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中国リポート

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 中国卓球ファンの皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
 3月13日にカタール・ドーハから中国・マカオに帰国した中国チームは、現在も練習拠点である北京市に戻ることはできず、マカオで集合訓練を行っている。北京に戻れる日はそう遠くないはずだが、報道陣も選手にはほとんど接触することができない。5月23日に部内対抗戦が行われ、男子は樊振東、女子は王芸迪が優勝しているが、伝わってくる情報は限られている。

 中国リポートも(ますます)休眠状態に陥ってしまうので、渋めの企画を始めたいと思います。中国の主だった省や直轄市ごとに出身選手を取り上げ、その歴史や特徴を紹介する、題して『中国卓球人国記』。最新のニュースを挟みながら、不定期で連載していきます。第1回は中国で最も北に位置する黒龍江省、男子選手編からスタートしましょう……。

中国卓球人国記01「大器を育む黒龍江省-男子編」

◎黒龍江省出身の男子選手
[ハルピン市]孔令輝・王永剛(吉富永剛)
[綏化市]姜海洋・李洋
※不明 王飛・徐瑛彬

 黒龍江省が生んだ最大のスターは、なんと言っても2000年シドニー五輪金メダリスト、1995年世界チャンピオンの孔令輝。「精密機械」と称された正確無比なプレーで数々のビッグタイトルを獲得し、中国でも絶大な人気を誇った。中国のシェークドライブ型を一気に「世界標準」まで引き上げた、卓球史に名を残す偉大なチャンピオンだ。彼を育てた父・孔祥智さんもかつては黒龍江省男子チームでプレーし、引退後は黒龍江省男子チームの監督を長く務めた。

 黒龍江省男子チームは1991年の全中国選手権で、孔令輝、日本で長くプレーして日本国籍も取得した王永剛(93年世界選手権ベスト8/日本名:吉富永剛)、そして中国の「裏面打法・第一世代」である右ペンドライブ型の王飛(現・黒龍江省チーム総監督)らを主軸に男子団体優勝。中国超級リーグの全身である「全国卓球クラブリーグ」では1995年(黒龍江雅豊)・1997年(黒龍江金太陽明星)大会で優勝し、中国卓球クラブ超級リーグがスタートした1999年シーズンにも優勝を果たすなど、一時代を築いた。
 しかし、2005年にスポンサー企業を失ったことで、資金難に陥った男子チームは甲Aリーグへ降格。エースの孔令輝は山東魯能へ移籍し、長い低迷期に入ってしまった。

 そして孔令輝が17年世界選手権個人戦の開幕直前、カジノでの借金スキャンダルが持ち上がり、中国女子チーム監督の座を追われたのはまだ記憶に新しい。劉国梁が中国卓球協会の会長として完全復活した今、孔令輝は一連の権力闘争に巻き込まれ、「割を喰った」という印象が強い。カジノでの金銭問題など、その気になればいくらでも内部で処理できるからだ。

 孔令輝は2020年2月、新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受け、「加油! 武漢」というメッセージをSNS上で発信。久々に元気な姿を見せたが、かつての国民的ヒーローが卓球界の表舞台に返り咲く日は来るのだろうか。

★黒龍江省・男子明星隊 MEN’S HEILONGJIANG ALL STARS
先鋒 徐瑛彬
次鋒 李洋
中堅 王飛
副将 王永剛
大将 孔令輝

 黒龍江省出身の男子選手で、オールスターズを結成してみた。先鋒や次鋒というのは武道の団体戦の試合方式ですが、ご容赦くださいませ。若手のホープ、世界ジュニア代表の徐瑛彬を先鋒として、左シェークドライブ型の李洋(07年アジアジュニア優勝)、右ペンドライブ型の王飛、右ペン表の王永剛、そして右シェークドライブの孔令輝。戦型のレパートリーに富む、なかなか魅力的なチームですね。
  • 95年男子世界チャンピオンの孔令輝。そのプレーは実に美しかった

  • 懐かしい孔令輝の逆横バックサービス。チームメイトの王飛も裏面から出していた

  • 93年世界選手権ベスト8の王永剛。現在は指導者として活躍

  • 現在、黒龍江省チームの総監督を務める王飛。現役時代は細かった

  • 2006年世界ジュニア男子複優勝の右ペン表・姜海洋(右)。左はパートナーの呉ハオ

 ITTFワールドツアープラチナ・カタールオープンの終了後もカタールに留まり、受け入れ先を探していた中国チーム。3月12日の中国リポート『中国チーム、カタールオープンの獲得賞金を全額寄付』では、まだ受け入れ先は未定とお伝えしていたが、その直後にマカオが受け入れ先となることが伝えられた。そして13日、中国チームはカタールから香港に飛び、陸路でマカオ入りした。

 マカオは1999年にポルトガルから中国へ返還された特別行政区で、「カジノの街」として有名。2月には新型コロナウイルスの感染拡大で、そのカジノも2周間の営業停止となり、閑散とした街の様子が伝えられていた。しかし、この40日ほどは新規患者はゼロ。その安全性が評価され、中国チームの合宿先として白羽の矢が立ったというわけだ。

 ちなみに中国チームはマカオに入ってから14日間は、選手たちはホテルと体育館の往復のみで、毎日の体温測定が必須。人が集まる公共活動などにも参加できない。「旅先」のカタールよりストレスはずっと少ないものの、選手たちの日常はまだ戻ってこない。

 ITTF(国際卓球連盟)はすでに4月末まで、主催大会を一時的に中断することを発表。5月開催の香港オープンや中国オープンについては、今日16日に緊急会議を行い、開催の可否については今後発表される。中国は香港や深セン(中国オープンの開催地)に近いマカオで集合訓練を行い、ワールドツアー2大会に向けて調整していくが、大会が開催されるかどうかは微妙な状況だ。
 3月3〜8日にカタール・ドーハで行われたITTFワールドツアープラチナ・カタールオープンで、樊振東が男子シングルス優勝、陳夢が女子シングルス優勝など、5種目中4種目を制した中国チーム。男子シングルスで許シンがピッチフォード(イングランド)、林高遠(中国)がサムソノフ(ベラルーシ)に敗れ、女子シングルスでは丁寧が伊藤美誠(スターツ)に完敗を喫するなど、主力選手の敗戦もあったものの、25回目を迎えたカタールオープンで男女シングルスのタイトルは死守した。

 2月上旬からスタートしたドーハでの集合訓練は1カ月に及び、卓球用品も不足。当初は多球練習用のボールさえ地元のクラブから借りたほどだ。もともとドイツオープン後に帰国する予定だった選手たちも、中国から持ってきた用具が少なく、悪戦苦闘。樊振東は卓球シューズを2足しか持ってきておらず、1足は大会用にキープして残り1足を穴が空いても履き続けたと報道されている。

 中国チームはカタールオープンの開幕直前、「カタールオープンでの獲得賞金は、すべて湖北省武漢市での防疫活動に寄付する」と発表。その言葉どおり、男女シングルスの優勝賞金44000ドル(約460万円)をはじめとするすべての獲得賞金を寄付。さらに右ひじの故障により、カタールオープンを欠場した劉詩ウェンも、女子シングルスの優勝賞金と同じ額を寄付したという。寄付金の総額は24万6900ドル、日本円にして約2570万円に達した。

 カタールオープンの終了後、帰国してもともと2月に集合訓練を行う予定だった海南島に入るという報道もあった中国チーム。しかし、実際には今もまだカタールに滞在している。中国卓球協会の機関紙である『ピンパン世界』に今後の見通しを聞いてみたところ、「集合訓練を行う場所はまだ未定で、全力を尽くして要件を満たす場所を探している。帰国するのはまだ難しいかもしれない」という。

 彼らが滞在しているカタールでさえ感染が広がりつつある中、総勢40名を超える中国チームの受け入れ先を見つけるのは容易ではない。帰国できない選手たちのストレスはいかばかりか……。
  • カタールオープンの男子シングルスを制した樊振東(提供:ITTF)

 1月28日〜2月2日に行われたITTFワールドツアー・ドイツオープンで、男子ダブルスを除く5種目中4種目で優勝した中国。
 本来なら大会後、帰国して世界選手権団体戦・釜山大会に向けた集合訓練に入る予定だったが、現在中国では新型コロナウイルスの感染症が猛威を振るっており、首都・北京でも住民の移動制限などの措置が取られている。そのため、国家男女チームの主力選手29名は帰国せず、カタール・ドーハに移動。3月3〜8日に行われるITTFワールドツアー・カタールオープンまで、同大会の会場となるアスパイアドームで集合訓練を行っている。

 今回のドーハでの集合訓練が決まった経緯について、ITTFのスティーブ・デイントンCEOは以下のようにコメントしている(youtubeの『オフィシャルITTFチャンネル』より)。

 「現在、中国がコロナウイルスの感染拡大で難しい状況にあることは、誰もが認めるところだ。そして先週、中国オリンピック委員会は各競技のナショナルチームに対し、一時的に国外に練習拠点を置くなどの解決策を模索するよう、通達を出した。そのニュースを聞いて我々は中国卓球協会の劉国梁会長とともに、解決策を見出すために話し合いの場を持った。

 非常に短い期間ではあったが、我々は世界中の多くの人々と、問題解決のために全力を尽くした。そして来月上旬に行われるカタールオープンを前に、ITTFのカリル・アル-モハンナディ副会長と話し合った際、『1日以内に解決策を見つけることができるだろう』と言われた。その素晴らしいニュースを我々は中国卓球協会に伝え、中国側も非常に喜んでくれた。多くの条件をチェックしたが、中国チームにとっても滞在に適した場所だろうと感じている。加盟協会が困難な状況にある時、ITTFはいつでも手を差し伸べる用意ができている」


 監督やコーチ、トレーナーも含めると40名ほどの中国選手団だが、カタール卓球協会はドイツオープンの閉幕からわずか1日で、15台の卓球台を並べたトレーニングホールとホテルなどの住環境を用意した。国家チームはカタールオープンの閉幕後、韓国に飛び、韓国チームと合同合宿を行って世界選手権に備えるという。結果的に、中国には2カ月以上帰国できないことになる。

 「中国でのコロナウイルスの感染症発生のニュースを聞いて、私が心配したのは中国チームが国際大会に出場できないことだ。今年のカタールオープンは25回目の節目となる大会。私にとって、中国のいないカタールオープンや世界選手権など考えられない。私は友人である劉国梁氏に連絡し、必要とあらばいつでもカタールに来てもらって良いと伝えた」。
 カタール卓球協会会長でもあるITTFのカリル・アル-モハンナディ副会長は、そう語っている(『オフィシャルITTFチャンネル』より)。

 これまでも昨年6月のジャパンオープンや、11月のチームワールドカップの前に日本で1週間程度の合宿を行ったことがある国家チーム。しかし、これほど長期の集合訓練を海外で行うのは異例だ。中国卓球協会の劉国梁会長は、こんなコメントを発表している。
 「我々はずっと国内の(感染症の)状況を気にかけている。こんな時に我々にできることは、さらに練習への努力を重ねることだけだ。そして大会のフロアに中国国旗を掲げ、国歌を響かせて、国民の我々に対する期待に応えたい」。


 2月28日〜3月1日に海南省で行われる予定だったアジアカップは延期となり、2〜3月に中国卓球協会が開催予定だった大会もすべて延期となった中国。今回のドーハでの集合訓練は、いわば世界選手権団体戦に出場するための大掛かりな「隔離」措置だ。このまま事態が好転しなければ、釜山大会が厳戒態勢の中で行われる大会になることは間違いない。4月のジャパンオープン、5月の香港オープンや中国オープンにも影響を与えるのは必至の情勢だ。
  •  中国卓球協会の劉国梁会長(右)とITTFのカリル・アル-モハンナディ副会長

 少しお伝えするのが遅くなってしまいましたが、1月20日、中国卓球協会は世界選手権団体戦(3月22〜29日/韓国・釜山)にエントリーする中国男女チームのメンバー、各5名を発表した。メンバーは下記のとおり。

■中国男子チーム
◎秦志戩監督
馬龍・許シン・樊振東・梁靖崑・王楚欽
■中国女子チーム
◎李隼監督
劉詩ウェン・陳夢・孫穎莎・丁寧・朱雨玲

 中国男子は林高遠をエントリーから外し、オーストリアオープンでの「ラケット投げ事件」で昨年11月13日〜今年2月13日まで3カ月の出場停止処分を受けていた王楚欽をエントリー。団体の5番手、出場機会は恐らく1回という立場だが、このエントリー変更は意外だ。

 中国男子の秦志戩監督は王楚欽の選出に関して、こうコメントしている。「昨年、王楚欽は初めて世界選手権個人戦に出場し、馬龍とともに男子ダブルスで優勝。昨年の後半もシングルスで活躍を見せた。その技術は先進的で、シングルス・ダブルスとも能力が高く、我々としては彼の将来性を重視した」。

 一方、エントリーから外れた林高遠に対しては「昨年の世界選手権以降、林高遠は技術面、またビッグゲームでのメンタル面においてひとつの壁にぶつかっており、我々はずっと彼をサポートしてきた。ITTFの規定では、(開幕直前の)3月21日までメンバーの変更は可能だ。それまでの期間内に、すべての選手たちに世界選手権出場を目標として努力してもらいたい」。

 それにしても、今回の「落選」は林高遠にとってショックが大きいだろう。世界ジュニアでは3大会連続で失意の銀メダル。その後、雌伏の時を経て世界代表の座をつかみ、馬龍・許シンの引退後は主力選手のひとりになると目されてきた林高遠。3月に25歳という年齢を迎え、まさにこれからという時に代表落ちを味わうとは……。

 ともに左腕の林高遠と王楚欽を比較すると、フォアハンドでの攻めの速さと破壊力は、やはり王楚欽が上。そして感じずにはいられないのは、長く中国のライバルとなるであろう、ひとりの男の存在。「どちらがより張本智和に対抗できるプレースタイルか」ということだ。

 一方、中国女子は落選確実と見られた朱雨玲が『地表最強12人』を制し、一発逆転の代表入り。押し出される形で王曼昱が代表から外れ、孫穎莎は初の代表入りを果たした。五輪と世界選手権団体戦では試合方式が異なり、世界選手権団体戦はダブルスが行われないが、東京五輪を見据えた今大会の中国女子のオーダーは要注目だ。中国チームは1月12〜18日まで、北京郊外で恒例の軍事訓練を行い、春節(旧正月)返上でフィジカル強化に主眼を置いた集合訓練に入っている。
  • 林高遠、代表入りは確実と見られていたが……

  • 初の世界団体出場となる王楚欽、出場停止期間は「本当に孤独だった」そうです

 1月1〜4日、中国・深センで行われた世界選手権団体戦・釜山大会(3月22〜29日)の中国代表選考会『地表最強12人』。混合ダブルス、男子シングルス、女子シングルスの3種目の結果は下記のとおりだ。

〈混合ダブルス〉●ベスト3決定戦
馬龍/丁寧 4−0 林高遠/王曼昱
樊振東/顧玉ティン 4−0 于子洋/朱雨玲
許シン/孫穎莎 4−2 梁靖崑/陳夢
●到底血戦(2連勝したペアが優勝)
樊振東/顧玉ティン 12、7、−5、5 馬龍/丁寧
許シン/孫穎莎 8、8、−6、9 樊振東/顧玉ティン
許シン/孫穎莎 9、8、8 馬龍/丁寧

〈男子シングルス〉●ベスト6決定戦
樊振東 4−0 張煜東
周啓豪 4−1 趙子豪
林高遠 4−0 馬特
馬龍 4−3 薛飛
梁靖崑 4−1 周愷
許シン 4−3 徐晨皓
●ベスト3決定戦
樊振東 −9、9、8、6、−9、2 林高遠
周啓豪 7、−7、−7、8、9、−2、6 馬龍
許シン −7、−11、6、4、−10、8、11 梁靖崑
●到底血戦(2連勝した選手が優勝)
周啓豪 8、9、−6、5、9 許シン
樊振東 9、9、8、−3、8 周啓豪
樊振東 9、−9、−5、16、7、5 許シン

〈女子シングルス〉●ベスト6決定戦
陳幸同 4−1 何卓佳
孫穎莎 4−1 顧玉ティン
丁寧 4−0 張瑞
朱雨玲 4−0 銭天一
陳夢 4−1 劉斐
王曼昱 4−1 王芸迪
●ベスト3決定戦
陳夢 −3、6、−8、9、7、−5、6 陳幸同
朱雨玲 6、9、1、−8、−7、−9、7 丁寧
孫穎莎 9、−3、6、8、−6、−8、9 王曼昱
●到底血戦(2連勝した選手が優勝)
朱雨玲 9、9、7、−4、−8、9 陳夢
朱雨玲 −9、8、−6、7、9、5 孫穎莎

 大会前、海南省海口で集合訓練を行っていた劉詩ウェンが、車を降りる時に足首を捻挫したため、『地表最強12人』を欠場することが伝えられた。混合ダブルスの許シンのパートナーは、孫穎莎にスイッチし、即席ペアの許シン/孫穎莎が大会初日の混合ダブルスを制した。世界選手権団体戦ではもちろん混合ダブルスは行われず、今回の結果はあくまで、東京五輪でのペアリングの参考。しかし、間違いなく混合ダブルスに出場するであろう許シンのパートナーに、陳夢や王曼昱ではなく孫穎莎が選ばれたのは注目に値する。

 そして続く男女シングルス。まず男子シングルスでは、思わぬダークホースが飛び出した。第一次選考となる選抜リーグ3位で『地表最強12人』の出場権を得た周啓豪が、趙子豪と馬龍を連破し、3人で行う「到底血戦」で許シンをも破ったのだ。もし続く樊振東戦に勝利し、世界団体戦の代表切符を手にしていたら、中国の卓球史に残るサプライズだっただろう。初戦の薛飛戦もゲームオールまで粘られ、「今の自分はとにかく一戦一戦に全力を尽くすことを考えている」と語った馬龍だが、オーソドックスな右シェークドライブの周啓豪に敗れたのは意外だ。

 ここで存在感を見せたのが樊振東。周啓豪を4−1で破って進撃を食い止めると、許シンにも4−2で勝利して2連勝。見事に1枚目の世界代表の切符を手にした。
 12月のITTFワールドツアー・グランドファイナルを現地で取材して、驚かされたのが樊振東の前陣でのフォアへの飛びつき。「瞬間移動」と言いたくなるほどの速さで、馬龍のフォアサイドへの厳しいフォアドライブをカウンターで打ち返した。バックサイドは強引に回り込むよりも、打球点の早いバックドライブでストレートを攻め、どちらのサイドにボールが来ても高速カウンターで仕留める。樊振東は明らかにひとつ上のステージに立った。絶不調からの劇的な復活劇を、中国のメディアは「触底反弾」(V字回復)と表現する。

 そして女子シングルスでも「触底反弾」は起きた。19年世界選手権個人戦ではシングルスの代表から外れ、不振にあえいでいた朱雨玲が丁寧・陳夢・孫穎莎を連破して堂々の優勝。3−0から3−3に追いつかれながらも振り切った丁寧戦がひとつのヤマ場だった。「この優勝で周りの方々にも、自分に対しても顔向けできるという気持ちです」と優勝後に率直な心情を語った。

 これで中国女子の世界代表選考は難しくなった。世界団体の代表落ちも十分に有り得た朱雨玲が優勝したことで、中国女子は「丁寧・劉詩ウェン・陳夢・孫穎莎・王曼昱」の5人から、誰かひとりが落選する。そして世界団体からの落選は、東京五輪からの落選をも意味する。現時点では、王曼昱の立場がやや厳しいか……?
 明けて2020年の1月1日から4日まで、中国・深セン(土+川)では3月に行われる世界選手権団体戦の中国代表選考会『地表最強12人』が開催される。開催種目は男女シングルスと、今回初めて行われる混合ダブルスの3種目。男女シングルスの優勝者が世界選手権団体戦の代表第1号となる。男女チームの出場選手・各12名と混合ダブルスの6ペアは下記のとおりだ。

[男子シングルス]
馬龍、許シン、樊振東、林高遠、梁靖崑、趙子豪、薛飛、周啓豪、周愷、徐晨皓、馬特、張煜東
[女子シングルス]
丁寧、劉詩ウェン、陳夢、王曼昱、孫穎莎、朱雨玲、陳幸同、王芸迪、何卓佳、顧玉ティン、劉斐、張瑞
[混合ダブルス]
許シン/劉詩ウェン、馬龍/丁寧、樊振東/顧玉ティン、林高遠/王曼昱、梁靖崑/陳夢、于子洋/孫穎莎

 男子シングルスの出場選手は、ITTFワールドツアー・グランドファイナルに出場した馬龍・許シン・樊振東・林高遠・梁靖崑・趙子豪の6名に、1・2軍チームによる選抜リーグを勝ち抜いた6名を加えた12名。女子は選抜リーグは行わず、チーム内のランキング上位12名が出場する。男子の選抜リーグでは王楚欽が20勝2敗の好成績を残し、総合1位になったのだが、オーストリアオープンでの「ラケット投げ事件」で3カ月の出場停止処分が下ったため、総合6位の張煜東が代替出場。総合2位の薛飛、3位の周啓豪、4位の周愷、5位の徐晨皓、7位の馬特まで『地表最強12人』の出場権を勝ち取った。

 一方で、15年世界選手権2位の方博(総合8位)、13年世界選手権ベスト8の閻安(総合10位)、周雨(総合12位)といったベテラン勢は出場権を獲得できず。世界ジュニアチャンピオンの向鵬は総合9位と健闘したが、こちらも出場権獲得には至らなかった。14年世界ジュニアチャンピオンの于子洋は総合15位に沈むも、ダブルスでの戦績が評価され、孫穎莎との混合ダブルスのみ出場する。混合ダブルスについては選考会というより「エキシビション」だが、許シン/劉詩ウェンや馬龍/丁寧など五輪出場の可能性があるペアにとっては負けられない戦いになる。

 ちなみに3種目の試合方式は「血戦到底(シュエジャンダオディ)」というユニークなものだ。混合ダブルスは1回戦、男女シングルスは1・2回戦を行った後、勝ち残った3ペアあるいは3名が総当たりで試合を行い、2連勝したら優勝(混合ダブルスは5ゲームズマッチ/男女シングルスは7ゲームズマッチ)。1勝1敗で「3すくみ」になった場合は獲得ゲーム数の計算ではなく、1ゲームマッチ(11点制)で再び総当たりの試合を行い、また「3すくみ」になったら5−5からスタートする1ゲームマッチで総当たり、また「3すくみ」になったら8−8からスタートする1ゲームマッチで総当たり、それでも決まらなければ10−10からスタートする1ゲームマッチで総当たり……という具合に、2連勝する選手やペアが現れるまで試合を続ける方式だ。

 世界選手権団体戦の中国代表メンバーは、11月のチームワールドカップに出場した男女各5名が選ばれる可能性が高い。男子の馬龍・許シン・樊振東・林高遠・梁靖崑、女子の丁寧・劉詩ウェン・陳夢・王曼昱・孫穎莎という顔ぶれだ。今回の『地表最強12人』の男女チャンピオンも、恐らくこの5名の中から生まれるだろう。女子はその他にも朱雨玲・陳幸同・王芸迪・何卓佳などの実力者が揃うが、気にかかるのが朱雨玲だ。グランドファイナルで王曼昱にストレートで敗れた一戦はまるで「無気力試合」だった。東京五輪への道はほぼ閉ざされ、2024年パリ五輪の時には29歳という年齢。この当たりでもう一度、健在ぶりをアピールしてほしい。

 馬龍・許シン・樊振東の3名が東京五輪代表にほぼ「当確」の男子に対し、中国女子は丁寧がピークを過ぎつつある。世界女王の劉詩ウェンと世界ランキング1位の陳夢は代表入りが濃厚だが、残るひとりは実績と経験の丁寧か、あるいは日本勢に分の良い孫穎莎か。団体戦でのオーダーの柔軟性も加味して、キャプテン丁寧に引退の花道を用意するのが既定路線だが……。この『地表最強12人』も、選手たちにとっては1試合1試合が首脳陣にアピールする舞台だ。
 今日11月24日、タイ・コラートで開幕した世界ジュニア選手権。17回大会の開幕を記念して、2003年の第1回サンチアゴ大会から今大会までの中国の世界ジュニア代表メンバー、男女各4名をひたすら掲載します。それでは、どうぞ!

2003 第1回 チリ・サンチアゴ
[男子]李虎・鄭長弓・張継科・馬龍
[女子]李茜・彭陸洋・曹臻・李暁霞

2004 第2回 日本・神戸
[男子]馬龍・李虎・周斌・林晨
[女子]常晨晨・劉詩ウェン・范瑛・王シュアン

2005 第3回 オーストリア・リンツ
[男子]楊策・劉ミャオ・方力・石磊
[女子]丁寧・彭雪・曹麗思・劉凱倫
※北京市ジュニアチームを派遣

2006 第4回 エジプト・カイロ
[男子]徐克・呉ハオ・姜海洋・許鋭鋒
[女子]馮亜蘭・文佳・木子・武楊

2007 第5回 アメリカ・パロアルト
[男子]許鋭鋒・宋時超・閻安・張聖伍男
[女子]楊揚・文佳・木子・李暁丹

2008 第6回 スペイン・マドリッド
[男子]閻安・宋鴻遠・程靖チィ・方博
[女子]曹麗思・王大琴・陳夢・熊欣芸

2009 第7回 コロンビア・カルタヘナ
[男子]方博・閻安・林高遠・宋鴻遠
[女子]武楊・顧玉ティン・陳夢・曹麗思

2010 第8回 スロバキア・ブラチスラバ
[男子]宋鴻遠・林高遠・周雨・呉家驥
[女子]朱雨玲・易芳賢・趙岩・顧玉ティン

2011 第9回 バーレーン・マナーマ
[男子]林高遠・鄭培峰・宋鴻遠・呉家驥
[女子]陳夢・朱雨玲・顧玉ティン・顧若辰

2012 第10回 インド・ハイデラバード
[男子]樊振東・林高遠・范勝鵬・徐晨皓
[女子]朱雨玲・顧玉ティン・顧若辰・劉高陽

2013 第11回 モロッコ・ラバト
[男子]周愷・孔令軒・周啓豪・梁靖崑
[女子]顧玉ティン・劉高陽・王曼昱・劉㬢

2014 第12回 中国・上海
[男子]于子洋・薛飛・劉丁碩・呂翔
[女子]王曼昱・朱朝暉・何卓佳・陳可

2015 第13回 フランス・ヴァンデ県
[男子]劉丁碩・薛飛・朱誠・王楚欽
[女子]王曼昱・王芸迪・陳可・陳幸同

2016 第14回 南アフリカ・ケープタウン
[男子]楊碩・徐海東・于何一・徐英彬
[女子]石洵瑤・孫芸禎・劉ウェイ珊・袁媛

2017 第15回 イタリア・リーヴァデルガルダ
[男子]薛飛・王楚欽・牛冠凱・徐海東
[女子]孫穎莎・王曼昱・石洵瑤・銭天一

2018 第16回 オーストラリア・ベンディゴ
[男子]徐海東・向鵬・徐英彬・于何一
[女子]銭天一・石洵瑤・郭雨涵・黄凡真

2019 第17回 タイ・コラート
[男子]徐英彬・向鵬・曾蓓勲・劉夜泊
[女子]蒯曼・陳熠・石洵瑤・呉洋晨

 ……こうして振り返ってみると、現在の中国代表の主力選手は、必ずといっていいほど世界ジュニアを経験している。唯一と言っていい例外が許シンで、2006年に北九州で行われたアジアジュニアには出場したが、世界ジュニアに出場することはなかった。

 2006年大会のジュニア男子シングルス決勝で、松平健太に敗れた「モヒカン少年」徐克。2007年大会のジュニア男子団体決勝で、勝利を決めた後に台に乗って物議をかもした宋時超などは懐かしい名前。宋時超は腰を傷め、20歳でラケットを置いて学業の道に戻った。2008年マドリッド大会で、シェークフォア表ソフトの攻守で4冠に輝いた女王・曹麗思は、シニアではほとんど活躍できず。チャンピオンクラスでも、決して将来が約束されているわけではないのが中国代表の厳しさだ。
 11月14日、中国卓球協会は『中国卓球協会による国家チーム選手・王楚欽、及び担当コーチ・劉国正に対する処罰に関する決定』を発表。王楚欽を11月13日〜2020年2月13日まで3カ月間の「停賽(大会出場停止)」処分とし、担当コーチである劉国正も11月13日〜12月13日までの1カ月間、大会への帯同を禁ずることを明らかにした。王楚欽と劉国正コーチは大会期間中に中国へ帰国した。

 「事件」は前日の11月13日、ITTFワールドツアープラチナ・オーストリアオープンの決勝トーナメント進出決定戦で発生。チームメイトの趙子豪と対戦した王楚欽が、ゲームカウント0ー2の3ゲーム目、6ー10から失点。苛立ちを抑えきれず、ラケットを放り投げてしまった。趙子豪サイドのコートで弾み、フロアに落ちたラケットは趙子豪が拾い上げた。試合は結局、王楚欽が0ー3から3ー3まで追い上げたものの、趙子豪が4ー3で勝利。趙子豪はそこから決勝まで勝ち上がり、樊振東に敗れたものの、準優勝という好成績を残している。

 プレーにはまだ粗さが残る王楚欽だが、試合では決して「キレやすい」タイプではなく、むしろ粘り強く戦う印象があった。今回の一件はチームメイトとの対戦ということで、精神面のあまさが出てしまったのだろう。

 選手の問題行動に迅速な対応を見せた中国卓球協会は、今年1月のハンガリーオープンでも、ラケットを交換しようとしてラバーを故意に剥がした周雨に3カ月の出場停止処分、コーチの馬俊峰に国際大会への帯同禁止1カ月の処分を下した。2018年1月には、中国卓球クラブスーパーリーグの試合中に対戦相手の張煜東を罵(ののし)ったハオ帥がリーグ戦で2試合出場停止。さらにさかのぼれば、2006年の神戸でのアジアカップで、王皓に敗れた陳チィ(王+己)がラケットを放り投げ、フェンスを蹴り上げ、農村へ1週間の「下放」処分を受けた。畑の草取りをしている陳チィの画像を、当時はよく目にしたものだ。左利きの選手が多いのは、偶然かそれとも必然か……。

 王楚欽はITTFワールドツアーのスタンディング(獲得ポイントのランキング)で7位。今週行われるT2ダイヤモンドの出場選手リストにも入っており、中国卓球協会の処分が実行されれば、両大会の出場はキャンセルになる。ワールドツアーのスタンディングでは、日本の丹羽孝希が18番目に名を連ねており、故障などで出場をキャンセルする選手が出れば、繰り上がりでグランドファイナルに出場できるチャンスも出てくる。最終盤に入った日本の五輪選考レースに、思わぬ影響を及ぼすかもしれない。
 11月6〜10日に東京・東京体育館で行われた『JA全農 ITTFチームワールドカップ』。中国は男子が8連覇、女子が9連覇を達成した。
 最終日の女子団体の表彰が行われたあと、中国選手団が表彰式で集合写真を撮っているのを見て、改めて驚かされたが、総勢40名を超える大選手団。開幕の10日前に来日して調整合宿を行い、男女ともライバルチームの主力選手と同じプレースタイルの若手選手を、スパーリングパートナーとして何人も連れてきていた。調整からベストを尽くしてつかんだタイトルだった。

 そんなチームワールドカップで撮影した中国選手の写真を、お蔵入りになる前に「中国選手写真館」としてご紹介。スマートフォンではちょっと見にくいかもしれませんが、どうぞご覧ください。来週末からタイで開催される世界ジュニア選手権を取材する中国リポート担当。世界ジュニアの中国代表選手なども紹介していきます。