなプレーが炸裂すれば優勝も大いにあり得る。張本とは準決勝での対戦となるが、初戦となる4回戦で今大会にノーシードで臨む松平健太(T.T彩たま)との対戦が予想される。いきなり難敵との対戦となるが、ここを乗り切って快進撃を見せたい。

 12月の世界選手権選考会を制した森薗政崇(BOBSON)は足を使ったオールフォアのスタイルから両ハンドのバランスを重視したスタイルへ変身。伊藤美誠(スターツ)をヒントに取り入れた巻き込みサービスも選考会では光っていた。前回大会終了後、プロに転向し実力を急上昇中、世界ランキング44位の神巧也(T.T彩たま)も注目。第3シードの田添響(木下グループ)のヤマに入ったが、誰が抜け出してもおかしくはないブロック。準優勝した2014年度大会のようなスパークを見せるか。
 今大会はシードを獲得できなかった松平健太もTリーグでは高い実力を見せており、丹羽を沈めて上位に絡む可能性はある。吉村真晴(名古屋ダイハツ)、吉村和弘(東京アート)も爆発力を武器に上位を狙う。昨年度準優勝、今大会第1シードの大島祐哉(木下グループ)は昨秋、背中の手術を受けたばかり。復帰後、Tリーグで数試合に出場したが、どこまで試合勘を戻せるか。
 38歳・吉田海偉(東京アート)も注目。この1年間、団体ではチームのポイントゲッターとして活躍、全日本社会人でも準優勝と健在ぶりを見せた。若手が多いブロックで、熟練のプレーを見せたい。宇田幸矢(JOCエリートアカデミー/大原学園)、戸上隼輔(野田学園高)の高3コンビもジュニア最後の全日本で、飛躍のきっかけをつかみたい。
  • さらに力をつけた張本。2年ぶりの優勝なるか

  • 天才・丹羽、久しぶりに全日本で存在感を見せたい

  • 選考会を制した森薗も上位候補

  • 絶好調のお祭り男・神、大阪に咆哮轟かすか

 1月13〜19日に丸善インテックアリーナ大阪で開催される「天皇杯・皇后杯 2020年全日本卓球選手権(一般・ジュニアの部)」。今年も卓球王国で総力取材、現地速報をお送りします。お楽しみに!


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