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ユース五輪・卓球競技

 世界ランキング3位、ランキングから言えば優勝候補筆頭として今大会に臨んでいる中国の樊振東。しかし、その試合はどれも圧倒的な内容ではない。男子シングルスの準々決勝では孔嘉德(香港)にゲームオールまで迫られたし、昨日の韓国戦でもストレートで勝利したものの、3ゲームとも11ー9と競り合った。彼ほどの選手でもやはり動揺しているのか、ビビっているのか、それとも何とも思っていないのか。

 男子シングルス決勝で樊振東と戦った村松は、「樊振東は表情が変わらないし、何を考えているのか読みにくい」と言う。もちろん競った場面では声も出すし、ミスをした時には表情をゆがめることもあるのだが、基本的にはポーカーフェイス。「さすがに弱気になったかな」と思ったら、それまであまり打ってこなかったようなボールまで、フルスイングで狙ってきたりする。

 相手に与える情報が少ないという点では、現世界チャンプの張継科と似たところがあるかもしれない。特に眼だ。個人的な感想になってしまって申し訳ないが、カメラ越しに見ていても彼の眼にはあまり「色」がない。12年世界ジュニア選手権で、彼とシャトルバスで乗り合わせた時の第一印象が、今もって忘れがたい。「なんて遠い眼をした少年なんだろう。これが天才の眼なのか」と(本当ですよ)。

 今日の大会最終日に、シングルスとの2冠を狙う樊振東。ひとつ確かなことは、体力的にはまだまだ余裕があるということだ。近くで見ればみるほど、ドラム缶のような彼の体つきはすごい。この体であれだけの瞬発力を発揮できるというのが、またすごい。
 大会最終日の8月23日、混合団体・準決勝は午前10時(日本時間11時)から日本対香港戦。トップは加藤対杜凱琹だが、今年のカタールオープンのU-21シングルス1回戦で対戦し、ゲームオール13ー11という接戦の末に加藤が勝利している。言わずもがなのことではあるが、日本としてはトップで勝利して、2番村松対孔嘉德で一気に勝負を決めてしまいたい。孔嘉德は今大会、快速フットワークから放つフォアドライブで、対攻撃では抜群の強さを見せているが、村松のカットを打ち抜くほどの技巧やパワーはないと見る。
 午前11時30分スタートの中国対タイは、中国の優位は揺るがない。しかし、トップに出場するタイのタモルワンは非常にクレバーな選手。プレーのバランスが良く、凡ミスも少ない。劉高陽の焦りを誘うことができれば、波乱を起こす可能性はある。

 日本のメダル獲得はなるか、そしてメダルの色は? 4年に1回のユース五輪、泣いても笑っても残すところあと2試合だ。
 混合ダブルスの決勝トーナメント1回戦、準々決勝をともに2ー0で制した日本。さすがに村松、加藤の両選手とも疲労の色は隠せない。今朝、田㔟邦史監督は「無駄な一球を打たない」「集中力を切らさない」ということを選手たちに伝えた。「どんどん体力勝負になってきているし、できる限り無駄なゲームは戦わせたくなかった。フランス戦では、加藤の試合の第2ゲームで早めにタイムアウトを取ったり、村松がゲームカウント2ー0の6ー3でリードしていても、そこで試合を決めるためにタイムアウトを取った。選手たちはよく頑張ってくれた」(田㔟監督)。

 ゆるやかなタイムテーブルのユース五輪だが、大舞台で戦うプレッシャーの中で、すでに6日間戦ってきた選手たち。緊迫したシングルスが終了した後、予選グループでは勝敗に関係なく3番・混合ダブルスまで行うという、極めて特殊な試合形式の混合団体がすぐに始まった。選手間のレベルの差も大きく、集中力を保つのは非常に難しい。

 それでも、泣いても笑っても大会はあと1日。「4年に1回の大会だから、選手たちには悔いの残らないようにやってもらいたい。多少の疲れはあるだろうけど、全身全霊を懸けて戦ってほしい。明日、全力で戦います」と田㔟監督。速報担当も、その戦いを最後まで全力で追いかけます。
 混合団体・準々決勝で中国に敗れ、ベスト8に終わった韓国。第4シードまでに入れなかったことで、準々決勝で中国と当たる厳しいドローになってしまったが、トップの朴セリが劉高陽をゲームカウント2ー1でリード。第3ゲームの10ー8のゲームポイントでは、フォアクロスにカウンタードライブで打ち抜き、大観衆をざわめかせた。
 2番の金民爀も、フォアサイドを切られたボールにも大きく飛びついてクロスへ引き返し、互角の打ち合いを展開。3ゲームとも9ー11と惜しい内容だった。バック対バックで、樊振東のたたきつけるような強打を警戒するあまり、緩急への対応が遅れた感があった。

 今大会、もうひとつ存在感を示せなかった韓国だが、中国戦では意地を見せた。タイやブラジルなど新興勢力が台頭する中で、やはり韓国に元気がないと、卓球界も盛り上がらない。
  • 劉高陽との左腕対決で接戦を演じた朴セリ

  • 台上バックドライブからの両ハンド、金民爀

●混合団体・準々決勝
〈タイ 2ー0 チャイニーズタイペイ〉
○タモルワン 4、ー6、9、ー5、8 邱嗣樺
○パダサック 10、7、ー6、9 楊恒韋

〈中国 2ー0 韓国〉
○劉高陽 7、ー9、ー8、6、7 朴セリ
○樊振東 9、9、9 金民爀

 混合団体・準々決勝で大きな波乱。タイが第4シードのチャイニーズタイペイをストレートで下し、ドイツに続いて大物食い。なんと明日のベスト4へ勝ち残った!

 トップのタモルワンは、「2〜3回やっているけど勝ったことがない」という邱嗣樺に対し、バック面の粒高を粘り強く攻略。回転をしっかり把握し、プッシュにはハーフボレーやバックドライブ、下回転系のショートは確実にツッツキで返球。最後は邱嗣樺が根負けする形で、タイが大きな先制点を挙げた。

 この勢いが、2番のパダサックにも乗り移る。左腕から放つ連続フォアドライブの切れ味に加え、楊恒韋が小さく前に落とすループドライブや、ストップ性のブロックは、無理に強打せずに確実につないで次球を狙う。
 場内は完全にタイペイの応援一色。パダサックがサービスの打球に入る時に、わざと「台北隊、加油!」の声援を送る心ない観客もいたが、最後まで集中力を切らさなかった。勝利の瞬間、崩れ落ちるようにフロアに寝転がったパダサック。タイに歴史的な勝利をもたらした選手たちには、試合後にサインをねだる子どもたちが殺到。一部の大人たちとは違い、タイの選手たちのクリーンかつガッツあふれるプレーは、子どもたちの心をしっかりつかんだようだった。
  • 邱嗣樺を破ったタモルワン

  • 歓喜! パダサックの勝利の瞬間

  • コーチも吠えた!タイに歴史的な1勝

  • サインを求める子どもたちが鈴なりに

●混合団体・準々決勝
〈日本 2ー0 ヨーロッパ2〉
○加藤 7、7、2 トロスマン
○村松 10、12、3 ラネフル

〈香港 2ー0 クロアチア〉
○杜凱琹 8、7、10 ラコバチ
○孔嘉德 6、10、6 プツァル

 日本、難敵と思われたヨーロッパ2を2ー0で撃破。準決勝進出を決めた!

 勝負の行方を決めるトップでトロスマンと対戦した加藤は、トロスマンの打ち気を外すように、細かいコース変更と巧みな緩急で対応。第2ゲームに3ー6とリードされる場面があったが、ここから7点連取で10ー6とし、11ー7で2ゲーム連取。短気なトロスマンは第3ゲーム中盤から集中力が切れてしまった。
 2番ラネフルは回転量の多いパワフルなドライブで、村松のカットを攻め立てた。村松はカットにイージーミスがやや多く、第1ゲーム7ー10、第2ゲームも9ー10から3回のゲームポイントを奪われるなど、苦しい戦い。しかし、早く決めたいラネフルはゲームポイントで強打のミスを繰り返した。村松は中陣からのドライブでの反撃もうまく織り交ぜ、終わってみればストレート勝ち。

 大会もすでに第6日目。加藤、村松ともにさすがに疲労の色は隠せない。しかし、いよいよ大会も明日の2試合を残すのみ。4年に1度のビッグゲームで、悔いを残さずに戦ってほしい。明日の準決勝の相手は香港だ。
  • 最後はキレてしまった感のあるトロスマン

  • ラネフルは強さともろさが同居していた

  • 村松とラネフルの一戦

 混合団体・決勝トーナメントの1回戦が終了(下記トーナメント表を参照)。中国、韓国、チャイニーズタイペイ、香港といった強豪は順当に2ー0で勝ち上がったが、ドイツがタイに1ー2で敗れた。
 ドイツはオルトが左腕パダサックとのゲームオールの接戦を制したが、右シェーク・バック表のワン・ユエンが勝ち星を稼げず、ダブルスでもミスが目立った。投げ上げバックサービスという特長はあるのだが、フォアの攻めの早さやナックルの変化もなく、攻めの遅いスタイル。もっと個性を追求したい。

 韓国はチェコを下したが、準々決勝の相手は中国。この試合に敗れると、メダルを獲得できないまま大会を終えることになる。クロアチアはトップでラコバチがディアコヌ(ルーマニア)とのゲームオールジュースの死闘を制し、ベスト8進出。

下写真左はタイのタモルワン(手前)/パダサック、右は苦戦に表情が曇るドイツのワン・ユエン(左)/オルト
●混合団体・決勝トーナメント1回戦
〈日本 2ー0 フランス〉
○加藤 5、13、4 ザリフ
○村松 9、3、9 アックズ
※決勝トーナメントからは2点先取で試合終了

 混合団体・決勝トーナメント1回戦、フランスと対戦した日本は、トップ加藤がザリフに3ー0、2番村松がアックズに3ー0で勝利し、混合ダブルスまで持ち込まれることなく、2ー0で勝利を決めた。

 フランスのザリフは強く弾き打つバックハンドで加藤のフォアを突き、2ゲーム目には12ー11でゲームポイントを取られる場面もあった。しかし加藤が追いつき、14ー13から3球目カウンタードライブで打ち抜いて15ー13。そのまま第3ゲームも奪ってストレート勝ち。
 アックズはドライブでの力攻めでは不利と見て、バックのツッツキとブロックを交えて村松を崩しにかかったが、決め手を欠いた。村松はバック表ソフトのカットの変化が冴え、バックドライブも一発で決まる破壊力。快調なプレーを続けている。

 一方、隣のコートで行われていたラテンアメリカ1とヨーロッパ2の試合は、3番ダブルスのゲームオールまでもつれたが、ラネフル(スウェーデン)とトロスマン(イスラエル)のヨーロッパ2が勝利。このヨーロッパ2は手強い。トップ加藤、トロスマンの闘志にペースを乱されないよう、冷静に戦いたい。今日はこの準々決勝が正念場だ。
  • ミスが出てもどんどん攻撃を仕掛けた村松

  • アックズ、頭脳的なプレーも通じず

  • ヨーロッパ2のペア、ラネフル(左)のバックサービスは強力

 五台山体育館のメディアルームは、昨日・今日といたって静か。シングルス決勝が行われた20日は席を確保するのも大変なくらいだったが、決勝が終わると潮が引いたように人がいなくなった。手作りの南京市内のマップが貼ってあったりして、アットホームな感じだ。ボランティアの子たちは皆とても親切で、よく気がつく。

 スプライトやコカコーラ・ライト、ミニッツメイドも飲み放題ですが、体重計に乗りたくない速報担当は静かにミネラルウォーターを飲んでます。
 大会第6日目にして、やはり触れないわけにはいかないでしょう。第2回ユース五輪のマスコットキャラクター「ラーラー」。漢字で書くと「石石(ラー)石石(ラー)」、石がふたつで「ラー」と読む。楽しいの「楽(ラー)」と音が同じだ。南京特産の雨花石、つまり鉱物をモチーフにするあたり、なかなか前衛的なのだが、ルックスはさらにアバンギャルド。日本人的な感性だと、これを「カワイイ!」と言う人はなかなかいない。王国編集部の高部大兄と新保女士くらいでしょう(内輪な話でスミマセン)。

 しかし、中国人の感性には割とフィットしているようで、会場の周りや繁華街にあるグッズショップはなかなか繁盛している。ピンバッジ、マグカップ、Tシャツといった定番から、数珠、小型扇風機、果ては純銀製の超高級ラーラーちゃんまで。ラーラー尽くしなのだ。
 試合の合間には3体ほどフロアに現れて、なぜかスーパーマリオブラザーズ1の懐かしい音楽とともに、コミカルな演技を披露。南京航空航天学院の学生たちが70人ほど、「中の人」に動員されたとのこと。お疲れさまです!
  • 深夜に20体くらい、道の向こうから歩いてきたら…

  • 足は収納可能らしい

  • ラーラーグッズは意外な人気