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中国リポート

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 10月20〜22日、ベルギー・リエージュで行われた男子ワールドカップ。09年モスクワ大会のサムソノフの優勝を最後に中国選手がタイトルを独占してきたが、今大会はオフチャロフとボルというドイツ勢同士の決勝となり、オフチャロフが初優勝。世界王者の馬龍は、ボルに準決勝で敗れて3位に終わった。

 馬龍が3位決定戦を戦っているのを見て、何とも言えない違和感を感じた。かつて世界選手権では3位が定位置だった時期もあるが、ここ3年ほどはビッグゲームでは確実にタイトルを手にしてきた男だ。ただ、馬龍は全中国運動会の前から抱えていた右腕の故障に加え、ワールドカップ前の練習で腰の故障がぶり返し、練習はほとんどできていなかったという。

 アジアカップから採用された、ABS樹脂製の新しい紅双喜のボールも敗因のひとつに挙げられるが、最大の敗因はやはり調整不足だろう。ベンチに入った王皓コーチは「これだけ大会が多いと、すべての大会に理想的な状態で臨むのは難しい。ベストの調整ができれば、やはり馬龍が世界最高の選手だろう」と語っている。

 一方、微博(マイクロブログ)のアカウントを持ち、中国語でもコメントを発信しているボルは、微博でのこんなコメントが反響を読んでいる。

 「本当に誇りに思っているよ、こんな重要な大会で、中国のトップ選手にふたり続けて勝つことができるなんて。中国のファンの皆さんが、ぼくを許してくれることを願っているよ。今回は決勝で負けても、そんなにショックはなかったね」

 2005年に行われた男子ワールドカップで、王励勤・馬琳・王皓を連破して優勝したのはもう12年も前。ボルという選手の偉大さを改めて感じるが、12年前の開催地も同じベルギー・リエージュだったのは興味深い。まさに中国語で言うところの「福地」、幸運の地なのだ。
 少し前のニュースになるが、10月2日、北京体育大学体育館で一風変わった対抗戦が開催された。国家チームの若手選手たちと、9月に行われた「第13回全中国運動会・群衆大会」の30~39歳代で上位に進出した草の根プレーヤーが対戦したのだ。午前中に卓球、午後にバドミントンの対抗戦が行われた会場には、数百人の観客が足を運んだ。

 ちなみに「第13回全中国運動会・群衆大会」は、全中国運動会の期間中の9月1~4日、天津中国民航大学で行われたもの。男女団体および30歳代・40歳代・50歳代・60歳以上の男女シングルス、計10種目が開催された。国家体育総局の苟仲文局長が提唱した、全中国運動会の「八大改革」のひとつだった。成績第一の競技スポーツ大会から脱却し、スポーツを再び大衆の手に、というところ。スポーツ界の現場の力を弱め、自らの影響力を高めようという意図も感じられる。

 ……それはそれとして、この草の根プレーヤーと国家チームの対抗戦は、なかなかユニークな試み。群衆大会の男子30~39歳代で2位の沈鵬さん、同3位の沈建宇さん、女子30~39歳代で優勝した趙磊さん、同2位の孟子チィさんという草の根のツワモノたちは、団体戦を行う前に北京の国家チームの練習場でトップ選手たちと汗を流し、国家チームのコーチから指導を受けてから対抗戦に臨んだ。

 国家チームからは、男子は王楚欽と周愷、女子は王曼昱と孫穎莎が出場。かり出された若手4人、「どれくらい本気でやったらいいんだろう……」と少々戸惑いながらも、男女団体と混合団体の3種目で5−0と完勝したが、随所に好ラリーが展開された。国家体育総局の卓球・バドミントン管理センターの雷軍主任は、この対抗戦の意義について、「草の根の選手と競技スポーツの選手の交流を深め、全中国運動会での改革に引き続き、卓球による国民の健康増進を進めていきたい」と語っている。
  • 結構マジメにプレーしていた周愷(写真は17年全中国運動会)

 10月10日、中国卓球協会はイタリアで行われる世界ジュニア選手権(11月26日〜12月3日/リーヴァ・デル・ガルダ)の代表メンバーを発表した。その顔ぶれは下記のとおり(登録された順番に表記)

●男子
男子2軍チーム監督:劉志強
王楚欽(WR112/U-18 WR6/左シェーク両面裏ソフトドライブ型)
薛飛(WR85/U-18 WR2/右ペンホルダー両面裏ソフトドライブ型)
徐海東(WR189/U-18 WR8/右ペンホルダー両面裏ソフトドライブ型)
牛冠凱(WR104/U-18 WR5/右シェーク両面裏ソフトドライブ型)

●女子
女子2軍チーム監督:閻森
王曼昱(WR11/U-18 WR4/右シェーク両面裏ソフトドライブ型)
孫穎莎(WR9/U-18 WR3/右シェーク両面裏ソフトドライブ型)
銭天一(WR97/U-18 WR12/左シェーク両面裏ソフトドライブ型)
石洵瑶(WR77/U-18 WR9/右シェーク両面裏ソフトドライブ型)

 男女ともU-18世界ランキングの上位4名を揃え、まさにベストメンバーだ。

 前回はスーパーリーグの開催期間中ということもあってベストメンバーを派遣せず、男子団体は3位、女子団体は2位に終わった中国。ひとつもタイトルを獲れなかった男子チームの劉国正監督(当時)が帰国後に相当な批判を浴び、劉国梁総監督(当時)が批判の火消し役に回るほど。もっとも、劉国正としては団体用に于子洋(14年世界ジュニア優勝)などのジュニアのトップ級をひとり連れていきたかったが、劉国梁総監督がそれを認めなかったとも聞く。

 女子で14・15年世界ジュニア2連覇の王曼昱を引っ張り出してきたのは、確実に団体の王座を奪回するためだろう。王曼昱と孫穎莎の強力ツートップに、回転量のあるフォアドライブが武器の左腕・銭天一、そして前回チャンピオンの石洵瑶。女子のメンバーは超・強力だ。

 一方、男子はベストメンバーではあるが、女子ほどの強さと安定感はない。「王皓2世」(過去に何人かいましたが)と言われる薛飛は、全中国運動会でのプレーを見る限り、あまり伸びていない。王楚欽はテクニックと打球センスは素晴らしいものがあるが、メンタルはまだ不安定。他チームにもつけいるスキはある。

 世界ジュニアのチームエントリーは10月7日、シングルスとダブルスは10月14日がデッドライン(締め切り)。日本は現時点では、選考会で優勝した男子の田中佑汰(愛工大名電高)、女子の木原美悠(JOCエリートアカデミー)が代表に内定。また、男子の張本・木造、女子の平野・伊藤が代表の選考基準を満たしてはいるが、正式な代表メンバーはまだ発表されていない。日本と中国、ベストメンバーの両チームの団体決勝での対戦を、ぜひとも見たいものだ。
  • サービスも巧みな左腕の王楚欽(写真は17年全中国運動会)

  • 王曼昱のバックドライブの威力は規格外だ(写真は17年ジャパンオープン)

 本題に入る前に……と言っては何ですが、日本では思わぬ「日本選手締め出し報道」へと発展している中国スーパーリーグ。ここまで開幕がずれ込むとは思わなかった。6月の世界選手権の終了時点では、9月末の開幕という情報もあった。

 「締め出し」ということでは、確かに北京五輪の前年の2007年、出場選手に全試合のベンチ入りを義務付け、実質的に外国選手を排除して中国のマスコミからも批判されたことはある。五輪開催年に各省チームの練習場にライバル選手のリストが貼られ、「右の者、練習場に入れるべからず」という通達が出た、なんて話もある。

 そのあたりは極めて合理的に、勝利への最短手段を選ぶお国柄。外国選手を締め出しても不思議はないが、今シーズンはそれどころではない。未だ日程すら定まらず、本当に開幕が危ぶまれている。各クラブのスポンサーの手前(てまえ)もあり、何とか開幕にはこぎつけるだろうが、開幕時に昨シーズンまでのクラブがいくつ残っているか……。通常なら選手たちもそれぞれのクラブに分かれ、練習して開幕に備えるのだが、やむを得ず北京で「スタンバイ中」。そちらの動向は、また新しいニュースが入り次第お伝えします。

 ……というわけで前置きが長くなりましたが、今回はシンガポールからの話題。昨年10月、度重なる規律違反(ナショナルチームの宿舎に何度も女性を連れ込んだ)により、シンガポールチームから追放された元中国代表の李虎。彼の母親である蘇鳳仙が今、シンガポールで裁判の真っ最中だ。

 実は李虎が追放される前週、蘇鳳仙はシンガポールで逮捕されている。彼女は息子の立場が危ういと見るや、すぐさまシンガポールに飛び、シンガポール卓球協会のテクニカルディレクターである黎仕漢に処分の軽減を直談判。黎仕漢にこれを拒否されながら、蘇鳳仙はなおもあきらめず、2000ユーロ(約26万円)が入った封筒を渡そうとした。結局、この「賄賂(わいろ)」を受け取ってもらうどころか、黎仕漢に通報されてしまい、息子の追放より先に捕まってしまったのだ。何やらドラマのような話ではある。

 シンガポールはCPIB(汚職調査局)という機関を設けており、汚職に対しては非常に厳しい。今回の一件も、有罪なら10万シンガポールドル(約830万円)の罰金か禁錮5年、或いはその両方という厳刑。逮捕後、一旦は罪を認め、「私がしたこと(=贈賄)は、中国では文化の一部です」と証言したという蘇鳳仙だが、昨年12月に保釈された後は一転して罪を認めず、裁判で争っているという。何ともお騒がせな親子なのだ。
  • 14年アジア競技大会での李虎。現在は中国に戻り、コーチ兼任でプレーを続けている

 プラボール時代になってボールの回転量が落ち、強引にフォアハンドで仕掛けて苦しい展開が増える選手も多い中で、プラボールへの変更を追い風にした林高遠。
 同じ左腕の許昕にインタビューした時、「回転量が落ちるプラボールへの変更が、ペンホルダーにとっては最大の打撃」と語っていた。同じ左腕でも対照的だ。少しでも台から出るボールはフォアハンドで攻める、「仕掛けて勝負する」許昕と、相手にうまく打たせてカウンターで優位に立つ、「仕掛けさせて勝負する」林高遠。世界選手権では許昕が最終ゲーム5ー10から意地の逆転劇を見せたが、国内での対戦では林高遠のほうが分が良くなってきている。

 ただ、ジャパンオープンでは2回戦で李尚洙(韓国)に快速ロングサービスで押され、バックハンドでのレシーブを狙い打たれてストレートで完敗。続く中国オープンでは予選リーグで林兆恒(香港)に敗れたが、ロングサービスを交えてフォアサイドにサービスを集められ、それを強くレシーブできずに守勢に回った。
 全中国運動会でも、馬龍を破った男子団体準々決勝までは最高のプレーだったが、追う者から追われる者になった準決勝の四川省戦でのプレーは別人のように消極的だった。国家チームの担当コーチである劉恒コーチには、試合の後で大目玉を食らったそうだ。劉恒コーチ本人が言っていた。

 ちなみに林高遠の生まれは広東省深圳市。父親の林建宇さんも若い頃はトップ選手を志した卓球人で、小さい頃から抜群のセンスを見せていた林高遠のため、赤字覚悟で卓球場を経営して練習環境を整えた。全国大会が開催される時には息子を連れて会場を訪れ、一流選手のプレーを学ばせたという「父子鷹」。アジアカップ優勝の後、『私の夢を息子がかなえてくれた。さらに努力して代表チームの主力に定着してほしい』というコメントが『深圳晶報』に掲載された。

 アジアカップ優勝後のITTFのインタビューで、林高遠は「ワールドカップでプレーできることにすごく興奮しています。大会前はワールドカップでプレーできるなんて考えもしなかった。目標はただ、すべての試合で良いプレーをすることだけでした」と語っている。ワールドカップで上位に食い込むことができれば、張継科に代わる中国男子の主力として、首脳陣に大きくアピールできる。まずは来年の世界選手権団体戦で、団体メンバーの5人に入ることが目標になる。

 最近は女性ファンも増加中。6月のジャパンオープンで、中国から何人も女性ファンが来日していたのには驚いた。応援用のバナーを配っていた女性に彼の魅力を聞いた時、満面の笑顔で「何よりもカワイイから!」と言われ、「そんなことないでしょう!」とも言えず……。当の林高遠は声援にピクリとも反応しないが、張継科くらい「ツンデレ」なファンサービスができれば、もっとファンが増えそうだ。
  • 全中国運動会の男子団体準々決勝では、馬龍との激戦に勝利した

  • 準決勝の四川省戦では2敗を喫し、ベンチで落胆…

 9月15~17日、インド・アーメダバードで行われたアジアカップの男子シングルス決勝で、林高遠が樊振東を4ー2で退け、同大会で初優勝を飾った。

 このふたりの決勝での対戦というと、2012年に同じくインド・ハイデラバードで行われた世界ジュニア選手権を思い出さずにはいられない。世界ジュニアでは09年大会3位、10・11年大会2位の林高遠が「優勝の最後のチャンス」と臨んだ男子シングルス決勝。林高遠は2ー0とゲームをリードしながら逆転を許し、15歳の樊振東に名を成さしめた。
 さながら力強く昇り来る太陽と、その陰に隠れ行く月。コートサイドで樊振東のセンスあふれるプレーに魅了されながら、「林高遠がシニアでトップに行くことはないだろう」と感じていた。残酷なほど鮮やかな両者のコントラストだった。

 しかし、長い雌伏の時を経て、林高遠は再び表舞台へと返り咲く。今年3月に行われた中国代表選考会「地表最強12人」で、予選リーグで尚坤と閻安、決勝リーグで許昕と周雨を下し、樊振東に次ぐ2枚目の代表切符を獲得。馬龍が予選リーグで棄権したのも大きかったが、集合訓練で林高遠のルームメイトになっているのが馬龍だ。「もっとリズムをゆっくりにして、あわてずに戦ったほうがいい」と林高遠にアドバイスし、林は「そのアドバイスがとても大きかった」と語った。

 林高遠がシニアでも結果を残すようになったのは、プラスチックボールの導入が大きいように思う。彼のフォアドライブは、打球面をクローズにした巻き込むようなスイング。上回転のラリーになれば、カウンターや引き合いでの安定感は抜群だが、先輩の周雨、あるいは陳杞のように下回転のボールを面を開いて強打できない。台からギリギリで出るボールを打つのも、それほど得意ではない。

 セルロイドボール時代は頼りなく、勝ち味の薄いプレーに見えたが、回転量とスピードが落ちるプラボールは「攻めた者勝ち」とは限らない。最近の林のプレーを見ていると、プレーの設計図は非常に明確だ。基本的には「バックハンドで仕掛けて、両ハンド待ち」。台から出そうなボールでも、フォアサイドはストップで相手が仕掛けてくるのを待ち、両ハンドのカウンターを狙う。台上のあまいボールはチキータや台上バックドライブで攻め、同じく両ハンドで攻めていく。バックハンドの技術の多彩さと守備力、キレのあるフォアのカウンターが最大限に生かされている。(後編に続く)
  • 12年世界ジュニアの決勝後のベンチ。3大会連続の準優勝だった

  • アジアカップ優勝で、ワールドカップへの切符を手にした ※写真提供:ITTF

 6月の中国オープンでのボイコット問題に揺れた国家卓球チームだが、現在は一時解散。選手たちはそれぞれ所属する省や解放軍などのチームに戻り、8月28日に開幕する全中国運動会に備えて練習に励んでいる。
 北京市チームの張雷総監督は、チームのエースである馬龍がボイコット問題に関連して処分を受けることはないと言及している。「馬龍や(女子チームの)丁寧は非常に良い練習ができている。馬龍は右腕に少し故障を抱えているが、全中国運動会には影響はないだろう」(張雷総監督)。

 その4年に1度のビッグイベント、全中国運動会を前に、おめでたいニュースを発表したのは12年ロンドン五輪女子金メダリストの李暁霞だ。7月14日、自身の微博(ウェイボー/マイクロブログ)に、元遼寧省男子チームの翟一鳴(ジャイ・イーミン)とのツーショット写真をアップ。9月上旬に、翟一鳴の実家がある遼寧省瀋陽市で結婚式を挙げることを明かした。山東省女子チームに移籍した李暁霞だが、出身地は遼寧省鞍山市で、翟一鳴とは同郷のカップルということになる。
 李暁霞は全中国運動会・女子シングルスの出場資格選手に名を連ねており、「ひょっとして全中国運動会で現役復帰も?」という憶測も流れたのだが、結婚式の準備のため、全中国運動会には出場しないという。

 新郎の翟一鳴は、2014年2月に王励勤や馬琳、陳杞らとともに国家チームを引退した選手。国家1軍チームの中堅選手として長く活躍し、中国スーパーリーグでも錦州銀行の主力としてプレーした、パワフルな右シェークドライブ型。現在は遼寧省男子チームの監督に就任している。
 先輩の王楠や張怡寧は実業家との結婚を選択したが、李暁霞は16年リオ五輪前の故障で苦しい時期を、翟一鳴が支えてくれたことが結婚の決め手になったという。結婚式には国家チームのチームメイトや遼寧省出身の選手たちが集結し、豪華な顔ぶれになりそうだ。
  • 長身の李暁霞、ウエディングドレス姿は迫力がありそう

  • こちらが新郎の翟一鳴

 ジャパンオープンでワールドツアー初出場・初優勝、中国オープンでは決勝で丁寧に敗れたものの、準決勝で劉詩ウェンをストレートで破って準優勝、さらに韓国で行われたアジアジュニア選手権では4冠王……16歳の新星・孫穎莎(スン・インシャ)の快進撃が止まらない。
 世界ランキングは今年1月の時点で82位。その後ランキングから外れていたが、7月発表の世界ランキングではいきなり10位に飛び込んできた。丁寧・朱雨玲・劉詩ウェン・陳夢のトップ4人に次いで中国女子で5番目の位置だ。

 孫穎莎は2000年11月4日生まれで、日本の平野美宇・伊藤美誠・早田ひなと同い年。河北省・石家庄市の出身で、5歳の時に卓球を始めた。彼女の啓蒙教練(初心者を指導するコーチ)である張張欣コーチは、初めてボールを打つ彼女を見た瞬間に「この子は才能がある」と感じたという。それからは休日も祝日も関係なく練習に明け暮れ、誰よりも早く練習場に来て、誰よりも遅くまで練習した。全身をしっかり使って打つ、彼女のパワフルなフォアドライブは、この時期の徹底した基礎練習で培われた。

 10歳の時に河北省女子チームの楊広弟監督にその才能を見出され、河北省チームで練習するようになった孫穎莎。「身長はすこし低かったけれど、センスが良かったし、強くなるオーラを持っていた。そして何より卓球が大好きだった」(出典:『衡水日報』)と楊監督は語っている。2015年に全中国少年選手権で優勝して国家2軍チームに入り、今年1月に2軍チームと1軍チームの入れ替えリーグ戦で3位となり、1軍チーム昇格を果たしたばかりだった。

 河北省の女子チームというと、カット型の施婕(ジィ・ショップ/ドイツ)、成紅霞、王ティンティン(女+亭)、シェーク異質攻撃の耿麗娟、白楊、張墨(チャン・モー/カナダ)、ペン表攻撃の李恵芬など異質やカットの選手が多く、近年では国家チームの「トレーナー養成所」のような印象もあったが、孫穎莎は本格派の右シェークドライブ型だ。……とはいえ、6月の世界選手権個人戦前の集合訓練では、王曼昱らとともに「仮想・平野美宇」のトレーナーとして駆り出されたのだが、このまま活躍を続ければ、「仮想選手」からは卒業できるだろう。

 ちなみに平野美宇選手の印象については、ジャパンオープンでの優勝会見で「すごくスピードのあるプレーだし、最先端のプレーだと思います。私とは身長が同じくらいで、プレーにスピードがあるところも似ていると感じます」と語っていた孫穎莎。両親は「普段は活発で、性格は単純。だからこそ卓球に没頭できるんでしょうね」と語っている。競った場面でもフォアフリックでレシーブから仕掛けられるのは、余計なことを思い悩まない性格のおかげなのかもしれない。
  • 要所で決まる、孫穎莎の威力あるフォアフリック

  • アジアジュニアでは4冠を達成(写真提供:アン・ソンホ)

 前代未聞と言うほかない。卓球界を震撼させている、ITTFワールドツアー・中国オープンでの中国男子チームの「集団ボイコット」事件。
 昨日、張継科が男子シングルス1回戦の吉田雅己戦で、第1ゲーム7ー10で試合を棄権。こちらは「臀部の故障」という理由であり、近年は故障がちということもあってそれほど違和感はなかった。しかし、大会第4日目の6月23日、男子シングルス2回戦に出場予定だった馬龍、樊振東、許シンの3名が、試合時間になってもコートに現れず。こちらは明らかに異常事態だった。馬龍の対戦相手は大島祐哉、許シンの対戦相手は張本智和。馬龍対大島は一昨年の中国オープンでゲームオールの激戦を展開したカードであり、許シン対張本は世界選手権個人戦・準々決勝のリベンジマッチ。興味が持たれる一戦だっただけに残念でならない。

 国家男子チームの秦志ジェン監督や馬琳コーチ、そして馬龍、許シン、樊振東という選手たちは、男子シングルス2回戦に先立ち、自身の微博(マイクロブログ)のアカウントにこんな書き込みをしている。「這一刻我們無心恋戦……只因想念您、劉国梁!(もう今は戦い続けることなんてできない……ただあなたのことを想っているよ、劉国梁!)」。劉国梁の似顔絵と、書き込みをした本人と劉国梁のツーショットも同時に投稿されていた。組織的なボイコットであることを示唆するものだったが、現在、そのほとんどは削除されている。

 中国オープンの開幕に先駆けて、劉国梁が総監督を退任して中国卓球協会の副会長に就任することが発表された。指導の現場から離れる一方で、19番目の副会長職に実務的な権限はほとんどない。この人事に対する現場からの反発が集団ボイコットを招いた形だが、中国のスポーツを統括する機関である国家体育総局、その内部での権力争いが背景にあることも十分に考えられる。中国卓球協会の蔡振華会長が副局長の要職にあるが、劉国梁をかばい切れなかったということなのか。

 王楠(99・01・03年世界女子チャンピオン)の夫である郭斌さんは、今回の劉国梁監督の人事に際して、国家男女1・2軍チームの選手たちが微博に書き込むことなどが禁止されたと明かしている。「本当に最悪だ!発言を禁止するなんて一体何を怖れているんだ? そんなことをさせた上層部は辞任させるべきだ」とその怒りは収まらない。

 一方、国家体育総局は、今回の集団ボイコットについて、速やかに以下のようなコメントを発表している。

「6月23日、成都で行われている2017ITTFワールドツアー・中国オープンにおいて、中国卓球チームのコーチ2名、選手3名が勝手に試合を棄権し、社会に対して大きな悪影響を及ぼした。

国家体育総局のスポークスパーソンは表明する。重要な国際大会において断りもなく勝手にコートを去り、スポーツ選手としての職業道徳からかけ離れた行動を取り、国家の栄誉と利益を顧みることなく、観客と対戦相手を尊重していない。このような行為は大いなる誤りであり、断固として反対するものである。

我々はスポーツチームに対して要求する。選手たちはいかなる時も愛国主義、そして集団の利益を第一とし、しっかりとした思想を持ち、厳格な規律が求められる。それはスポーツのレベルと同様に重要なものである。国家体育総局はすでに中国卓球協会に対して、事実関係の確認と厳正なる処分を命じている」

 もうしばらくは情勢を見守るしかないが、指導陣や選手に対して処分が下ることは避けられないだろう。ITTF(国際卓球連盟)のバイカート会長は「3人の世界のベストプレーヤーが、このようなビッグイベントで試合を棄権したことについて、ITTFは非常に失望している」と述べているが、こちらも何らかの処分が下されることになるのか。世界選手権個人戦の興奮冷めやらぬ中、地元開催のワールドツアーで発生した非常事態。中国オープンの会場では、時に「劉国梁!劉国梁!」というファンからの声援が響き渡った。
 6月20日、四川省成都市で中国オープンが開幕したその日、衝撃的なニュースが流れた。中国卓球協会代表大会・常務委員会の決定により、国家チームの劉国梁総監督が総監督職を退任。中国卓球協会の19人目の副主席(副会長)となることが一斉に伝えられたのだ。2003年に中国男子チームの監督に就任して以来、男子監督および総監督として国家チームの屋台骨を支えてきた劉国梁だが、今回の人事によって指導の第一線から離れることになる。

 同時に国家チームでは、監督1名・コーチ5名からなる国家1軍チームの管理体制を改編。監督職を設けず、男女とも教練組(コーチグループ)を設置して、より「扁平化(フラット)」な管理体制を目指すとしている。中間の管理職をできる限り省くフラットな管理体制は、国家体育総局の苟仲文局長が昨年就任した際、今後の基本方針として示したもの。バドミントンの国家チームでも、20年以上に渡って指導陣の中枢だった李永波総監督が退任。卓球に限らず、他のスポーツの国家チームでも同じような人事が行われている。

 国家チームでは2000年から2003年にかけても、コーチ陣による「教研組」を設置し、男子チームは尹霄、女子チームは李暁東が教研組の「組長」を務めていた時期がある。2003年6月に劉国梁と施之皓が男女チームの監督に就任し、このグループ体制は終わりを告げたが、再びその時代に回帰するのか。そうなれば、女子チームの孔令輝監督の去就はともかく、男子チームの秦志戩監督は「教練組組長」という立場で、選手たちを指導することになるだろう。

 また、孔令輝女子監督の借金スキャンダルの問題については、国家体育総局の卓球・バドミントン管理センターは「党紀に基づいて厳正に処理する」と発表している。この一件と劉国梁総監督の退任は直接的な関係はないが、劉国梁の総監督退任がなぜこのタイミングなのか、という疑問は残る。劉国梁が専任で総監督の座にあったのは、わずか3カ月足らずだった。
  • 世界選手権個人戦ドイツ大会での劉国梁総監督