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全中国運動会・速報2017

 それはあまりにも痛々しい光景だった。すでに何枚もテーピングが貼られた左肩に、試合が終わるたびに大きな氷嚢でアイシング。チームドクターや若い選手がラップを巻き付けて固定していく。それでも許シンは、コートに立てば後陣からパワードライブを連発した。

 試合後の会見で「故障はプロの選手にはつきものだから」と許シンは語った。「でも前回の全中国運動会の決勝で2点落としたのは、故障が原因ではなかった。プレッシャーに直面した時にそれを跳ね返す力が足りなかったからだし、今回の準決勝で樊振東に敗れた試合もそうだ。でもそれらの敗戦の後で、たくさんの反省をして、『必ず勝つ』という信念はより強固なものになった」(許シン)。

 6月のジャパンオープンの大会初日、宿泊先のホテルで許シンにインタビューをした時、こんなことを言っていた。「ひとたび気を緩めたり、勝てそうにないと感じてしまうとあっという間に敗れてしまう。それがペンホルダーというスタイルで、ペンホルダーの一番難しいところなんだ」。その言葉どおり、相手をかわそう、いなそうと思ったら許シンのプレーは成立しない。

 左肩の故障は、現役選手としてプレーしていく以上、つきあい続けていくしかないのだろう。それでも黙々と振り続けた左腕。そんなエースの姿を見て、チームメイトが燃えないわけがなかった。個人戦の初戦は、団体決勝トップで対戦した許鋭鋒戦、ベスト8決定戦は周啓豪vs于子洋戦の勝者。なるべく体力を温存して勝ち上がりたいが……、それは許されないだろう。
  • 団体決勝で勝利し、背中の名前を指差す。…このパフォーマンスはちょっと地味

  • 許シンの指がものすごく長いことに気づきました

  • 後陣で、珍しく表(おもて)面でのプレー

  • 担当コーチの呉敬平コーチ(左)と許シン

 全中国運動会もはや大会6日目。取材をスタートさせてから4日目になる。大会は今日から個人戦が始まり、第1試合となる混合ダブルス1回戦(ベスト8決定)のスタートは現地時間14時半とややゆっくり。しかし夜に入ってから、男女シングルス1回戦が怒涛の試合ラッシュになっている。最終試合のスタートが現地時間21時15分からとは……。
 今日のタイムテーブルおよび対戦カードは下記のとおり。張継科が男子シングルス1回戦に出場するので、またファンが大挙して押しかけるだろう。対戦相手は16年世界ジュニア代表の于何一。オーソドックスな右シェークドライブ型だが、張継科にとって楽な試合ではなさそうだ。

★9月2日のタイムテーブル

[混合ダブルス1回戦(ベスト8決定戦)]
●15:30〜(現地時間14:30〜)
樊振東/朱雨玲(解放軍/四川省) vs. 宋旭/孫銘陽(寧夏回族自治区)
蔡偉/銭天一(江蘇省) vs. 張超/張美竹(広東省)
梁靖崑/文佳(河北省/遼寧省) vs. 王博/車暁㬢(黒龍江省)
張煜東/蒋慧(江蘇省/西蔵自治区) vs. ハオ帥/王芸迪(天津市/雲南省)

●16:00〜(現地時間15:00〜)
于子洋/王曼昱(黒龍江省) vs. 房胤池/蘭㬢(遼寧省)
翟羽佳/孫ウェン蕾(浙江省) vs. 閻安/顧玉ティン(北京市/山東省)
徐英彬/劉銘(黒龍江省/雲南省) vs. 許鋭鋒/范思琦(四川省)
周雨/木子(解放軍) vs. 林高遠/劉詩ウェン(広東省)

[混合ダブルス準々決勝]
●16:30~(現地時間15:30~)/●17:00~(現地時間16:00~)

[女子シングルス1回戦]
●20:00~(現地時間19:00~)
楊惠菁(四川省) vs. 文佳(遼寧省)
張瑞(湖北省) vs. 張ビン月(西蔵自治区)
張薔(江蘇省) vs. 孫穎莎(河北省)
王曼昱(黒龍江省) vs. 顧玉ティン(山東省)
商圓圓(安徽省) vs. 劉斐(江蘇省)
李暁丹(山西省) vs. 蘭㬢(遼寧省)
劉銘(雲南省) vs. 朱雨玲(四川省)
劉高陽(山東省) vs. 馮亜蘭(湖北省)

[男子シングルス1回戦]
●20:45~(現地時間19:45~) 
劉イ(河北省) vs. 張超(広東省)
朱誠(江蘇省) vs. 劉丁碩(山東省)
馬特(天津市) vs. 周雨(解放軍)
黄鎮廷(香港) vs. 程靖チィ(河北省)
彭飛龍(上海市) vs. 王楚欽(北京市)
周愷(解放軍) vs. 徐英彬(黒龍江省)
于何一(河南省) vs. 張継科(山東省)

[女子シングルス1回戦]
●21:30~(現地時間20:30~)
盛丹丹(北京市) vs. 李佳イ(遼寧省)
陳可(江蘇省) vs. 武楊(山西省)
杜凱琹(香港) vs. 何卓佳(河北省)
范思琦(四川省) vs. 王芸迪(雲南省)
車暁㬢(黒龍江省) vs. 蒋慧(西蔵自治区)
※シードの丁寧、劉詩ウェン、陳夢は3日昼の2回戦から登場

[男子シングルス1回戦]
●22:15~(現地時間21:15~)
許シン(上海市) vs. 許鋭鋒(四川省)
周啓豪(広東省) vs. 于子洋(黒龍江省)
薛飛(湖北省) vs. ハオ帥(天津市)
寥泓然(解放軍) vs. 方博(山東省)
閻安(北京市) vs. 孔令軒(山東省)
羅錚(海南省) vs. 夏易正(河南省)
梁靖崑(河北省) vs. 劉吉康(遼寧省)
※シードの馬龍、樊振東は3日夜の2回戦から出場
 男子団体での優勝を決め、コートで歓喜の円陣を組んだ上海市チーム。実は、試合前にもベンチ裏で円陣を組んでいた。まるでインターハイに出てきたチームのように。
 準決勝で解放軍という最大の難敵を破り、もう片方のブロックから勝ち上がってきたのは、馬龍のいる北京市でもなく、選手層の厚い広東省でもなく、ダークホースの四川省。しかし、彼らには少しも油断や隙は観られなかった。

 前回大会の決勝で解放軍に敗れた上海市。エース許シンが2失点を喫して敗れた。しかし、この敗戦を糧に全中国選手権の男子団体では14・15・16年大会で3連覇を達成。今大会で、全国大会の団体戦で4回連続優勝を果たし、チームの選手たちが指で「4」を作って集合写真に収まった。

 この優勝はもちろん、エース許シンの活躍なしにはあり得なかっただろう。決勝でも試合後には左肩をガチガチにアイシング。先の個人戦より、団体戦に全力投球という気合いを感じた。そして2番手の尚坤の存在も大きい。コートに立てば常にハッスルプレー。優勝会見では最後の質問が締め切られた後、地元の上海のメディアを見つけて、「彼らにも質問をさせてあげてくれないかな」と司会者に頼む優しい男だ。

 表彰後には上海市の卓球・バドミントン管理センターの主任である王励勤がフロアに下りてきて、選手たちが揃ってメダルを首にかけてあげるひと幕も。王励勤もなし得なかった男子団体優勝を成し遂げた、メンバーたちの表情は誇らしげだった。 
  • 男子団体優勝の上海市チーム。おめでとう!

  • 男子団体2位の四川省チーム。女子に負けじと活躍

  • メダル攻めに合う王励勤

  • 4大会連続優勝で「4」!

  • 会見にも「良い人感」がにじみ出る尚坤

●男子団体決勝
〈上海市 3ー0 四川省〉
○許シン 5、8、6 許鋭鋒
○尚坤 3、9、7 朱霖峰
○趙子豪 8、3、ー7、8 厳昇

男子団体決勝、上海市がストレートで四川省を破り、1965年に行われた第2回大会以来の優勝を飾った!

試合が始まる前、まるでインターハイに出てきた高校のように、ベンチ裏で円陣を組んだ上海市チーム。前回の決勝で解放軍に敗れた屈辱を晴らすべく、気合いが入っていた。

トップ許シンは許鋭鋒の「後の先」のカウンターに手を焼きながらも、レシーブから少しでもあまいサービスは狙い打ち、後陣では傷めた肩も折れよと言わんばかりのフルスイングを見せた。2番尚坤も台上からの攻めの速さ、プレー領域の広さの差を見せて、朱霖峰とのサウスポー対決に快勝。

3番は右ペン両面裏ソフトの趙子豪と、右ペン表ソフト+裏面ドライブの厳昇のペンホルダー対決。裏面でのバック対バックの展開で趙子豪が優位に立ち、厳昇の連続スマッシュにも堅い守りを見せた。厳昇もフォアのナックル性の合わせ打ち、回り込んでバックストレートへのフォア強打で1ゲームを返したが、反撃もここまで。

優勝の瞬間、殊勲者の趙子豪に尚坤が飛びつき、次々とチームメイトが駆け寄って歓喜の円陣。大団円のエンディングとなった。
  • 真のエースとしての貫禄を見せた許シン

  • チームプレーに徹する尚坤の存在は大きかった

  • 1ゲームを奪い、上海市に一矢報いた厳昇

  • 3番で勝利した趙子豪のもとに駆け寄り、歓喜の輪ができた

 女子団体決勝に続いて、フロアでは女子団体の表彰が行われた。四川省チームは、監督の邱貽可(03年世界選手権ベスト8)を筆頭に、晴れやかな笑顔。まだ青年監督の雰囲気がある邱貽可、応援では「ヨーレイ!ヨーレイ!」と選手さながらのノリでベンチを盛り上げていた。

 黒龍江省の王曼昱も、表彰式ではもう涙は見せなかった。まだ若い彼女にとって、一つひとつが貴重な経験になる。
  • 女子団体優勝の四川省チーム

  • こちらは準優勝の黒龍江省チーム

  • 北京市チームは、丁寧の笑顔が印象的だった

●女子団体決勝
〈四川省 3ー1 黒龍江省〉
 郭艶 ー2、ー2、ー5 王曼昱○
○朱雨玲 4、8、8 車暁㬢
○范思琦 ー10、8、3、ー10、8 王シュアン
○朱雨玲 7、6、ー4、ー8、9 王曼昱

女子団体優勝は四川省!
2016年の全中国選手権団体に続き、頂点に立った!

トップで王曼昱が、チキータからの強烈なバックドライブ連打で郭艶を圧倒すれば、朱雨玲が隙のない攻守で車暁㬢の豪打を跳ね返す。前半は両チームのエースが1点ずつ取り合い、迎えた3番がひとつのポイントになった。

19歳の范思琦、王シュアンのバック表ソフトのクセ球に対し、やや台から距離を取り、弧線の低い両ハンドドライブを粘り強く連打。第4ゲーム10ー8のマッチポイントから、強打のミスが続いて逆転されるなど、苦しい苦しい戦いだったが、最後まで打ち切った。

4番は朱雨玲と王曼昱のエース対決。第1ゲームは朱雨玲が6ー0のスタートダッシュ、第2ゲームも1ー3から7点連取で8ー3と逆転。中国女子でも随一の堅い守りと、ロングサービスと球足の速いショートサービスのコンビネーション、機を見て狙い打つバッククロスのフォアドライブと、圧倒的な強さを見せた。

しかし、王曼昱も第3ゲームから盛り返す。好プレーには「カモン!」と声を出し、バック対バックのラリーから早めにバックストレートに仕掛ける積極性と、思い切りの良いフォアドライブの攻め。2ゲームを返して勝負は最終ゲームへ。

最終ゲームは王曼昱が4ー1、7ー4、9ー7とリード。ここを取ればラスト車暁㬢の勝利は十分に計算できる黒龍江省と、ここで決めたい四川省。両ベンチとも必死の応援の中、最後の最後で勝利の女神がほほえんだのは朱雨玲。やや勝負を焦ってミスが続いた王曼昱から4点を連取し、大激戦を制した。
歓喜の四川省ベンチ。一方、王曼昱はベンチで号泣。しばらく顔を上げることができなかった。
  • 優勝の瞬間、大きく両手を広げた朱雨玲

  • 3番で貴重な勝利を挙げた范思琦

  • 范思琦のパワーに対し、最後まで粘った王シュアンだが、及ばず

  • 王曼昱は試合後にベンチで号泣

●男子団体3位決定戦
〈解放軍 3ー1 広東省〉
 周愷 ー10、ー9、9、ー9 林高遠○
○樊振東 ー5、4、ー9、8、6 張超
○周雨 5、4、9 周啓豪
○樊振東 9、9、ー9、11 林高遠

●女子団体3位決定戦
〈北京市 3ー1 湖北省〉
○盛丹丹 5、9、6 張瑞
 李佳原 ー8、ー4、ー10 馮亜蘭○
○孫晨 2、9、ー9、5 孫芸禎
○盛丹丹 8、ー8、9、6 馮亜蘭

決勝に先立って男女団体の3位決定戦が行われた。男子は解放軍が広東省を破って3位。女子は北京市が、丁寧が欠場しながら湖北省を下して3位となった。
 連日、観客席から大きな声援を送る女性ファン。張継科が出場した準々決勝に比べると、昨日の準決勝はやはり観客は減ったが、周雨や樊振東の女性ファン、林高遠の女性ファンもちゃんといる。周雨のファンはなかなか熱狂的だ。

 一方で、観戦マナーには結構厳しく、観客席でスマートフォンなどのフラッシュが点灯していると「閃光灯(シャングワンダン!)という女性ファンの叱責が飛ぶ。タイミングの悪い応援には「シーッ!」という声がかかることは、先日お伝えしたとおり。

 良いラリーには全身全霊で喜びを表すファンたち。日本のファンも、これくらいガツンとやっても良いのでは、という気がしてくる。
  • 周雨〜〜〜!!!

  • キャ〜〜〜〜ッ!

  • こ、こちらは……。でも楽しそうです

 今大会ではカメラマンに対し、コートサイドで立って撮影しないよう、イスが配られている。配ってくれるだけ親切とも言えるのだが、たいていプラスチック製の「お風呂のイス」みたいなタイプが多い。これ、中国の大会では結構「あるある」です。

 このイス、少しでも斜めになると脚がグニャッと曲がってしまうので、大会の取材初日のコートサイドでゴロンと後ろに転がってしまった。ああいう時、景色ってゆっくり見えるんですね。CCTVのカメラマンや記者に心配されてしまい、実に恥ずかしかったです。

 「もう同じ失敗はしないぞ」と思っていた昨日、今度は重いカメラやレンズを抱え、座ろうとしたところにイスがなく、またもフロアに大の字(ウソです、もっと控え目にコケてます)。今度は観客にばっちりウケました。無視されるよりマシですかね。

 さすがに今日の団体決勝は気をつけねば……。
  • 硬いイスなので、ずっと座っているとお尻が痛いです

 一昨日の男子団体準々決勝で、4試合が同時にスタートした時、コートに立っている選手の中で、右利きの選手は方博(山東省)ひとりしかいなかった。
残りは全員がサウスポー。王楚欽(北京市)、林高遠(広東省)、朱霖峰(四川省)、夏易正(河南省)、許シン(上海市)、朱誠(江蘇省)、周雨(解放軍)という顔ぶれだ。方博対周雨戦以外は、すべて左利き同士の対戦だった。

 陳静、王楠、郭躍、丁寧など左腕の五輪・世界チャンピオンが多い女子に比べ、中国男子はまだ左利きの五輪・世界チャンピオンは誕生していない。パワーのある右利きの攻撃型こそ男子卓球の「王道」、左利きは基本的にダブルス要員、未だにそういうイメージが根強い。大振りのフォアドライブを振り回し、ダブルスには滅法強いがシングルスでは右利きにうまくいなされてしまう。かつての陳杞などがその典型だったと思う。今大会でも、四川省の朱霖峰などはバックハンドの攻撃力が極端に落ちる。

 解放軍の周雨は、まだ若手だった前回大会に比べ、台上のストップとバックのドライブが確実に向上。苦手だったブロックも、ラケットを横にスライドさせて球威を殺せるようになり、バランスはかなり良くなってきた。ブロックをミスすると、ベンチで王涛監督が何度もラケットを横に動かすしぐさをして、注意を促している。……一方で、かつてほどの爆発力がなくなってしまったのも事実。難しいところだ。

 6月の世界選手権にも出場した林高遠は、プレー領域の広さと守備力を備えた新しいタイプのサウスポーに成長しつつある。準決勝の四川省戦での2失点は意外だったが、彼の担当コーチである国家チームの劉恒コーチ曰く、「(準々決勝の)馬龍との試合は良かったけれど、今日はやはり緊張していた」。国家チームのコーチたちは、フロアに設けられた特別席から選手たちのプレーに鋭い視線を送っている。劉恒コーチ、相当お怒りだったそうです。
 
 そしてもうひとり、14年世界ジュニアで初めてプレーを見てから注目しているのが北京市の王楚欽。ボールセンスは抜群でバックハンドも強く、初めて見た時は「確実に中国男子の主力になる」と感じたのだが……、時折大物食いを見せる一方で、コロッと負けるもろさがある。パワーやフットワークの速さもまだ課題を残している。今年で17歳、これから一気に伸びてほしい選手だ。
  • もっともっと伸びてほしい王楚欽

  • 河南省チームのポイントゲッター、夏易正

  • 林高遠は個人戦に名誉挽回を期す

  • 林高遠の担当コーチである劉恒コーチ(右)。現役時代は唐鵬とダブルスを組んだ