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北京五輪

 馬琳は強かった。失ったゲームは3回戦のトキッチ戦の1,準決勝の王励勤戦の2、そして決勝の王皓戦の1だ。
 準決勝ではいきなり破損した王励勤のラケットを指摘し、そこから得意の心理戦に持ち込んだ。調子のでない王励勤を尻目にゲームを連取し、自分のペースに持ち込み、4-2で勝った。決勝の王皓戦では1ゲーム目は10-6から10-9まで追い上げられ、2ゲームえっも10-4から10-9まで追いあげられたが、どちらも9本で取った。3ゲーム目は6-6から5本連取され落としたが、4ゲーム目は5-7から6本連取。5ゲーム目は王皓が緊張し、終始リードを奪い、最後は9本まで追い上げられたが、打ち合いを制し、金メダルを手にした。
 馬琳は互角の相手に対し、心理戦に持ち込むように、ルールぎりぎりでじらし作戦を使う。サービスの構えにはいるときやレシーブの構えに入るときなどだ。しかし、それも作戦のうちで、もちろんバッドマナーであれば審判が注意するだろう。
 特筆すべきは、そのフォアハンドの威力とフットワークだ。もちろん、サービス、台上、裏面打法、カウンターなど、オールラウンドに優れている。今の卓球は死角があっては世界レベルでは戦えない。しかし、オールラウンドでありながら、馬琳はコート全部を動ききるフットワークと、打ち合いに負けないフォアドライブの強さが最後の頼るべき武器なのだ。
 準決勝とか、その前のラウンドを見ていて思うのは、世界のトップ級はアスリートとしても超一流の体をしているし、中国選手のように鍛え込まれた体にテクニックを染みこませた卓球が群を抜いていたということだ。アスリートとしての鍛えられ方が他国との差だろう。
 技術偏重になるのは、卓球の競技性から言って仕方ない面もある。レベルが低ければそれで勝てるからだ。ところが、世界、五輪という舞台では、体のぶつかり合いで、その差が出てしまう。中国に学ぶべきはテクニックはもちろんだが、そのフィジカルではないだろうか。
 日本には才能ある素晴らしい若者もいるが、世界で優勝しようと思ったら、最低限中国と伍して戦えるような体を作らなければ勝負にはならない。
男子シングルス決勝
馬琳(中国) 9,9,-6,7,9  王皓(中国)

銅メダル決定戦
王励勤(中国) 11、2,5,9  パーソン(スウェーデン)

今まで世界選手権の決勝で3回敗れてタイトルを逃してきた馬琳がついに五輪の金メダルというビッグタイトルを手に入れた。王励勤との心理戦を制し、王皓とは真っ向から打ち合いで打ち勝った。決勝では1ゲーム目を先取し、自分の流れを作り、2ゲーム目は10-4から5本連取され、10-9まで追い上げられたが、何とかしのいだのが大きかった。すばらしい体力、全面を動ききる脚力、アスリートな卓球で世界を制した。
男子シングルス準決勝
王皓(中国) 9,9,-9,7,9 パーソン(スウェーデン)
馬琳(中国) 5,9,9、-10、-3、8 王励勤(中国)
王皓はぎりぎりのところで両ハンドのドライブを打ち込み、競り勝った。パーソンも大善戦。一世一代の当たりを見せた。元世界チャンピオンの意地だろうか。
馬琳と王励勤はいきなり心理戦。ラブオールで王励勤が3球目のバックハンドでラケットを台にぶつけわずかに破損した。馬琳はすぐにラケットを指差しアピール。王励勤はいきないスペアラケットを遣う羽目になた。前半は調子のでない王励勤。3ゲームを馬琳が連取したところでこの試合は決着がついた。王励勤は2ゲームを取り返すも、遅すぎた。
決勝は馬琳対王皓の対決となった。
 長かった。13日から始まった北京五輪の卓球競技が今日終わる。88年ソウルから取材してきているが、団体戦の入った今回が一番スケジュールがきつかった。毎日、朝の10時から終わるのは夜の11時。その間、休みらしい休みがない。実際はあるのだが、写真配信社への写真配信、協会からの依頼の対応、卓球王国その他へのweb配信となにやらバタバタして落ち着かない。試合がゆっくり見れないこともある。高橋が撮った写真は何十万枚だろう。量・質とも過去最高レベルのものだ。選ぶのも大変な作業になる。
 しかし、いろいろあってもやっぱり五輪は熱い。選手の目の色が違う。今日、最終日、ドラマはまだ続くのだろうか。朝10時に火ぶたが切られる。(今野)
女子シングルス決勝
張怡寧(中国) -8、11、8,8,3 王楠(中国)

銅メダル決定戦
郭躍(中国) 6,12、-9、-7、3,4 リ・ジャウェイ(シンガポール)

競り合えば王楠、張怡寧が勝つとすれば4-1か4-2と予想したが、前半は王楠ペース。2ゲーム目をジュースで取ったことで試合は張怡寧に流れた。準決勝で郭躍を絶妙な間合いとカウンターで下した王楠。速攻と中陣からのカウンターの術中にはまれば張怡寧も不利と思ったが、張怡寧は3ゲーム目から持ち直し、一気に優勝へ突き進んだ。五輪連覇はトウ亜萍以来、二人目の快挙となった。
銅メダルはリ・ジャウェイを下した郭躍が獲得した。
●男子シングルス準々決勝
王励勤(中国) 7、5、8、8 譚瑞午(クロアチア)
馬琳(中国) 3、5、9、10 呉尚垠(韓国)

 王励勤と譚瑞午の準々決勝はおよそ25分。馬琳と呉尚垠の試合も、35分を切るタイムで終了した。この大会に向けて牙を磨いてきた中国の竜虎が、その強さをまざまざと見せつけた。
 ガオ・ニン(シンガポール)、李静(中国香港)を破った譚瑞午、右肩の故障明けながらボル(ドイツ)を4回戦で下した呉尚垠、ともに健闘の光る大会だったが、やはり中国男子のツインエースの強さは別格なのか。呉尚垠は第3ゲーム9-6のリードから5点連取を許し、第4ゲームも2-8、そして7-10から3回のマッチポイントをしのいで10-10に追いつき、韓国の意地を見せたが、抵抗もここまで。世界最高の台上マスター、馬琳の台上からの速攻に苦杯をなめた。

 明日の男子シングルス準決勝第2試合は、05・07年世界選手権決勝と同じ組み合わせ、王励勤vs馬琳。勝って初の決勝進出を果たすのは、どちらなのか。なんとここ4年間の国際大会での対戦成績は、王励勤8勝、馬琳8勝とまったくの五分だ。
●男子シングルス準々決勝
パーソン(スウェーデン) -7、6、8、12、9 プリモラッツ(クロアチア)

 欧州のベテラン対決は、スウェーデンの大応援団に後押しされたパーソンが、「無冠の帝王」ことプリモラッツを4-1で下し、00年シドニー五輪に続く準決勝進出を決めた。ボールのスピードは全盛期には及ばないが、パーソンが堅固なブロックと両ハンドのコンビネーションで終始ペースを握った。プリモラッツとしては、第4ゲームの競り合いを落としたのが痛かった。

 ヨルゲン・パーソン。それにしても、なんという可能性を秘めた男なのか。ワルドナーとともに、北欧の卓球王国・スウェーデンの屋台骨を支えてきた男。91年に世界チャンピオンになった後も、平坦な競技人生ではなかった。93年世界選手権での初戦敗退、交通事故にたび重なる故障。05年世界選手権を最後に、一度は国際舞台からの引退を表明して、カタール卓球チームのコーチの任に就いた。しかし、「もうパーソンは終わりだ」と思われたところから、不死鳥のごとく復活してきた。
 準決勝での対戦相手は世界ランキング1位の王皓。厳しい対戦相手だが、メンタルの強さはパーソンに軍配が上がるだろう。この男に「絶対の不可能」はありえないのだ。

 「パーソンと対戦できたのはハッピーだった。僕は出場選手の中では一番年上のほうだけど、パーソンはその僕より年上だからね。僕のプレーは悪くなかったけど、今回はパーソンのプレーのほうが良かった。彼の今日のプレーはアグレッシブだった(プリモラッツ)」
●男子シングルス準々決勝
王皓(中国) 7、-8、6、7、9 高礼澤(中国香港)

 前回準優勝の王皓が準決勝進出。本来ならばこのラウンドで柳承敏(韓国)とのリベンジマッチを戦うはずだったが、勝ち上がってきたのは中国香港のサウスポー・高礼澤。高礼澤は4回戦でオフチャロフに勝利した後、「これまで王皓とは7、8回対戦したことがあるが勝ったことはない。勝つチャンスは30%くらい」と語ったが、善戦しながらも勝利は遠かった。とはいえサウスポーからのテクニカルなボールさばきで、2大会連続ベスト8入りは立派な成績だ。
 男子の準々決勝がもうすぐ始まる。
 その顔ぶれでの驚きは、ベテラン同士、6回連続出場同士のクロアチアのプリモラッツとスウェーデンのパーソンの対決だ。38歳のプリモラッツと40歳のパーソンの対戦だが、特筆すべきは昨夜のパーソンの活躍ぶりと試合でのハプニングだろう。
 サムソノフ(ベラルーシ)との一戦。サムソノフ有利と誰もが思ったが、パーソンは食らいつく。全盛時代とは動きも違うが、ボールさばきとハンマーバックハンドは健在。3-2とサムソノフリードの6ゲーム目、9-8でサムソノフが回り込んでストレートに打ったドライブがパーソンのコートかすめた。サイドのようにも見えたが、サムソノフは「ごめん」と手あげ、つられるように審判はサムソノフのポイントになり10-8でマッチポイント。パーソンは猛烈に抗議。「今のは完全にサイドだ」とアピールし、9-9にカウンターをめくる。オーロラビジョンで再生されたシーンが何度も流されるが非常に微妙でサムソノフは「やっぱり入っている」と主張し、パーソンは「今のはサイドだろ」と10分近くもめ、結局前代未聞のノーカウントとなり、9-8で再開。パーソンが逆転して、最終ゲームもすさまじい試合となり、最後は長いラリーのあとにハンマーバックハンドをストレートに決め、パーソンがベスト8を決めた。サムソノフはイスに座り込み立ち上がれなかった。
●女子シングルス準決勝
張怡寧(中国) -9、8、10、8、5 リ・ジャウェイ(シンガポール)
王楠(中国) -3、8、-4、7、3、6 郭躍(中国)

 女子シングルス準決勝は、04年アテネ五輪優勝の張怡寧と、00年シドニー五輪優勝の王楠が勝利。決勝は五輪女王対決となった。

 準決勝第1試合の張怡寧vs.リ・ジャウェイは、かつて共に北京市の什刹海(シーシャーハイ)体育学校で腕を磨いた同級生対決。出足からリ・ジャウェイが得意のフォア表ソフトの速攻で押し込み、互角以上の戦いを見せたが、中盤から張怡寧が両ハンドドライブでしっかり対応。逆にリ・ジャウェイは打ちミスが増え、ポイントが稼げなくなった。
 第2試合の王楠と郭躍は、ともに超級リーグの遼寧鞍鋼でプレーする遼寧省の先輩・後輩対決。第1ゲームから、郭躍が王楠の両ハンドドライブを前陣カウンターで狙い打ち、11-3で一気に先取する。しかし、さすがは百戦錬磨の王楠。台から距離を取り、巧みに緩急をつけて郭躍を揺さぶる。ゲーム中盤で大きくリードを広げる展開が続き、王楠がゲームカウント3-1とした第6ゲームも王楠が2-2から4-2、7-4、9-6と主導権を渡さない。このゲームを11-6で制した王楠が、2大会ぶりの決勝進出。女王は帰ってきた!