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中国リポート

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 皆様、大変ご無沙汰を致しました。全中国運動会から帰国し、締め切りを終えた中国リポート担当兼速報担当。観戦して印象に残ったいくつかのことを、つらつらと書き連ねていきたいと思います…。

其の壱. 激太り? それでも強かった王皓

 男子団体準々決勝でコートに登場した王皓は、優勝した5月の世界選手権横浜大会の時より、明らかに体重が増えていた。筋肉で体がひと回り大きくなったのではなく、余計なものを一枚身にまとったという感じがした。左写真上は04年アテネ五輪での王皓、左写真下は全中国運動会での王皓。その差は歴然だ。横浜大会が終わって、すぐに全中国運動会予選やプロツアー、超級リーグが続くタイトなスケジュールの中で、なぜ太ってしまうのか不思議でしょうがない。ハードな筋力トレーニングを重ねている体は、太るのも早いということか…。
 しかも王皓は団体準々決勝で許シン(上海)に敗れ、団体決勝ではトップで馬琳(広東)に逆転負け。混合ダブルス決勝も序盤は明らかに緩慢なプレーで、試合中に笑みさえ浮かべていたほどだった。横浜大会での優勝が、彼から勝利へのモチベーションを奪ってしまったのか。団体戦が終わった時点では、こちらも好調とは言えないにせよ、動きの良い馬龍のほうがタイトルに近いと思われた。

 しかし、シングルスに入ってからの王皓は強かった。3回戦の唐偉(内蒙古)戦は、前日に唐偉が江天一(香港)を完璧に打ち抜いていただけに注目していたが、唐の強烈なスマッシュも中陣からの両ハンドドライブで対応し、守備の弱い唐偉のバックサイドへ威力あるボールを集めて、あっという間に料理してしまった。準決勝の許シン戦も競り合ったが、デュースの連続の中でも、無理な強攻によるミスはなく、非常に冷静にプレーしていた。

 そして男子シングルス決勝の王皓vs.馬龍は、信じられないほどハイレベルな一戦だった。何しろ、世界ランキング1位と2位のふたりが、試合後に「今までの対戦の中では最高の試合」と口を揃えたのだ。中国の国内大会ではあるが、球史に残る一戦と断言できるだろう。近年のトップクラスの試合にしては珍しく、20回以上続くフォアドライブの引き合いもしばしば展開され、賑やかな中国の観衆さえ固唾(かたず)を呑んで見守った。両者一歩も引かないラリーの中で、場内に異様な熱気が生じ、次第に膨張していくあの感覚は、今もって忘れがたい。

 王皓のプレーでひとつ印象的だったのは、決勝で3回ほど見せたフォアクロスへの打球点の低い横回転ドライブ。限界まで打球点を落とし、ネットの高さギリギリから滑り込ませるように入れる。ドライブと言ってもほとんどトップスピンはかかっていない。中国のペンホルダーの選手は、対カットなどでもこのような横回転ドライブ、あるいは横下回転ドライブ(!)を使うことがあり、馬龍のカウンターはツッツキを打った時のようにネットへ突き刺さった。王皓はこの横回転ドライブや、ダブルストップからのコースを突くフリック、弧線の低いループドライブをうまく使って得点を稼ぎ、要所では電光石火のカウンター連打。体はまだ小結くらいだが、プレーはまさに横綱相撲の貫禄で、馬龍の強攻をうまくさばいた。

 まとまりのない文章ですみませんが、その2「王励勤と馬琳の引退の時期は?」に続きます…。

Photo左:初々しい20歳の王皓(04年アテネ五輪)と、09年全中国運動会での王皓
 なんと1年9カ月ぶりの登場となる中国卓球トリビア。長く中国リポート担当のパソコンに眠っていた小さな小さな豆知識を、放出いたします…。

1. 現世界チャンピオンの郭躍の両親は…
-勉強がおろそかになるのを心配して、娘を体育学校に入れようとしなかった

☆郭躍は小学校時代、非常に成績優秀で、学校でもトップクラスだった


2. インドネシア卓球チーム総監督の劉国棟と、実弟の劉国梁の名前を足すと…
-国の「棟梁」になる。

☆「棟梁」は中国語で国家を担う人物のこと。母親が願いを込めて命名した。ではこの兄弟についてのトリビアをもうひとつ…


3. 劉国棟の結婚式の時、花婿である劉国棟の介添え人は…
-劉国正が務めた

☆劉国棟・劉国梁と劉国正の間には血縁関係はないが、中国でも兄弟と間違える人がいるらしい。ちなみに劉国棟の結婚式で司会を務めたスポーツアナウンサーの梁言は、最初に「本日は劉国『正』と馬萍の結婚式にお越し頂き…」と挨拶して、会場の笑いを誘った


4. サウスポーの陳杞は生まれつき左利きだが…
-字だけは右手で書く

☆小さい頃、左手で「鏡文字(左右が反転した文字)」を書いていたため、両親が右手で書かせるようになった


5. 五輪2連覇の女王・張怡寧は幼稚園時代まで…
-「張寧」という名前だった

☆張怡寧が通い始めた幼稚園に同じ「張寧」ちゃんが2人もいたため、母親が改名した。ちなみにバドミントン界にも、04・08年五輪女子シングルスで2連覇を達成した「張寧」選手がいる。もし張怡寧が改名していなかったら、卓球とバドミントンの女王が同姓同名になっていた。見た目は似ていないが、かなり紛らわしい

↓中国卓球トリビアのバックナンバーは以下のとおりです…

2007/12/08『これで最後? 中国卓球トリビアその3』
2007/11/10『思わず唸る中国卓球トリビア、その2!』
2007/10/15『思わず唸る中国卓球トリビアが集合!』

Photo上:卓球の世界に進んだおかげで、世界チャンピオンまで昇り詰めた郭躍
Photo中:字を書く時以外はすべて左手を使う陳杞
Photo下:背中のゼッケンに注目。張怡寧の寧は簡体字(中国で使用される簡略化された漢字)です。張怡寧のお兄さんの名前は張宇、宇の「于」の下の横棒を取って、「張寧」と名付けられたのだとか…
 89年ワールドカップ優勝、92年バルセロナ五輪シングルス銅メダリストの馬文革(マ・ウェンガ)が、長くプレーしていたドイツから帰国し、地元・天津市チームのコーチとして活動している。97年にドイツ・ブンデスリーガに参戦し、オクセンハオゼンやグレンツァオ、フリッケンハオゼンなどの強豪チームでプレー。ブンデスリーガでは常に勝率のトップ5に入り、所属するチームを5度の優勝に導いた。

 馬文革は1968年3月27日生まれ、現在41歳。奥さんの李ファン(王+番)さんとの間に、11歳の豪澤くん、7歳の安則くんのふたりの子どもがいる。卓球を始めたのは7歳の時、17歳にして全中国選手権を制した天才プレーヤーだ。当初はシェーク・バック表ソフトの異質速攻型だったが、後にバックを裏ソフトに替え、両面裏ソフトの攻撃型へと変身した。プレーの持ち味はなんといってもフォアの連続ドライブ。身長は公表168cmと決して高くないが、抜群の運動能力を生かし、コート狭しと動き回って切れ味鋭いカミソリドライブを連発した。手首を活用して叩くバック強打も、近年の中国代表には見られなくなった技術だ。

 馬文革のプレーを見たい方に、個人的にオススメの試合を3つ選ぶとしたら、まずは92年バルセロナ五輪・男子シングルス準々決勝のパーソン(スウェーデン)戦、そしてやはり外せない95年世界選手権団体決勝2番、同じくパーソンとの大一番。極めつけは97年世界選手権男子シングルス6回戦、クレアンガ(ギリシャ)戦だ。強打者同士のノーガードの打ち合いは、馬文革(21-19、19-21、22-24、25-23、21-17)クレアンガ、という大激戦。一部では「史上最高の打撃戦」との呼び声も高い。ちなみに馬文革は続く7回戦(ベスト8決定戦)で渋谷浩(当時:日産自動車)と対戦、第1ゲーム9-19のビハインドからパワードライブを連発し、12点連取で第1ゲームを奪うという離れ業も演じている。

 中国男子がスウェーデンに覇権を奪われた90年代前半、中国男子チームのエースでありながら数々の辛酸を舐め、95年世界選手権天津大会でついに男子団体の王座を奪回。地獄と天国をともに味わった馬文革。同世代の張雷(93年世界選手権複2位)は北京市チーム総監督、于沈潼(89年世界選手権3位)は遼寧省男子チーム監督、王永剛(日本名:吉富永剛/93年世界選手権ベスト8)は黒龍江省女子チーム監督。3選手とも日本の実業団リーグでプレーした後、それぞれ指導者への道を歩んでいる。
 全中国運動会の展望について、「男子チームはハオ帥と李平がいるし、本来のプレーを発揮できれば、3番手の成績次第では男子団体のタイトルも狙える位置にいる」と馬文革は語っている。彼のもうひとつの目標は、超級リーグで各クラブに散らばっている天津市チームの選手を呼び戻し、天津市チームを復活させること。07年シーズンには浙商銀行の一員として超級リーグに参戦し、王皓(八一工商銀行)をも破った馬文革。(中国リポート 2007/08/20『頼れるアニキ・馬文革が王皓を破った! 男子12節』を参照)。天津市チームが超級リーグに復活すれば、再びプレーヤーとしてコートに立つ可能性もありそうだ。

Photo上:フリッケンハオゼンでプレーしていた05年当時の馬文革。奥はダブルスのパートナーだったルンクイスト(スウェーデン)。04-05年シーズンはプレーオフ決勝でヴュルツブルグに敗れ、準優勝に終わった
Photo下:馬文革が評して曰く「技術的には全く問題ない。よりリラックスして、闘志を全面に出して戦えば良い」。天津市の不動のエースであるハオ帥(写真提供:ITTF)
 9月9日、重陽節を迎えた北京市で中国卓球クラブ超級リーグの総括大会が開催され、馬龍が男子選手のMVP、劉詩ウェンが女子選手のMVPに選ばれた。
 2シーズン連続のMVP、しかも今シーズンはチームを優勝へ導いた馬龍は、「2年連続でMVPを獲得できたことは本当に嬉しいし、その他の大会でも良いプレーができたと思う」とコメント。充実した超級リーグのシーズンを終えた。一方の劉詩ウェンは、「今シーズンは試合数が本当に多くて、二カ月ちょっとで40試合も戦ったけど、MVPを獲得できた。夢に見ていた目標がひとつ叶いました」と初々しいコメントを残した。
 今シーズンから超級リーグの男女MVPの選手には、超級リーグのスポンサーである宝飾品チェーンの『周大福』から「MVPリング」が贈られる。台座に3本のラケットを配し、龍や花紋があしらわれたこのリングはなんと時価7万元(日本円で100万円相当)。しかし、惜しむらくはサイズが特大で、馬龍でもブカブカ、劉詩ウェンは親指でもまだ大きかったという。…せっかくならサイズくらい合わせればいいのに、と思うのだが、ふたりが激太りでもしない限り、記念品として飾っておくことになりそうだ。

 また、総括大会では中国卓球協会の蔡振華会長と、国家体育総局卓球・バドミントン管理センターの劉風岩主任の記者会見も行われた。蔡振華会長は会見で、超級リーグの試合時間の長さについて言及。「超級リーグの試合は3時間から4時間にも及び、試合が夜の11時までかかることも珍しくない。テレビでの放映にも影響が出ている。もし試合時間を短くできれば、卓球ファンの子どもたちを試合に引きつける効果もあるはずだ」(蔡振華)。
 さらに蔡会長は次のような提案をしている。「回転は卓球の試合の中で非常に大切な要素でありながら、現在観客にとって最も分かりにくいものになっている。中国卓球協会は超級リーグへの導入を目指して、すでに回転がわかりやすいカラーボールや、黒と白に色分けしたピンポン球などの試作を始め、年内にテストする予定だ。卓球台もよりビジュアル的に優れたものにしていきたい」。日本でもレジャー用の卓球セットにラインの入ったピンポン球が入っていたり、回転がわかりやすいようにマジックでピンポン球を色分けする指導者の方はいるが、それを超級リーグで正式に導入する動きがあるというのだ。これは実際に試合を見ている観客よりも、むしろアップやスロー再生が入るテレビ中継を念頭に置いた発言か。卓球が「観るスポーツ」として受け入れられる一助になるとすれば、非常に興味深い。

 劉風岩主任は、超級リーグの「外援(助っ人外国人選手)」について、「外国人選手の受け入れが不十分だったのは、今シーズンの超級リーグの課題のひとつ。将来的には外援の人数制限などもなくして、より多くの他協会の選手をリーグに呼び込んでいきたい」とコメント。しかし、現在の超級リーグに参戦できるレベルの選手は非常に少ないし、男子のヨーロッパ選手では、プロリーグ設立が進むロシアへの移籍が増えてきている。過密なスケジュールを考えると、ベテラン選手のフル参戦も難しい。果たして来シーズン、海外のスター選手の参戦はあるのか?

Photo上:「超級リーグをNBAに」がスローガンの蔡振華
Photo下:孤軍奮闘したシーズンが報われたか、女子MVPの劉詩ウェン(写真は世界選手権横浜大会より)
 「真の中国チャンピオン決定戦」とも言える全中国運動会。男女シングルス(決勝トーナメント)に出場するのは、男子38人、女子39人。妙な端数(はすう)であるうえ、女子のほうがひとり多いあたりが何となく「大陸的」だ。
 左は男子シングルス(上)と女子シングルス(下)のトーナメント表(※クリックで拡大)。黒数字は現在世界ランキングを持っている選手のランキング、グレー数字は以前世界ランキングを持っていた選手の最高位のランキングを表している。第1シードの王皓と張怡寧、第2シードの郭躍と馬龍はともに世界ランキングの1位と2位。男子は15人、女子は14人が世界ランキングのトップ50に入っており、「世界選手権より勝つのが難しい」と言われるのも決して誇張ではないことが、お分かり頂けるだろう。

★★★ 男子シングルス ★★★

 チャンピオンは、100%に近い確率で8人の重点強化選手(王皓・馬龍・馬琳・王励勤・陳杞・ハオ帥・張継科・許シン)の中から誕生するだろう。その中でもやはり優勝候補の筆頭は、現世界チャンピオンの王皓(解放軍)。今年は念願の世界選手権のタイトルを獲得。やや体重が増えているのが気になるが、プレースタイルの完成度は高く、ビッグタイトルを獲得したことで精神的にも余裕を持って戦えそうだ。対抗は第2シードの馬龍(北京市)。超級リーグで今季34勝6敗、弱冠20歳にして技術的にはチャンピオンの名に恥じないものがあり、長丁場の全中国運動会では体力面のアドバンテージも優位に働くだろう。
 優勝候補の双璧である王皓と馬龍だが、王皓は今回優勝を逃すと4年後の第12回大会では30歳と、選手としてのピークをやや過ぎてしまう。一方の馬龍は24歳、まさに選手としてのピークに差しかかる。前回の05年大会決勝で王励勤に完敗を喫していること、年齢的に今回がほぼラストチャンスであることを考えると、大会にかける意気込みという点では王皓がやや上回っているか…?
 王皓、馬龍に続く3番手には、ともに優勝経験のある王励勤と馬琳のふたりが入ってくる。ドローを見ると馬琳が許シンか李静、王励勤がハオ帥に準々決勝で当たる組み合わせ。ここはしっかり勝ち抜きそうだ。王励勤が優勝すれば、男子では大会初の2連覇ということになる。そして注目すべきは、昨年の全中国チャンピオンである張継科。精神面の脆(もろ)さにやや不安があるが、全中国選手権では馬琳・王励勤・王皓を連破して優勝。準々決勝で馬龍と当たる厳しい組み合わせだが、地元青島の出身ということもあり、ダークホースのひとりと言える。

☆☆☆ 女子シングルス ☆☆☆

 第1シードの張怡寧が大会2連覇を狙う。ブロックのドローを見ても、準決勝までは問題なく勝ち上がるだろう。近年やや故障が多いが、死角のない両ハンド攻守のプレースタイルは円熟の極みにあり、女子ダブルス・混合ダブルスに出場しないため、体力的にも不安はなさそうだ。
 第4シードの劉詩ウェンのブロックは、劉詩ウェンがシードを守って勝ち上がりそうだが、劉詩ウェンの運命を左右するのは、世界ランキング11位の丁寧の勝ち上がり。2回戦の范瑛vs.馮亜蘭の対戦で范瑛が勝利すれば、范瑛は続いてカット打ちの苦手な丁寧を破り、準々決勝まで上がってくるだろう。そうなれば、カットを苦にしない劉詩ウェンの準決勝進出はまず問題ない。しかし、范瑛が馮亜蘭に敗れた場合、丁寧がその馮亜蘭を破って準々決勝に進む可能性が高く、劉詩ウェンにとっては準決勝進出を賭けた厳しい一戦となる。
 第3シードの李暁霞のブロックは、準々決勝で李暁霞vs.郭炎の大一番が実現しそうだ。郭炎はおそらく今大会が現役最後の全中国運動会、これまで全中国のシングルスでは良いところがないが、侮れない実力者。そして第2シードの郭躍は、首の故障からどこまで復調してくるか。準々決勝の対戦相手は世界選手権横浜大会で大苦戦した姜華君か、全中国チャンピオンの文佳。準決勝で李暁霞との「永遠のライバル対決」に臨むまでは負けられない。

 会場も熱い盛り上がりが予想される全中国運動会・卓球競技。中国リポート担当も大会に潜入、大会の模様をリポートする予定です。ご期待下さい!
 9月24日~10月2日に行われる全中国運動会・卓球競技は、正式には全中国運動会・卓球競技の決勝トーナメントだ。たとえば男女シングルスに出場できるのは、予選が免除されたシード選手と予選を勝ち抜いた選手24名、合わせて38名しかいない。今年5月に内モンゴル自治区のフフハトで行われた全中国運動会予選ではダブルスで波乱が続出、男子ダブルスで馬琳/張超(広東)、混合ダブルスで馬琳/劉詩ウェン(広東)、陳杞/陳晴(江蘇)らが敗れている。これまで全中国運動会では個人戦3種目を全て制した「三冠王」はひとりもいないが、馬琳や劉詩ウェンにはすでに三冠王挑戦への資格がないのだ。
 今大会の男女団体・シングルスのドローを見る前に、前回の無錫大会(05年)の決勝のスコアをおさらいしておこう。

■第10回全中国運動会・卓球競技 2005.10.11~18/江蘇省無錫市
[男団決勝]江蘇省(陳杞・單明杰・秦志ジェン) 3-1 解放軍(王皓・柳洋・李陟)
[女団決勝]北京(張怡寧・郭炎・丁寧) 3-1 山東省(李暁霞・彭陸洋・姜華君)
[男単決勝]王励勤(上海) 3、1、6、5 王皓(解放軍)
[女単決勝]張怡寧(北京) -6、6、-8、-6、7、6、9 王楠(遼寧)
[男複決勝]王励勤/劉杉(上海) 10、-7、-12、4、-9、11、8 馬琳/張超(広東)
[女複決勝]李暁霞/彭陸洋(山東) 10、-13、5、3、7 李楠/唐娜(天津)
[混複決勝]徐輝/郭躍(遼寧) 9、8、7、9 王励勤/張晶(上海)

 王励勤が男子シングルス・ダブルスを制し、混合ダブルスも決勝まで進出して三冠王にあと一歩まで迫ったが、混合ダブルス決勝で徐輝/郭躍ペアに完敗した。女子団体優勝の北京市は、準決勝で王楠・郭躍・常晨晨を揃えた遼寧省を相手に0-2から逆転勝ちし、団体2連覇を決めている。
 それでは、まず男子団体戦の予選グループの組み合わせから見ていこう。

★男子団体
A:解放軍、河北省、四川省、新彊ウイグル自治区
B:山東省、天津市、河南省、通信体育協会、香港
C:上海市、北京市、浙江省、福建省
D:江蘇省、広東省、遼寧省、黒龍江省、マカオ

 各グループの上位2チームまでが準々決勝へ進む。断トツの優勝候補筆頭は昨年の全中国選手権・団体戦を圧倒的な強さで制した解放軍。超級リーグでは孤軍奮闘の王皓だが、本来は解放軍の所属であるふたり、山東魯能・中超電纜のエース張継科と錦州銀行のエース雷振華がチームに加わり、層の厚さでは群を抜いている。3番手の雷振華はシングルスで予選落ちしたため、団体戦に力を尽くすだろう。
 もっとも、戦力が充実したチームがあっても、全中国運動会には「楽勝」という文字は存在しない。超級リーグの最多勝男・馬龍に閻安・侯英超がいる北京市、王励勤と伸び盛りの許シンがいる上海市、馬琳と張超を擁する広東省などが虎視眈々と優勝を狙う。続いて女子団体の組み合わせはこちら。

☆女子団体
A:北京市、山西省、四川省、河北省
B:山東省、広東省、上海市、浙江省、マカオ
C:解放軍、湖北省、江蘇省、雲南省
D:遼寧省、黒龍江省、天津市、広西チワン族自治区、香港

 …団体戦に出場するのは当初16チームずつだったのだが、予選が終わったあとで突然香港とマカオが組み込まれ、男女とも18チームで戦うことになった。マカオはともかく、香港は男女とも強豪チーム。女子の黒龍江省などは、2位通過が望める組み合わせだったところに香港が入ってきたのだから、災難としか言いようがない。この香港とマカオの参入には、かなり批判の声が上がったようだ。
 女子団体の優勝候補はやはり北京市だ。大黒柱の張怡寧に、郭炎と丁寧が両脇を固める陣容で、3連覇へ向けて死角はない。北京市を倒す可能性があるとしたら、郭躍・常晨晨・楊楊の遼寧省と李暁霞・彭陸洋・曹臻の山東省か。特に山東省は戦力的には北京市に劣らないものがあるが、李暁霞は右肩痛、彭陸洋は腰痛と故障を抱え、全力でプレーできるかどうかは微妙だ。劉詩ウェンがいる広東省も上位進出の可能性はあるが、2番手以下が不在なのが痛い。

 その3ではシングルスのドローと優勝者予想をお伝えします!

Photo上:01年第9回大会で優勝した王楠。国内外で無敵を誇った女王の貫禄です
Photo中:第9回大会決勝で王楠に逆転負けし、感情を爆発させた張怡寧。「不動心の女王」もまだ19歳、試合態度の悪さゆえに大会後、謝罪文の発表、国際試合の出場停止などキツいお仕置きを受けた
Photo下:05年第10回大会の決勝で王皓に完勝、笑顔でベンチに戻る王励勤
 中国では9月24日~10月2日まで、第11回全中国運動会・卓球競技が開催される。開催地は山東省青島(チンタオ)市。青島ビールと家電の「海爾(Haier/ハイアール)」で有名な港湾都市だ。

 全中国運動会は日本で言えば国民体育大会に相当するが、開催は4年に1回。別名「中国のオリンピック」とも言われ、熱く盛り上がる大会だ。指導者にとっては、この大会での成績がひとつの手腕のバロメーターにもなる。
 第1回全中国運動会が行われたのは1959年。容国団が世界選手権ドルトムント大会で中国人初の世界チャンピオンになってから、半年後のことだ。卓球ももちろん正式競技に加えられていたが、旧中華民国時代(1912年~1949年)に行われていた「全国運動会」では、度重なる加入要求にも関わらず、卓球がなかなか正式競技に加入できなかった。「卓球を入れるならカルタも入れよ」と明治神宮競技大会への加入が進まなかった日本と同様、卓球が競技スポーツとして認知されていなかったためだ。1948年の第8回全国運動会で正式競技に加わるまで、全国運動会への加入は中国の卓球人の悲願だった。そして中国初の世界チャンピオン・容国団の登場により、卓球は花形競技のひとつとして第1回全中国運動会に登場することになる。
 やや長くなるが、全中国運動会の歴代チャンピオンを下にあげておこう。

第1回大会(1959) [男単]王伝耀 [女単]胡克明  [男複]姜永寧・庄家富 [女複]邱鐘恵・叶佩ジン [混複]荘則棟・邱鐘恵
第2回大会(1965) [男単]荘則棟 [女単]林慧卿  [男複]徐寅生・李富栄 [女複]梁麗珍・黄玉環  [混複]陸巨方・梁麗珍
第3回大会(1975) [男単]王文栄 [女単]閻桂麗  [男複]梁戈亮・趙卓敏 [女複]李明・劉新艶   [混複]李鵬・李明
第4回大会(1979) [男単]王会元 [女単]斉宝香  [男複]廖福民・黄堅果 [女複]戴麗麗・沈剣萍  [混複]王会元・劉新艶
第5回大会(1983) [男単]恵鈞  [女単]焦志敏  [男複]江加良・黄文冠 [女複]戴麗麗・沈剣萍  [混複]滕義・趙曉雲
第6回大会(1987) [男単]王涛  [女単]焦志敏  [男複]陳龍燦・成応華 [女複]耿麗娟・李恵芬  [混複]王振義・劉偉
第7回大会(1993) [男単]呂林  [女単]トウ亜萍 [男複]王涛・劉国梁  [女複]李菊・ウ娜    [混複]王振義・喬雲萍
第8回大会(1997) [男単]王涛  [女単]トウ亜萍 [男複]王涛・劉国梁  [女複]トウ亜萍・張輝  [混複]秦志ジェン・楊影
第9回大会(2001) [男単]馬琳  [女単]王楠   [男複]馬琳・劉国正  [女複]王楠・張瑞    [混複]秦志ジェン・楊影
第10回大会(2005) [男単]王励勤 [女単]張怡寧  [男複]王励勤・劉杉  [女複]李暁霞・彭陸洋  [混複]徐輝・郭躍

 …見てのとおり、文化大革命期の混乱などが原因で、きっちり4年おきに大会が開催されたわけではない。そうそうたるビッグネームが並ぶが、75年の第3回大会の男女チャンピオンはややマイナーか。昔の記録をひも解いてみると、男子単優勝の王文栄は1972年の第1回アジア卓球選手権に出場し、準々決勝で河野満(日本)をストレートで破って3位に入賞。女子単優勝の閻桂麗はダブルスのスペシャリスト、タイトルにこそ恵まれなかったが、世界選手権の女子複・混合複で銀メダル2個、銅メダル2個を獲得している。第6・7回大会の混合ダブルスで優勝した王振義は、実業団リーグのびわこ銀行で活躍し、のちに日本に帰化した青山振一選手だ。

 その2に続きます…。

Photo上:05年第10回大会の会場となった無錫体育館。中国卓球協会の蔡振華会長の故郷でもある
Photo中:選手たちに声援を送る観衆
Photo下:05年当時まだ現役だった孔令輝、人気は健在だった
 07年世界選手権優勝の郭躍(中国)が、広東省深セン(土+川)市にある深セン大学が新設するスポーツ訓練コースへ入学した。深セン大学は1983年に創立された公立の総合大学。スポーツ訓練コースには郭躍をはじめ、24名の全国トップクラスのスポーツ選手が入学。中国の大学の新学期は、この9月からスタートしているが、郭躍は全中国運動会に向けた調整のため、まだ深センを訪れてはいないようだ。
 深セン大学が新たにスポーツ訓練コースを設置したのは、2011年に深センで開催される学生スポーツの祭典、第26回ユニバーシアードを視野に入れてのこと。中国は通常。男子が上海交通大、女子が華東理工大などから選手を派遣、女子の劉娟や戴寧陽は「ユニバーシアード専用選手」のようになっているのだが、地元開催となると話は別だ。中国が初めてユニバーシアードを開催した2001年北京大会では、王励勤・劉国正・張怡寧・牛剣鋒といった強力なメンバーを送り込み、7種目を完全制覇している。ちなみに男子シングルス優勝は王励勤、女子シングルス優勝は張怡寧と牛剣鋒を連破した帖雅娜で、帖雅娜はその翌年に香港へ移籍している。

 なぜ郭躍は、厳しい入学試験を受けることもなく、大学生になることができたのか? それは中国では優秀なスポーツ選手や、スポーツを引退した元選手の入学試験が免除されているためだ。中国国家体育総局も2008年6月、「2008年優秀運動員免試進入高等学校学習工作的通知(優秀なスポーツ選手の大学入学および学習における、試験免除に関する通知」を発し、世界大会や全国大会で一定の成績を収めたスポーツ選手は、大学入学試験を免除するよう通知している。ちなみに中国の「高等学校」は日本の大学に当たり、日本の高等学校は中国では「高級中学(高中)」と言う。

 卓球界でも国家1軍チームのメンバーやOB・OGだと、大学の入学試験はほとんど免除。そのため、現役生活の後期や引退した後、北京大学や清華大学、上海交通大学など、名だたる名門大学に進む選手も多い。しかし、清華大学を卒業してイギリスへ渡り、ついにケンブリッジ大学の博士号まで取得してしまったトウ亜萍のような才媛は特例中の特例。今年6月には上海交通大学が劉国正(01年世界選手権団体優勝)を始めとする5人のスポーツ選手に対し、規定で定める単位数を取得できなかったということで退学という処分を下した。しかも劉国正は上海交通大に在籍しながら、06年に河北師範大で学士を取得し、退学の通知を受けた時には北京体育大学の修士課程で勉強に励んでいたという。一流選手たちを広告塔として利用しようとする大学もあり、より名の通る肩書きを求める選手たちとの双方の思惑の中で、学籍を置くだけの名ばかりの学生が増えることになる。

 郭躍も中国女子チームの主力選手である以上、勉強のために深セン大学に通う時間はまずない。しかも郭躍の母体は深セン市から2,000km以上離れた遼寧省だ。純正・学生選手のみのメンバーで挑む日本からしてみれば釈然としないが、ユニバーシアード深セン大会の中国代表チームは、世界選手権クラスの豪華メンバーが揃うことになるかもしれない。

Photo:小学生時代は学校でもトップクラスの成績だった郭躍
 9月に入って、現世界チャンピオン王皓の熱愛報道が中国のマスコミを賑わせている。お相手は国家1軍チームのチームメイトである彭陸洋(07年世界選手権ベスト8)。すでに2年ほど前から交際をスタートさせていたそうで、王皓の担当コーチである呉敬平いわく「別にニュースでも何でもない。ようやくマスコミに報道されるなんて、遅すぎたくらいだ(出典:法制晩報)」。

 2006年、王皓が所属する八一工商銀行から1シーズンだけ山東魯能へ移籍した際、山東魯能の女子卓球部に所属する彭陸洋と親密の度を深めたようだ。八一工商銀行の王涛監督(96年アトランタ五輪銀メダリスト)曰く「成績に影響が出なければ、王皓と誰が交際しようと反対する理由はないし、干渉する必要もない」。彭陸洋が所属する山東省女子卓球チームの喬雲萍監督(95年世界選手権3位)は「もう子どもではないのだから、恋愛をするのは当然でしょう」。そして国家チームマネージャーの黄ピャオ氏も「若手選手の場合は成績への影響が懸念されるが、王皓は今年で26歳、彭陸洋も23歳。年齢的には正常なことだろう」と、いずれも容認する姿勢を見せている。周囲が寛容なのは、やはり世界選手権横浜大会で王皓がタイトルを獲得できたことが大きいのだろう。

 かつては「恋愛厳禁」と言われた国家卓球チーム。04年には「恋愛関係」を理由に、范瑛・白楊・李楠・侯英超の4選手が、国家チームから省チームへ戻されるという処分を受けている。この4選手のうち、当時馬琳と交際していたのが白楊、そして王皓と交際していたのが范瑛だった。馬琳と王皓はアテネ五輪という重要な大会を控えていたため、処分が下されることはなかったのだ。
 そのため、今回の王皓と彭陸洋の報道に関しても、再び范瑛がクローズアップされる結果となり、ネットには王皓と范瑛のツーショットだと称して、なぜか范瑛のそっくりさんが王皓と撮影した写真が流出。実際によく見ないと気づかないくらいよく似ているのだが、范瑛は自身のブログで「5年も6年も前のことに、今さら何か言おうとは思わないけど、どこの記者がどこからこんな写真を探してきたの。これが私? よく見ればわかるでしょう?」と怒りをあらわにしている。

 八頭身と言っても過言ではない抜群のスタイルで、国家女子チームでもファンの人気を集めている彭陸洋。07年女子ワールドカップの際に行われたITTF(国際卓球連盟)のファッションコンテストでは、選手モデルも務めた。公式のプロフィールではふたりとも同じ175cm。一緒に並んだらスタイルの差で、王皓のほうがやや分が悪いか…。

Photo上・中:王励勤や馬琳、孔令輝の派手な交際報道の陰で、静かに(?)交際を続けていた王皓(上)と彭陸洋。
Photo下:彭陸洋、小顔です…
☆2009中国卓球クラブ超級リーグ・女子最終順位
1.  北京時博国際
2.  山東魯能・路安集団
3.  広東珠江怡景湾
4.  遼寧鞍鋼
5.  冀中能源・北大方正
6.  江蘇中超電纜
7.  八一長安医院
8.  山西大土河華東理工
9.  重慶康徳
10.  大同雲崗・雁北賓館 ※自動降格

☆2009超級・甲Aリーグ女子入れ替え戦
重慶康徳(超級) 3-1 四川川威(甲A)
※重慶康徳は超級リーグ残留

 2009中国卓球クラブ超級リーグ、女子の最終成績は上記のとおり。
 優勝した北京時博国際は、昨シーズン郭炎の移籍により3連覇を逃したが、今シーズンは2番手の丁寧が成長。3番手の層の薄さを補ってあまりある活躍で、チームの王座返り咲きに大きく貢献した。特筆すべきことは、北京には第1ステージで1試合もストレート勝ち、あるいはストレート負けがないこと。世界選手権の疲労がたまっている張怡寧を何試合か休ませ、6敗を喫しながら第1ステージをトップ通過。そしてプレーオフで一気にエンジン全開、対戦チームも万全の状態ではなかったが、4試合でわずかに失点1と完璧な試合運びを見せた。
 2位の山東魯能・路安集団はエース李暁霞が好不調を繰り返しながら、大黒柱としてチームを決勝まで導いた。2番手の彭陸洋が腰痛のため不調だったのが痛手だったか。3位・広東珠江怡景湾の劉詩ウェンは、シングルスの勝ち星で言えば男子の馬龍にも匹敵する成績を残したが、ダブルスが6勝14敗と足を引っ張った。新戦力の加入がなければ、来シーズンもプレーオフ進出が精一杯だろう。4位・遼寧鞍鋼はエース郭躍の不在が、2番手常晨晨の潜在能力を引き出した。3番手の楊楊も勝負強く、来季は久々に優勝を狙える戦力が揃っている。

 5位以下のチームでは、冀中能源・北大方正が開幕から6連勝で第1ステージ序盤を大いに盛り上げた。8位の山西大土河華東理工はシーズン前は優勝候補の一角に挙げられながら、2番手に起用された饒静文の不調などもあり、最後まで波に乗り切れなかった。開幕から10連敗の重慶康徳は、6~10位決定戦でエース金キョン娥の健闘もあり、辛うじて超級リーグ残留。2番手の賈君がシングルス2勝22敗、来シーズンもプレーを続けてほしいが…。チームは来季のエース候補として、郭炎や馮天薇に狙いを定めているようだ。
 シングルスの成績上位者は下記のとおり。

☆女子シングルス個人成績 TOP10(勝利数)
1.  劉詩ウェン(32勝5敗/広東珠江怡景湾)
2.  張怡寧(28勝6敗/北京時博国際)
3.  李暁霞(28勝12敗/山東魯能・路安集団)
4.  郭炎(19勝12敗/山西大土河華東理工)
5.  曹臻(18勝19敗/八一長安医院)
6.  丁寧(17勝7敗/北京時博国際)
7.  范瑛(17勝14敗/江蘇中超電纜)
7.  金キョン娥(17勝14敗/重慶康徳)
9.  常晨晨(16勝10敗/遼寧鞍鋼)
10.  馮天薇(15勝15敗/冀中能源・北大方正)
※  郭躍(10勝4敗/遼寧鞍鋼)

 シングルス32勝5敗、小さな体をフル回転させた劉詩ウェンが最多勝・最高勝率となった。第1ステージ・プレーオフ合わせて20試合を戦った広東珠江怡景湾。40試合の出場機会のうち37試合に出場した劉詩ウェン、正面突破のプレースタイルだけに、どうしても故障が気にかかるが…。2位の張怡寧は今シーズンもしばしば格下に星を落としながらも、要所はビシッと締めた。重慶康徳のエース金キョン娥の17勝14敗も立派な成績。キムチで鍛えられた金キョン娥、地元重慶の名物である激辛の「重慶火鍋」がいたく気に入り、大量に「火鍋の素」を買い込んで帰国したそうだ。

 2009中国超級リーグも終了。各選手とも9月24日にスタートする「全中国運動会」に向け、最終調整に入っています…。

Photo上:シングルス最多勝の劉詩ウェン、孤軍奮闘のシーズンを終えた
Photo中:まさに超級リーグ女子の「優勝請け負い人」である張怡寧
Photo下:男子の朱世赫とともに、韓国女子のエースとして存在感を見せた金キョン娥
(写真はいずれも世界選手権横浜大会)