この前、ついにね、手で空を切りましてね。
まぁこの歳になってくると、そういう技がおのずと使えるようになってくるというか、ホント、不意に来たって感じだったんですけど。
これを皮切りに、これからもどんどん空を切っていく予感しかないんですけど、ちょっと聞いてもらっても良いですか?
サイゼリヤに入る前、めっちゃイケメンなことをしてくるお兄さんがいまして。
なんとペルーの女の子に、ピンク色の薔薇をプレゼントしてきたのです!
えー! つって! 超ビックリサプラーイズ! つって、女の子二人は驚きながらもキャッキャしながら薔薇を受け取っていましたが、私も負けじと驚いていたと思います。
えー! 私には無いのぉ~? って。
女の子二人が受け取った後「はい、次、私~!」って薔薇を受け取ろうと手を差し伸べたんですけど。
確かに、若干フライング気味な所はあった。
それは私が完全に悪い。
陸上や水泳だったら最初からやり直しよね。
私も最初からやり直してほしかった。無かったことにしてほしかった。
差し出した両手がさー、まるでエジプトのピラミッドの壁画に描かれている「古代の神々に仕えるもの」みたいな感じにしばらくなってんの。
その瞬間、「嗚呼、これが噂で聞いたことのある『日本の空手』か」と実感しましてね。
これが……、あの空手?
空手か?
空手なのか?
両手が「古代の神々に仕えるもの」みたいになってるけど、本日を持ちまして、これを「空手」と呼びたい。
見たかペルー人よ。これが本場の「空手」だぞ、と。
ここが原点であり、起源。オリジナルであり、元祖。
目あらば見よ。耳あらば聞け。
その後、膝から崩れ落ちそうになりました。
でもね、薔薇は貰えなかったけど、全然気にしてないんです。
ヤキモチとか、そういうのは一切ない。私がペルー国籍を持っていないだけで薔薇をもらえなかったなんて、そんなの全っ然気にしてない。
多分ですけど、私が一緒に卓球しなかったからだと思います。後ろで「速く動け!」とか「もっと速く動け!」とかばっかり言ってて、一緒に卓球しなかったのが原因かなと。
てゆかさー、自分ペルー人じゃないのに、薔薇をもらえるだなんて、そんな図々しい事思っちゃだめだよね。
あれ? ジョバニ君もペルー人だけど、彼も薔薇をもらえてなかった……。
泣くな、泣くな少年よ。泣いたって、薔薇はプレゼントしてもらえないんだから。
本場の空手を見ただろう! 俺の屍を越えて行け! その間にお前は先に進むんだっ! って、ジョバニ君にウインクしながら合図したんですけど、ウインクが上手く出来てなくて「あれ? イズミコーチ、なんか泣いてる?」みたいになっちゃって。
もしかしたら本当に涙が出ていたかもしれないので、急いでドリンクバーの所に行き、そっと涙を拭きました。
家に帰って母に「今日ね、私とジョバニ君は薔薇をもらえなくてね……」と言ったら「えー! ひどーい」って言ってくれました。ありがとうお母さん。私、頑張る。薔薇をもらえなくても、私、挫けない。前を向いて、歩き続けるんだって、母の顔を見ながら誓いました。
薔薇のお兄さんは悪くない。薔薇をもらった二人も悪くない。
フライングで「古代の神々に仕えるもの」みたいな手をした私が悪い。