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中国リポート

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 1月14日、中国男子チームの劉国梁監督の企画・立案のもと、「直横大対決(ペンvsシェーク大対決)」が行われた四川省成都市。悠久の歴史を持つこの古都で、卓球にまつわるちょっとした騒ぎが持ち上がっている。

 騒動の発端は、成都市で発行されている『成都商報』が運営する地域情報サイト「成都全捜索」に寄せられた、ハンドルネーム“jujuber”という女性からの書き込みだった。2月のある日の昼下がり、成都市の慶雲西街のとある一軒の餃子屋に入ったjujuberさん、餃子を運んできた店員を見上げてびっくり仰天した-「劉国梁が餃子を運んできた!」。国家チームのジャージを前掛けに変えて、鋭い眼光を少しやさしくした他は、まさしく瓜二つだったそうだ。
 「劉国梁は国家男子チームの監督を辞めて、成都で餃子屋に転身したのかしら? それとも成都の美食の噂を聞いて、“覆面調査員”をしているのかも。もしかして…、お忍びで成都に美女を探しにきたの?」とjujuberさんは想像をたくましくしたようだが、落ち着いて本人に聞いてみて一件落着。「僕は劉国梁じゃないですよ、でもみんなそっくりだって言いますね」。

 「劉国梁にそっくりすぎる餃子屋さん」の正体は、今年20歳になったばかりの秦龍さん。写真で見てみると多少は似ているが、中国にはざらにいる顔という気もする。5年ほど前に餃子屋で働き始めた時には、劉国梁に似ているとは誰にも言われなかったそうだが、仕事が落ち着くに従って運動嫌いの秦さんは体重が急増。体重が15kgも増え、毎日のように「劉国梁にそっくりだ」と言われるようになったというから傑作だ。結婚を予定している同じ餃子店の女子店員とは、ユニフォームを来て結婚写真を撮ることも計画中だとか。
 最近、日本に続いて「美人すぎるバスの車掌さん」「美人すぎる飴売り」などが続々と登場、マスコミへの売名行為という批判も多い中国だが、秦龍さんの今後も少々心配になってくる。もっとも、餃子店の女性店主は「マスコミに騒がれると、彼が根拠のないうぬぼれをして、今後のためにならない」と取材を拒否。まさしく地に足のついた感覚と言うべきで、この騒動もこれ以上大きくなることはなさそうだ…。

↓餃子を仕込んでいる秦龍さんの写真はこちら(中国・人民網)
http://news.xinmin.cn/rollnews/2010/03/04/3854963.html

Photo:正確には「“監督になってからの”劉国梁にそっくりな餃子屋さん」。劉国梁、ファンのためにももう少しダイエットしたい?
 2月23~27日に行われたITTFプロツアー・クウェートオープンで、世界ランキング15位の許シンがプロツアー初優勝を果たした。プロツアー出場10大会目での初優勝は王皓(8大会)には及ばないが、馬琳(10大会)と並び、また王励勤(16大会)や馬龍(17大会)を上回る記録。まだプロツアーでの優勝がないライバルの張継科を一歩先行し、中国男子チームの主力選手へ成長しつつあることをアピールした形だ。

 もっとも、クウェートオープンの前週に行われたカタールオープンでは、1回戦で徐賢徳(韓国)に敗れていた許シン。今大会でも準々決勝でプロツアー・グランドファイナルでは勝っている上海市チームの先輩・王励勤に敗れ、一度はトーナメントから姿を消していた。しかし、王励勤のラケットから基準値以上の有機溶剤が検出されて失格となったため、奇跡の復活で準決勝に進出。馬龍に終始リードを許しながら辛くも逆転勝ちを収め、決勝では馬琳に3回のマッチポイントを奪われながら、大逆転で優勝を飾った。これほどドラマチックというか、危うい低空飛行の優勝もなかなかないだろう。
 「彼はカタールオープンでは、まだ(出場権を獲得した)『直通莫斯科』での喜びに浸っている雰囲気が抜け切っていなかった。クウェートオープンもカタールオープンよりちょっと調子が良かったくらい。今回の優勝は偶然というか、ラッキーな部分もある」(許シンの担当コーチ・秦志ジェン/出典『新浪体育』)。秦コーチの意見は手厳しいが、若手選手にとって勝利は最大の栄養。許シン、今回の優勝でさらに大化けする可能性もある。

 一方、女子シングルスでは、カタールオープン決勝で郭躍にゲームオールで敗れた劉詩ウェンが、今度は決勝で福原愛(ANA)をゲームオールで破って優勝。「カタール・クウェートの両大会で優勝」という、世界団体戦の代表権獲得の条件は満たせなかったが、コーチ陣へは大きくアピールしたはずだ。「劉詩ウェンこそ女子チームの新しいリーダー」、先輩の郭躍や李暁霞を差し置いて、そう報道するマスコミも次第に増えてきている。

Photo:許シン、2010年は飛躍の年か?(写真は2010年1月のITTFプロツアー・グランドファイナル)
 今年2010年、中国のとある都市でビッグゲームが相次いで開催される。2008年の世界団体選手権の開催地として記憶に新しい広東省の省都、広州市だ。3月26~28日までアジアカップ、29~30日までフォルクスワーゲンカップ、そして11月12~27日には第16回アジア競技大会(卓球競技の開催期間は未定)。やはりアジア競技大会への注目度が高いが、今年度からの新設大会であるフォルクスワーゲンカップも興味深い。日本から水谷隼、福原愛の両選手が参戦する、世界ランキングの上位選手8名(各国1名のみ)によるトーナメントに加え、5つのペアが3分の持ち時間でラリーのパフォーマンスを競う「Spectacular Pairs」も開催。ワルドナー&パーソン(スウェーデン)、セイブ兄弟(ベルギー)、松下浩二&渋谷浩(日本)など往年の名ペアが顔を揃えている。

 広州市のある広東省は、北京・天津・上海などと並んで、中国卓球のひとつの中心地。中国国内でも群を抜く経済力を背景に、これまで数多くの国際大会を開催してきた。86年にアジア選手権、93年に男子ワールドカップ、03年にITTFプロツアー・グランドファイナル、05・09年に女子ワールドカップ、06・07年にITTFプロツアー・PANASONICオープンと一つひとつ挙げていくとキリがない。来年は深セン(土+川)市で第26回ユニバーシアードも開催予定だ。1995年に順徳市で、現在の中国卓球クラブ超級リーグの前身である「全国クラブカップ」が初めて開催されたことも特筆すべきだろう。

 輩出した選手の代表格は、なんと言っても中国初の世界チャンピオンである容国団(ロン・グオトゥアン)と、85・87年世界チャンピオンの江加良(ジァン・ジャーリァン)。容国団は香港育ちだが、ふたりとも原籍は広東省中山市。ルックスと実力を兼ね備えていた広東卓球界の二大スターだ。現在の広東省卓球チームは、経済的に豊かなこともあって東北部や内陸の省からの移住選手がほとんど。馬琳、張超、劉詩ウェンは遼寧省、女子チームのベテラン・曹幸ニィは湖南省の出身。また男子チームのホープである金義雄は、珍しく漢族ではなく朝鮮族(中国国内に居住する朝鮮民族)の出身だ。

 日本から広州市までは、成田空港から4時間半、新関西国際空港から4時間のフライト。3月26~30日に広州に行けば、アジアカップとフォルクスワーゲンカップがまとめて観戦できます。中国四大料理のひとつ、広東料理とセットでトップ選手のプレーを堪能してみてはいかがでしょうか?

Photo上:08年世界団体選手権が行われた広州体育館
Photo下:地元で行われるフォルクスワーゲンカップに出場する劉詩ウェン
 昨シーズンの中国卓球クラブ超級リーグで、世界チャンピオン王皓を擁しながら7位に沈んだ八一工商銀行・男子チーム。実質的に中国の国軍である八一解放軍を、巨大銀行である中国工商銀行が長くスポンサーとして支えてきた。スポンサーが目まぐるしく変わる超級リーグにあって、長く冠名の変わらない稀有なクラブだったが、昨シーズンは女子チームのスポンサーが長安医院(山西省西安市)にチェンジ。そして今シーズンは男子チームが新たなスポンサーを獲得した。

 新たに八一解放軍・男子チームのスポンサーになったのは、造船業を中心とする重工業大手の熔盛重工集団。4年間で3200万元(約4億2500万円)という複数年契約を結び、クラブ名は「八一熔盛重工」となる。八一解放軍では、男子サッカーチームがスポンサーの獲得に苦しみ、2003年に解散。卓球の超級リーグでも、女子の重慶康徳が昨シーズン残留に成功しながら、スポンサーを獲得できず超級リーグへの参戦権を譲渡している。八一解放軍・男子チームは向こう4年間はひと安心で、超級リーグでは久々の大型契約となった。

 1964年、第2回全中国運動会の終了後に結成された八一解放軍卓球チーム(八一は解放軍の建軍記念日である8月1日)。正式名称は「解放軍八一体育工作大隊ピンパン球中隊」という長ったらしいもので、あくまでも軍隊の中の一部隊であり、所属選手たちも軍人だ。これまでに男子の施之皓、李振恃、王涛、劉国梁、王皓、女子の戴麗麗、童玲など数多くの世界チャンピオンを輩出し、中国卓球界でも屈指の名門と言える。結成の中心人物で今年81歳になる賀捷は、1961年の第26回世界選手権北京大会で審判長を務め、中国卓球協会の副主席などを歴任した中国卓球界の元老のひとりだ。男子チームはここ数年若手が伸び悩み、王皓のワンマンチームという印象が否めないが、新たなスポンサーを迎えて奮起できるか。

Photo:八一解放軍・男子チームの主力メンバー、昨年9月の全中国運動会で混合ダブルス3位に入った徐克(上)と、シングルスで陳杞を追いつめた楊暁夫(下)
 2月17~21日にカタール・ドーハで行われたITTFプロツアー・カタールオープン。プロツアーの中では賞金総額が3番目に高い30万ドル(約2,750万円)、世界のトップクラスが参戦するこの大会で、中国は男女シングルス・ダブルスの4種目を制したものの、幾つかのサプライズもあった。

 まず、男子シングルスで優勝したのは31歳の大ベテラン、王励勤。王励勤がプロツアーで優勝したのは06年のジャパンオープン荻村杯以来、なんと23大会ぶりだ。この間に準優勝が4回、3位が9回あるが、優勝には縁がなかった。準決勝では07年のパナソニック中国オープンで勝利して以来、国際大会では連敗に次ぐ連敗だった馬龍を4-2で撃破。今回の優勝が復活の狼煙(のろし)なのか、それとも最後の残り火なのか。まだ見極めるのは難しいが、少なくとも5月の世界団体選手権のメンバー入りに向け、大きくアピールしたことは間違いない。

 一方、その他の中国の男子選手たちは相次ぐ波乱に見舞われた。まず許シンが1回戦で、左シェークドライブ型の若武者・徐賢徳(韓国)に完敗。国際大会や超級リーグの戦績を見ると、許シンはややサウスポーを苦手とする傾向があるようだ。また、「直通莫斯科」で代表一番乗りを決めた直後の敗戦は、気の緩(ゆる)みと取られても仕方がない。このような敗戦は国家チームの首脳陣が最も嫌うところだ。
 また、3回戦では現世界チャンピオンの王皓が柳承敏(韓国)に惜敗。王皓vs柳承敏は、言わずとしれた04年アテネ五輪・男子決勝の対戦カード、この決勝での敗戦以外は、王皓が対戦成績で圧倒していた。王皓は昨年11月のアジア・ヨーロッパチャレンジ(ヨーロッパステップ)でボル(ドイツ)、七台河・国際男子卓球争覇賽で呉尚垠(韓国)と朱世赫(韓国)、12月の東アジア競技大会・男子団体決勝で水谷隼(日本)、そしてITTFトーナメント・オブ・チャンピオンズで再びボル(ドイツ)に敗れている。今回の柳承敏戦の敗戦によって、わずか4カ月の間に6回も外国選手に敗れているのだから、コーチ陣も頭が痛い。

 カタールオープンはプロツアーの主要大会でありながら、中国男子チームにとって「鬼門」とも言えるほど、不思議と相性の悪い大会だった。2005年に王励勤が男子シングルスで優勝するまで、シングルスのタイトルを獲得できなかったのだ。その王励勤の優勝で面目を保った中国だが、序盤から相次いだ番狂わせは、「カタールの呪い」が完全に消えてはいないことを改めて印象づけた。

Photo上:長いトンネルを抜け、23大会ぶりの戴冠となった王励勤
Photo下:王皓、お腹が空いて力が出ない…のか?
 昨年10月13日に第一子となる男の子を出産したリ・ジャウェイ(シンガポール)が、この2月からシンガポールチームの訓練に復帰している。
 生後4カ月になった天睿くんを北京に住む母親と叔母に預け、シンガポールに戻ったリ・ジャウェイ。「天睿のことは恋しいですが、彼をシンガポールに連れて戻るわけにはいきません。どうしても訓練に集中できなくなってしまうから。だから毎日母親に天睿を抱いてもらって、ネットのビデオ通話をしています」(出典:『聯合早報』)。天睿(ティエンルイ)くんの英語名であるTerry(テリー)の英字のネックレスを、練習中も欠かさずつけているそうだが、「ロンドン五輪でのシングルスのメダルが目標。しばらくの間の犠牲は仕方ない」とキッパリ言い切っている。

 昨年12月から、母校の什刹海体育学校で練習を再開したリ・ジャウェイ。現在はトレーニングを重点的に行い、体重をピーク時に戻す努力を続けている。国際大会への復帰は3月18~21日に行われるITTFプロツアー・ドイツオープンと伝えられているが、現在のところITTF(国際卓球連盟)のエントリーリストには入っていない。まずは2010年1月発表で23位(最高位は3位/05年10月発表)まで落ちている世界ランキングを再び上昇させることが目標になる。
 3番手のユ・モンユが成長著しいシンガポール女子チームだが、中国や韓国といったアジアのトップチーム相手には、やはりリ・ジャウェイの存在が欠かせない。1年余りのブランクの影響は少なくないはずだが、日本女子チームにとっては手ごわいライバルの復帰となりそうだ。

Photo:ベスト体重まであと4キロだというリ・ジャウェイ。「競技人生の中で一番キツい時期」だそうです
 一昨日の2月14日、中国は2010年の春節(旧正月)を迎え、中国全土が祝賀ムードに包まれた。2月13~19日の7日間は法定休暇(20・21日は振替出勤)となり、それに先駆けて延べ人数で25億人が大移動すると言われている。中国の企業、工場は完全にストップしてしまうため、日本の企業への影響も少なくない。

 福建省厦門市と江蘇省通州市でそれぞれ集合訓練を行っていた国家男子・女子チームもすでに訓練を終了。2月11日から選手たちには束の間の休息が与えられた。もっとも、明日17日からITTFプロツアー・カタールオープンがカタール・ドーハで行われるため、この大会に出場する男子の馬龍・王皓・馬琳・許シン・張継科・王励勤、女子の劉詩ウェン・郭躍・郭炎・丁寧・曹臻・姚彦の各6選手とコーチ陣は2月15日には北京に集合している(その他の選手は16日に集合)。男子の6選手はこのうち1名が世界団体選手権のメンバーから外されるサバイバル・バトル、そして女子はカタールオープンとクウェートオープンで連続優勝すれば、世界団体選手権の出場権が与えられる。日本のトップ選手が全日本選手権前の正月をゆっくり過ごせないように、中国選手もまた春節に羽を伸ばすことはできないのだ。
 そして国家チームの主力選手たちには、そんなハードスケジュールに追い打ちをかけるように、国家チーム・マネージャーの黄ピャオ氏から次のような「三カ条」が出されている。

壱「車を運転するべからず」
弐「暴飲暴食するべからず」
参「大酒を飲むべからず」

 この三つの「~べからず」は長く国家チームの選手たちに言い続けられてきたそうだ。暴飲暴食の後に重ねて大酒を戒めるあたり、よほど選手たちのお酒での失敗が多かったのだろうか? ちなみに壱の「車を運転するべからず」も、黄ピャオ氏が説明して曰く「現在でも飲酒運転が後を絶たないため、選手たちが運転している途中で飲酒運転の事故に巻き込まれ、思わぬ被害を受ける可能性もある」(出典:『成都商報』)。…結局三カ条ともお酒と無縁ではないようだ。
 昨年は国家男子チームで、春節の休暇前に体重測定が行われ、1キロ以上体重が増加した選手には罰金やランニングなどのペナルティが与えられている(中国リポート2009/02/13「国家男子チームの体重増はNG」参照)。世界ランキングのトップ10に名を連ねる選手たちへの訓告としては、いささか拍子抜けする内容のこの三カ条。現世界チャンピオンの王皓が、泥酔しての暴力事件に激太りと前科を重ねていることを考えると、致し方ないところかもしれない。

Photo:春節でのリバウンドが怖い王皓、コーチも目を光らせているはず
 出場した8名の選手のうち、最も世界ランキングが低い許シンの優勝というサプライズで幕を閉じた男子「直通莫斯科」第1ステージ。北京五輪代表の馬琳、王皓、王励勤、そして世界ランキング1位の馬龍さえも決勝に進むことができなかった。
 2010年を迎え、2000年代の中国男子を長く牽引してきた「龍虎」、王励勤と馬琳にも現役引退の時が近づきつつある。今回の「直通莫斯科」では、馬琳は初戦で陳杞に惜敗。「協会の推薦枠を当てにするな、残り2回の選考会で自力で代表権を獲得しろ」と劉国梁監督にハッパをかけられたと伝えられている。今年1月のITTFプロツアー・グランドファイナルでも初戦で張継科に元気なく敗れ、大々的な離婚報道以降、プレーに精彩を欠いている。一方の王励勤は、全中国運動会ではともにダブルスを組み優勝した許シンに敗れた。初戦の張継科戦も第3ゲーム6-10から逆転していなければ、1-3で敗れていてもおかしくない内容。最近はパワーで打ち勝つというより、テクニックでかわすプレーが目立つ。

 実は王励勤と馬琳には、世界団体選手権モスクワ大会にひとつの記録がかかっている。中国代表の世界選手権への連続出場記録だ。2003年から世界選手権が毎年開催(個人戦と団体戦を交互に開催)になったため、単純な比較はできないが、中国男子/女子の連続出場記録ベスト5は以下のとおりとなっている。

★中国男子・世界選手権連続出場記録 BEST5
[1位]11回… 王励勤、馬琳
[2位]8回… 孔令輝
[3位]7回… 劉国正、王皓
[4位]6回… 劉国梁
[5位]5回… 王伝耀、李富栄、張燮林、梁戈亮、王会元、馬文革、陳杞

☆中国女子・世界選手権連続出場記録 BEST5
[1位]11回… 王楠
[2位]10回… 張怡寧
[3位]8回… 李菊
[4位]7回… 郭躍
[5位]6回… 郭炎

 ご覧のように、これまでの世界選手権の連続出場記録は、王励勤と馬琳、そして女子の王楠が11大会で並んでいる。王励勤と馬琳のふたり、もしくはどちらかがモスクワ大会出場を決めれば12大会連続の出場、男女を通じて中国代表の新記録だ。ちなみに日本では松下浩二選手が12大会連続出場を果たしている。
 また、団体戦への出場回数でも、男子は王励勤と馬琳を含め、王伝耀、梁戈亮、馬文革、孔令輝、劉国梁の7名が5回で並んでおり、男子の新記録となる6回を目指す。中国選手の団体戦への出場回数の記録は、女子の孫梅英と王楠の6回。孫梅英(1931~1994)は1953年に中国が初めて世界選手権に出場した時の女子団体メンバー、引退後は何智麗(小山ちれ)らの名選手を育てている。

 世界選手権への12大会連続出場、世界団体戦への6大会出場は「卓球大国」中国にあって快挙と言うほかない記録だが、果たして王励勤と馬琳、ふたり揃って代表権を獲得できるのか。それともどちらかが脱落するのか。「直通莫斯科」の第2ステージは3月上旬に行われる予定だ。

Photo:97年のマンチェスター大会から世界選手権への出場を続けている王励勤(上)と馬琳(下)
★「直通莫斯科」男子第1ステージ結果 2010.2.5~6
●準々決勝
許シン -8、-5、8、6、7 馬龍
王励勤 10、-1、11、-8、3 張継科
陳杞 10、8、-4、10 馬琳
ハオ帥 4、5、6 王皓
●準決勝
許シン -10、4、9、6 王励勤
ハオ帥 -10、-4、6、12、11 陳杞
●決勝
許シン 7、-9、10、8 ハオ帥

※許シンが世界団体選手権モスクワ大会の代表権を獲得!

 …この8名の中で、誰が許シンとハオ帥の決勝戦を予想しただろうか。世界ランキング1位の馬龍、2位の王皓、3位の馬琳が初戦となる準々決勝で敗れ、トーナメント制の採用がトップ選手たちに大きな課題を突きつける形となった。「波乱の連続、これこそ私が見たかったものですよ」(劉国梁監督)。

 男子「直通莫斯科」第1ステージは、初戦から波乱の展開。許シンが馬龍を0-2からの逆転で破った。第3ゲーム終盤に得意の3球目攻撃を連発して許シンが1ゲームを奪い返すと、やや守りに入った馬龍を許シンが豪快な両ハンドドライブで攻め立て、馬龍を破った。「出足の2ゲームはすごく良かったけど、第3ゲームから許シンが戦術を変えてきて、それに対応しきれなかった。勝利を焦り、また相手のミスを待つ心理が働いてしまった」(馬龍)。
 昨年11月のアジア選手権、今年1月のプロツアーグランドファイナルで許シンに勝っていた馬龍だが、2ゲームを先取したところで逆に勝負に慎重になりすぎたか。ツボにはまった時の強さは間違いなく世界No.1だが、流れを掴めない時や相手に戦術を変えられた時、まだ若さが出るようだ。

 ペンホルダードライブ型の両巨頭、王皓と馬琳は、ともにサウスポーの伏兵であるハオ帥と陳杞に破れた。特に王皓は調子が上がらずに第1ゲームを落とした後、第2ゲーム王皓5-7ハオ帥、第3ゲーム王皓6-7ハオ帥から、ハオ帥に4点連取を喫して撃沈。実は王皓はハオ帥に対してあまり分が良くない。王励勤や馬龍、張継科といったトップ選手たちを苦にしない王皓が、馬琳とこのハオ帥は苦手としているのだ。対外的な実績は少ないハオ帥だが、07年の世界選手権ザグレブ大会の選考1次リーグで1位を獲得するなど、「内弁慶」な強さは際立っている。

 そして決勝は、準決勝で上海市チームの先輩・王励勤を破った許シンと、最終ゲーム8-10とマッチポイントを握られてから陳杞に逆転勝ちを収めたハオ帥の対戦。ともに世界団体選手権への出場経験はなく、まさしく一世一代のビッグチャンス。第2ゲームのハオ帥7-6でハオ帥がタイムアウト、第3ゲームの許シン9-8で許シンがタイムアウト、スコアが離れないシーソーゲームをきわどく制した許シンが代表権獲得の第1号となった。
 「ハオ帥はもう27歳だが、今回出場した8名の主力選手の中でひとりだけビッグタイトルに縁がない。これは彼の実力が足りないのではなく、中国にいるからだよ。今回の彼のプレーには日々のたゆまぬ努力を見た。しかし、最後には惜しくも敗れてしまった。私もまた非常に残念だ」(出典:『新浪体育』)と敗れたハオ帥を気遣った劉国梁監督だが、「直通莫斯科」の後には、直近のプロツアーの派遣メンバーからハオ帥と陳杞を外すことも明言している。ハオ帥、千載一遇のチャンスを逃したか…?

Photo:馬龍、王励勤、ハオ帥を連破し、文句なしの代表権獲得となった許シン
Photo:推薦での出場は厳しいハオ帥、今回のビッグチャンスを活かしたかった
※写真はともに09年ITTFプロツアー・グランドファイナル
 2月5~6日、福建省厦門(アモイ)市の厦門卓球訓練基地で、国家男子1軍チームのメンバーによる「直通莫斯科」世界団体選手権・男子代表選考会の第1ステージが開催される。
 女子の「直通莫斯科」は、江蘇省にあるソーラーシステムのメーカー・江蘇桑夏集団がスポンサーとなり、“桑夏杯”という冠名がつけられていたが、男子の「直通莫斯科」も中国の巨大バンクのひとつである華夏銀行がスポンサーとなり、“華夏銀行杯”の冠名がついた。考えてみれば、代表選考会は国内のトップ選手が一堂に会する舞台であり、代表の座を賭けた戦いは賞金付き大会以上にヒートアップする。観客を入れ、テレビカメラも入るとなれば、企業としてもスポンサーになるメリットは少なくない。中国卓球協会のスポンサー獲得戦略のひとつだ。
 そして今回の男子の「直通莫斯科」は、女子のような総当たりのリーグ戦ではなく、重点強化選手8名によるトーナメント戦が初めて採用された。その8名と、初戦の対戦カードは以下のとおり。優勝者が、中国男子代表の第1号となる。

★「直通莫斯科」男子第1ステージ組み合わせ
馬龍(マ・ロン/WR1) vs. 許シン(シュ・シン/WR15)
張継科(チャン・ジィカ/WR12) vs. 王励勤(ワン・リチン/WR5)
馬琳(マ・リン/WR3) vs. 陳杞(チェン・チー/WR9)
ハオ帥(ハオ・シュアイ/WR7) vs. 王皓(ワン・ハオ/WR2)

 8名の選手がすべて世界ランキング15位以内、卓球ファンならば見逃せない試合ばかりだ。国家男子チームの劉国梁監督が「この8名で行われる試合は、オリンピクよりもレベルが高い」と豪語するのもうなずける。今回、選手を8名に限定してのトーナメント制が導入された理由として、劉国梁監督は次のように述べている。
「現在の男子チームは世代と実力差がはっきり分かれてきており、この8名の選手たちが実力的には抜きん出ている。また、総当たりのリーグ戦は試合数が多く、『1、2試合は負けても関係ない』というように、選手の集中力が下がってしまいやすい。トーナメントならば、戦いははるかに激しいものになり、選手たちの精神面の強さを量ることもできるだろう」(出典『京華時報』)。

 国家男子チームの中では張超、李平、邱貽可、雷振華といった選手たちには、この8名を破ってもおかしくない実力があるが、今回の男子の「直通莫斯科」は計3回開催される。第2ステージと第3ステージでは、優勝して代表権を獲得した選手と入れ替わりで、部内ランキング9位と10位の選手が補充されるため、ノーチャンスというわけではない。また、代表メンバー5名のうち残る2名は、協会推薦で決定されることになっている。

 「直通莫斯科」男子第1ステージ、ちょっと意外な選手が優勝をさらって代表権を獲得したのだが…、その結果は次回に譲ります(ゴメンナサイ)。

Photo上:世界ランキング1位で「直通莫斯科」に臨む馬龍
Photo下:馬琳とともに、5大会連続で世界選手権の団体メンバーとなっている王励勤