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2018世界卓球ハルムスタッド大会速報

 なぜ彼女たちは試合に出続けるのだろう。
 日本女子は5月1日の午前中のオーストリア戦で勝利し、グループの1位通過を決めた。残りはアメリカ戦のみだ。アメリカ戦は順位に関係ない。通常ならば、それまで試合数の少ない早田ひなやまだ一度も出ていない長崎美柚を起用するのだろう。ところが、1位通過がすでに決まっているグループ最終戦でも日本はベストメンバーを揃えたことに首を傾げる人も少なくなかった。

 4月25日に出された国際卓球連盟(ITTF)からのメディアのリリースは興味深いものだった。タイトルはこうだ。
”World Rankings: What Happens After Halmstad?”(世界ランキング、ハルムスタッドの後に何が起きるのか?)

 そのリリースでは、今回の世界選手権団体戦のポイントが高く、かつそのポイントは2年間有効であることを記述している。
 日本のようにチャンピオンシップ・デビジョンに参加する選手のグループリーグと第2ステージ(決勝トーナメント)の勝利には、それぞれ1勝ごとに250ポイントが獲得ランキングポイントとなる。また第2ステージでの順位決定戦でも180ポイントが加算されていく。
 日本選手に当てはめれば、グループリーグで5勝した石川佳純と伊藤美誠はすでに1250ポイントを獲得した。もし第2ステージで2勝すれば、そこに500ポイントが加算され、順位決定戦でも2勝すれば360ポイントが加算される。そうすると、この大会で2000ポイント以上を獲得することになる。これは世界選手権のシングルスや五輪で準々決勝に進むことに相当する。
 グループリーグで8戦全勝したスウェーデン女子のエクホルムはすでに2000ポイント獲得している。

 今年の1月から世界ランキングは新システムに変わっているが、この世界団体での獲得ポイントとITTFがわざわざプレスリリースをして知らしめる意味はどこにあるのだろう。
 それは強い選手がランキングポイントを獲得し続けるために、最初から最後まで出続けることを奨励しているのだ。今まで以上に、世界選手権の団体戦がランキング獲得ポイントにとって重要ということだ。
 しかも、新ランキングシステムでは過去1年間の成績の良い8大会のポイントの積算で決まるのだが、世界選手権の団体戦と個人戦は次の世界選手権の団体戦と個人戦まで(つまり2年間)有効になるというルールがある。
 つまり今回獲得したポイントは2020年の釜山での世界団体まで有効になるポイントであり、その途中の段階で五輪代表が決まる。世界ランキングによる五輪出場が2020年1月に決まるために、今回の世界選手権は五輪を狙う選手にとっては非常に重要な大会だった。そのことをITTFは事前に告知していたというわけだ。

 新ランキングシステムの狙いは、ワールドツアーや世界イベントにトップ選手を引き寄せることだ。レーティングを使った前ランキングシステムでは選手が試合に出なくても基礎点数が残っていたが、新システムでは試合に出続けることによってのみランキングが維持される仕組みになっている。
 
 ランキングによって、五輪出場など(日本の場合は世界選手権の代表でも大きな比重を占める)が決まる以上、選手も協会も試合にワールドツアーや世界イベントに出場、派遣させることになる。しかし、そこに派遣できる協会とできない協会、参戦できる選手と参戦できない選手の差が生まれる。ましてや団体戦では選手が「出たい」と言っても、そうならないケースもあるだろう。メンバーを決めるのは監督だから。
 ランキングシステムは一見平等のようでいて、不平等さをはらんでいる。
 2年間有効な今大会の獲得ポイントは、実は五輪出場レースの大きな鍵を握っている。チームメイトであっても世界ランキングという序列の中では競争相手だ。選手たちや関係者のモチベーションを高め、一方でその心理を縛っているのは巧妙なランキングシステムでもある。 (今野)
 女子のグループリーグ全試合終了後に決勝トーナメントのドローが行われ、日本の準々決勝の相手がシンガポールかウクライナの勝者となることに決まった。シンガポールが勝ち上がってくると予想されるが、馮天薇、ユ・モンユ、今大会から参加資格を得た帰化選手のリン・イエとなかなか手強い相手だ。エース・馮天薇は予選リーグでも王曼昱(中国)に勝利するなど、好調さがうかがえる。
 準々決勝は5月3日の日本時間20時より。日本女子は本日1日試合がないので、しっかり準備して準々決勝に臨んでほしい。
 女子のグループリーグの全試合が終了。最終のリーグ戦結果は以下のとおり。
予選グループの全5試合を、すべてゲームカウント3−0、そして3−0での勝利で終えた日本女子チーム。これは男女チームを通じて、今大会で唯一の快挙。すでに予選グループを終えた女子、そして明日予選グループの第5戦を迎える男子、計48チームの中で5戦すべてを1ゲームも落とさずに勝ち抜いたのは日本女子だけだ。女子の第1シード・中国でさえ、シンガポール戦トップで王曼昱が馮天薇に敗れている。

すでに予選1位通過が決まっている以上、今まで出場機会のなかった長崎、第2戦のエジプト戦のみの出場に留まっている早田を出場させるという選択肢はあっただろう。しかし、日本女子の馬場美香監督は試合後、「これまで3−0で勝った試合が多くて、試合数が少なかったので、決勝トーナメントをどのような状態で迎えるかを考えたうえでこのオーダーにしました。明日は試合がないので、なるべく試合をさせて、試合の感覚を保たせておきたかった」と語った。日本女子はあまりにスムーズに勝ちすぎた、という判断だ。「率直に言って、あまりにも勝ちすぎると勝負勘がなくなってしまうし、簡単に勝ちすぎると接戦の時にどのような状態になるかわからない」(馬場監督)

 経験を積ませるために代表に選んだ15歳の長崎美柚は、結局予選リーグでの出場機会はなかった。馬場監督はスムーズに勝ち進んでいくチームの状況を見て、長崎については実戦での経験ではなく、ベンチで先輩たちのプレーを肌で感じさせることを選択した。「競ったうえでの1位通過なら、長崎を使いたいとずっと思っていました」(馬場監督)。

 気合い満点のプレーを見せた伊藤は試合後、「オール3−0で勝てるとは思っていなかったので、ビックリと同時にうれしいのひと言ですし、またちゃんと気を引き締めないといけないという思いでいっぱいです。アメリカはフルメンバーで試合に臨んできたので、ちゃんとそこに3−0で勝てたのは自信になりました」とコメント。足の疲労はさすがに「ちょっときてるかな(笑)」と言うが、「全然まだいけますし、前より体力もついているので自信をもっている。それを明日ゼロに戻して、明後日に100%、120%の力を出せるようにしていきたい」と語った。

 キャプテンの石川佳純は「馬場監督から、試合が思った以上に簡単にいっているから、トーナメントに向けてもう1試合やったほうがいいという話があったし、私たちももう1試合戦いたかった。まずは少し休んで、体力と気力をためて、明後日はエンジン全開で臨みたい」とコメントした。明日は休養を取りながら会場での練習で調整し、明後日の準々決勝に臨む日本女子。
 果たして「無失点記録」はどこまで続くか?
  • アメリカ戦トップで勝利した石川

●女子予選グループ・第5戦
〈日本 3−0 アメリカ〉
○石川 10、5、5 ウー・ユエ
○平野 6、2、1 エミー・ワン
○伊藤 6、7、8 リリー・チャン

日本、アメリカを一蹴!
この試合も1ゲームも落とさず、予選グループの全5戦を驚異のオールストレート勝ち!

トップ石川が1ゲーム目、ウー・ユエの打球点の早い両ハンド速攻に押され、4−8、7−9とリードを許した。「ついに1ゲーム奪われるのか」と思われたが、石川は冷静沈着。このゲームを12−10と逆転で取ると、決して打ち気にはやることなく、打てるボールと台上に短く止めるボールの状況判断が抜群だった。レシーブではチャンスボールを決して見逃さず、3ゲーム目の10−5のゲームポイントもレシーブでの台上バックドライブ一発でウー・ユエのフォアを鮮やかに抜いた。

2番平野の対戦相手は、長身の右シェークドライブ型、エミー・ワン。ラリー戦では上背を生かして上から上から攻めてきたが、コース取りは単調で、むしろ平野の攻めの速さを引き出す結果になった。2ゲーム目以降は完全に平野の「フリーバッティング」という試合。まるで練習のようにチキータと台上バックドライブから速攻を仕掛け、あっという間に勝負をつけた。

3番伊藤も試合前の練習から、「自分がここで決める」という強い意志が感じられた。やや攻めを急いだ感はあったが、フォアストレートへの快速ドライブとバック強打で、多少ミスが出てもグングン飛ばし、あっという間にリリー・チャンを置き去りにした。最後は伊藤の目にも留まらぬフォアフリックがコートを駆け抜け、1時間15分ほどで勝利を決めた日本。その強さだけが際立つ一戦だったが、ベストメンバーであることを考えれば当然か。チーム最年少の長崎は、予選グループで出番がなかった。
  • 3番で勝利した伊藤。全く気を抜かなかった

  • トップで石川を苦しめたウー・ユエ。09年全中国運動会でプレーを見ました

  • 3番伊藤に声援を送る日本女子ベンチ

 今日、国際卓球連盟の年次総会(AGM)が開かれ、2020年の世界選手権(団体)は韓国の釜山で開催されることが決まった。 世界選手権史上、韓国での開催は初めてのことだ。過去にも韓国での開催が話に出たことはあったが、協会の内紛や財政的な問題で流れてしまっていた。

 世界選手権や五輪でメダルを数多く獲得している韓国が世界選手権を開催していないのは、世界の卓球関係者の間でも長年、不思議なこととして話題に上っていたことだった。 2020年東京五輪の年、まさにその前哨戦となる世界的なイベントが隣国で開催されることは大歓迎だ。
  • AGM後の記者会見、左端がITTFのバイカート会長

チャイニーズタイペイを会心のゲームで下した、日本男子チームの倉嶋洋介監督。昨日の敗戦が、選手たちに火をつけた感じだ。日本人特有のメンタリティなのかもしれないが、日本チームは最初から「イケイケ」で戦うより、どこかで一度苦境に陥ってから復活するほうが力が出てくる。決勝トーナメントのドローだけは倉嶋監督の強運を頼る他ないが、まだメダル獲得のチャンスは十分に残されている。
以下は試合後の倉嶋洋介監督のコメント。

「良い一戦でした。張本はサムソノフと荘智淵という試合巧者に勝って、これで自信になります。水谷は戦術が完璧だったので、凡ミスしない限りは負けないと思ってました。彼本来の大きなプレーと早いプレーが出てくると本調子になってくる。松平はすごいプレーだった。台上のストップもきれいに決まって、チキータをやらせてラリーに持っていく展開がうまくはまった。あとは一戦一戦乗り越えていって、やられるまで全力を尽くしていきます。みんな気持ちは切り替えていると思います」(倉嶋監督)。

2番で勝利を収めた水谷は、「自分本来のプレーからはほど遠い。やっぱり判断が悪い」とコメントしながらも、「打球の感覚、体の切れも昨日より良くなっている。腰の状態も良くなっている」と少しずつ調子が上がっていることを認めた。「正直、昨日の試合が終わった後に、監督に『明日の試合は出られるか』と聞かれて、もう体も心もボロボロで無理ですと言いました。でも監督からは『隼しかいない、おまえが出て負けたらしょうがない』と言われた。その期待に応えたい。頼られているのなら自分が日本のために頑張らなければいけないと思い、ベストを尽くそうと思いました」(水谷)。

3番松平は、過去の世界団体でもベストに近いプレーだった。「起用されることは昨日ホテルで言われました。プレッシャーもあったけど、自分がやってやろうと思いました。もう1回負けているので先を見ないで、目の前の一戦一戦を戦って、チーム一丸で金メダルを目指したい」(松平)。日本男子、残るシンガポール戦は、勝っても負けても順位に変動はないが、もちろんスッキリ勝って決勝トーナメントに進みたい。まだ今大会、出場機会のない大島祐哉の起用はあるか。昨日のイングランド戦で敗れた丹羽も、決勝トーナメントでは欠かせない戦力だけに、ここからまた調子を上げていってもらいたい。下写真は水谷。
●男子団体予選グループ・第4戦
〈日本 3−0 チャイニーズタイペイ〉
○張本 -4、7、12、8 荘智淵
○水谷 9、6、5 陳建安
○松平 6、-11、7、4 林昀儒

昨日、イングランドに敗れた日本男子、チャイニーズタイペイを3−0で完封!
トップ張本は荘智淵に対し、1ゲーム目を先取され、2ゲーム目も4−1のリードから4−6と逆転される嫌な展開だったが、徐々に声が出てくる。フォアに飛ばされるのを気にしてやや台から下がり気味だったが、バック対バックでは前について速さで上回り、荘智淵を後ろに下げる。下回転サービスでのサービスエース、荘智淵のミドルに打ち込むフォアドライブが要所で効いた。4ゲーム目の10−8で迎えたマッチポイントでも、荘智淵のミドルへ3球目フォアドライブを決めた。

2番水谷は出足から気合いが入っていた。昨日、4番ピチフォードとのエース対決で敗れたことが、闘争心に火をつけたか。結果的にストレートで勝利したが、3ゲーム目とも完ぺきなスタートダッシュを決め、ラリー戦ではフォアハンドで積極的に攻めた。3ゲーム目は5−0のリードから5−5まで追いついたが、次の一本がエッジで入ると、一気の6点連取で11−5。決着をつけた。

3番松平は1ゲームを先取した2ゲーム目、9−4から逆転されてヒヤリとさせたが、若さがのぞく16歳の林昀儒に対し、フォアドライブの長短のコントロールや、ラリー戦での正確な返球でミスを誘った。これで日本男子はグループCの2位が確定。明日の最終戦のシンガポール戦後、決勝トーナメントのドローに注目が集まる。
  • 張本、この闘志が見たかった!

  • 張本にトップで敗れた荘智淵

  • 水谷は今大会最高のプレーを披露

  • 健太のプレーもキレがあった

  • 予測能力の高さに将来性を感じさせた林昀儒だが、ミスも多かった

オーストリア戦3番で、アメリー・ゾルヤに勝利した平野美宇。ドイツのペトリサ・ゾルヤの姉であるアメリーは、08年世界ジュニアで2位になった後、オーストリアへ移籍した選手。フォア面に表ソフトラバー、バック面にアンチラバー(アンチトップスピンラバー)を貼る、非常に珍しいスタイルだ。

日本女子チームも、大会前の合宿でゾルヤの使用するアンチラバーを取り寄せ、対策練習を行っていたが、ゾルヤのアンチは予想以上に切れていた。試合後、平野は「もっとナックルかと思っていたけど、ゾルヤのショートは思ったより切れていた」と語った。平野が強く回転をかけたループドライブに対するバックアンチのショートは、ツッツキがネットに直撃するほどよく切れていた。アンチラバーであれだけ切れるというのは不可解だ。

しかし、ベンチで馬場監督に「カット打ちのようにプレーして」と言われて、プレーが少しずつ良くなったと平野は語る。2ゲーム目こそ競り合ったが、3ゲーム目には完全に相手のアンチの変化が読めていた。ゾルヤのフォアハンドに対ループドライブのカウンターがなく、基本的に守備的なプレーに終始したことも幸いした。

ラケットコントロールへラケットを出し忘れたのは……少々ヒヤリとしたが、今後気をつければ良いこと。「自分もヒヤヒヤしたし、チームにも迷惑をかけてしまったので、次からは気をつけたいと思います」(平野)。選手はそれぞれに練習会場で練習してから試合に入っていくので、ラケット提出は基本的に選手が各自で行うのだという。平野は1番が終わった後に提出したラケットを、3番の試合開始時に審判から受け取るはずだったが、「アナタのラケットないわよ?」ということになってしまった。「大丈夫、全然大丈夫だから」とミックスゾーンでキャプテンの石川。照れ笑いの美宇ちゃんでした。
  • A.ゾルヤをストレートで下した平野

 女子グループリーグの中間結果(5月1日第1試合終了時)は以下のとおり。
リーグ表の中の日時は日本時間で表記。