スマホ版に
戻る

中国リポート

トップニュース中国リポート
 3月18日に行われた『2010年中国卓球クラブ超級リーグ・摘牌大会』。男子の6選手の入札結果は以下のとおりとなった。

★男子「特級甲等」 ※選手名の後ろの( )内は昨シーズンの所属チーム
馬龍(寧波北侖海天)      →[173万元(約2370万円)]→ 浙商銀行
馬琳(浙商銀行)        →[258万元(約3530万円)]→ 寧波北侖海天
許シン(上海明園・金海洋集団) →[160万元(約2190万円)]→ 覇州海潤
 ★男子「一級」
ハオ帥(四川全興)       →[451万元(約6180万円)]→ 浙商銀行
張超(浙商銀行)        →[351万元(約4800万円)]→ 山東魯能
ジャン健(覇州海潤)      →[90万元(約1230万円)]→  江蘇中超電纜
  
 落札額の最高値を記録したのは、08年度に続いてハオ帥。前回の423万元を上回る451万元を記録し、浙商銀行が落札した。男子ではこの451万元という金額は、06年の摘牌大会で馬琳が記録し、「空前絶後」と言われた501万元に次いで高い数字となる。
 ちなみに、ハオ帥が昨シーズンまで所属していた四川全興は、スポンサーの四川全興股フェン有限公司が撤退、エース・ハオ帥を残留させることができず、3番手の王建軍(ベルギー・シャルロワ)も移籍と踏んだり蹴ったり。しかし、近日中には新しいスポンサーが決定する見込み。さらに四川卓球・バドミントン管理センターの代天雲氏によれば、ハオ帥に替わって、海外から同じ左シェークドライブ型の大物選手の加入が有力となっている。

 やや話が脇道に逸れたが、前回の2008年の摘牌大会と同様、一級選手の落札額が特級選手を上回るという逆転現象が起きたのには理由がある。超級リーグの「選手登録及び移籍規定(2010-2011年版・試行)」によれば、現在の超級リーグでは、各クラブとも世界チャンピオンクラスの特級選手を1名までしか登録することができない(3名以上所属している場合は2名まで登録可)。すでに特級選手の王皓をエースとして抱える八一熔盛重工(旧名:八一工商銀行)や、王励勤を残留させて許シンを放出した上海明園-金海洋集団などは、特級選手の入札に参加することができないのだ。結局、特級選手の入札に参加できるのは4つのクラブに留まり、4つのクラブに3名の選手となれば、獲得競争もそれほど過熱しない。
 一方、中国代表クラスの一級選手の場合は、各クラブとも特級選手と合わせて2名まで登録することができる。すでに特級選手を抱えるクラブも、一級選手なら1名登録することができるため、全てのクラブが争奪戦を展開。一級選手の中で、特級選手を破るほどの実力を持つハオ帥や張超に人気が集まり、落札額が高騰したのも自然な成り行きということになる。

 結果的に、男子の摘牌大会で最も成功を収めたのは、今年で4シーズン目を迎える浙商銀行だろう。昨シーズンの最多勝男・馬龍を173万元とリーズナブルな金額で獲得し、豊富な財力を残る一級選手の獲得につぎ込んで、ハオ帥を競り落とした。ここまで07・08・09年と優勝にあと一歩まで迫りながら、3シーズン連続の2位。悲願の優勝に向け、強力なメンバーが揃いつつある。特級選手で最高落札額の馬琳は、07年にエースとして優勝を経験した寧波北侖海天に復帰。優勝請負人の称号を取り戻せるか。伸び盛りの許シンは、昨シーズン甲Aリーグとの入れ替え戦を制し、大健闘の超級リーグ残留を果たした覇州海潤が落札。ハングリーなドライブプレーで、チームに勢いを与えたいところだ。

 その3では、歴史的な落札額を記録した女子の摘牌大会をレポート。札束が乱れ飛んでいます…。

Photo上・中:実力は特級クラス、お買い得な一級選手であるハオ帥(上)と張超(中)が男子摘牌大会の主役に
Photo下:上海チームから修行に出された許シン、下位チームをどこまで引っ張れるか
 3月18日、『2010年中国卓球クラブ超級リーグ・摘牌(ジャイパイ)大会』が北京で行われた。
 トップ選手の所属クラブを決める会議である、この「摘牌大会」。世界チャンピオンクラスの「特級甲等」選手と、世界選手権代表クラスの「一級」選手が入札選手リストに公開され、選手の獲得を希望するクラブが次々に金額を提示。最終的に提示した金額が最も高いクラブが選手を落札する。いわば選手の“公開オークション”だ。各クラブの選手の保有権は2年間で、前回の摘牌大会も2年前の2008年5月11~12日に行われているが、今シーズンが終わった時点で選手を放出することもできる(中国リポート2008/05/10「世界王者、落札希望額は2000万円から!」参照)。今回の入札選手リストに公開されたのは以下の選手たちだ。

★男子「特級甲等」 ※( )内は所属先
馬龍(北京市体育局)
馬琳(広東省体育局)
許シン(上海市体育局)
★男子「一級」
ハオ帥(天津市体育局)
ジャン(瞻の右側)健(個人)
張超(広東省体育局)

☆女子「特級甲等」
郭炎(北京市体育局)
☆女子「一級」
范瑛(江蘇省体育局)
姚彦(上海市体育局)

 移籍選手リストに公開される選手には2つのパターンがある。ひとつは、母体となる省や市のチームが超級リーグに参戦していないパターン。馬龍や張超の広東省、ハオ帥の天津市などはここ数年超級リーグに昇格しておらず、所属するチームは毎回この摘牌大会で決められる。王皓は人民解放軍チーム、王励勤は上海市チーム、張継科は山東省と超級リーグでも母体のチームに所属しているため、摘牌大会の対象にはならない。筆者もまだまだ勉強不足だが、このような事例に当たると「中国卓球クラブ超級リーグ」の“クラブ”という言葉が、欧米のクラブスポーツのそれとは全く違うものであることがよくわかる。基本的には、各省の代表チームにスポンサーがついただけのものだ。
 公開される選手のもうひとつのパターンは、特級甲等選手をひとつのクラブが複数人抱えている場合だ。超級リーグの規定により、特級甲等選手が2名所属しているクラブは、そのうち1名を放出しなければならない。男子の許シンは王励勤と同じ上海市チームの所属、上海市チームのコーチ陣が王励勤の残留を決定したため、放出されてしまったのだ。また、女子の郭炎は同じ北京市チームに張怡寧、丁寧と合わせて3名の「特級甲等」選手がいたが、3名の場合でも放出されるのは1名のみ。08年の摘牌大会に続き、郭炎が放出されることになった。

 毎回のように制度が変わる超級リーグの摘牌大会。前回は選手が移籍を希望するクラブを3つ指名し、その3つの中で最も高い金額を提示したクラブが選手を獲得する方式だったが、今回は07年以前の方式に戻されている。選手とクラブ間の事前の密約によって、摘牌大会が出来(でき)レースになることを防ぐのが目的だ。実際に前回の摘牌大会では馬琳や馬龍といった大物選手が、最低落札額(当時は140万元)にわずかに上乗せした程度の金額で落札。事前の申し合わせがあったことをうかがわせる結果となった。同じように摘牌制を開催していた中国サッカー超級リーグでは、選手が自由にクラブを移籍できないことなどから、今年から摘牌制は廃止。摘牌制のあり方については、疑問の声も少なくないようだ。

 その2に続きます。久しぶりのアップなのに申し訳ありません…。

Photo:08年の摘牌大会の最高落札額は意外にもこの人。一級選手ながら423万元(約6,300万円)で落札されたハオ帥
 3月11日、2009年度で最も活躍した香港のスポーツ選手を決める「中銀香港傑出運動員選挙」の表彰セレモニーが香港で行われた。卓球界の帖雅娜と張ユクを含む54名の選手が候補選手となり、黄金宝(自転車)がMVPに選ばれている。このセレモニーにスペシャルゲストとして招かれたのが、昨年10月に香港の大富豪・徐威さんと結婚した張怡寧だ。

 1月31日の女子「直通莫斯科」第1ステージで記者会見を行い、久々にマスコミの前に姿を現していた張怡寧。公式の場に登場するのは今回で2回目となるが、その顔つきは明らかに以前よりもふっくらとしている。服装は地味な黒のシースルー、長めに伸ばした黒髪をヘアバンドで止め、写真によっては急に10歳くらい年を取ったように見える。卓球選手というよりも「ご婦人」といった印象で、口の悪い香港のマスコミやネットユーザーからは「あまりに田舎くさい」の声も上がっている。
 前回の記者会見では「競技人生に悔いなし」としながらも、「まだ自分に潜在能力はあると思っている。すぐに元の状態に戻す自信はある」と述べていた張怡寧。しかし、次々に台頭する若手からの突き上げと、すでにノルマとさえ言える優勝へのプレッシャー。それに耐えうるだけのモチベーションを取り戻すことは、体力トレーニングを積んで体を絞ることより、はるかに難しいはずだ。

 一昨日の17日には、中国国内で「超級リーグ欠場が確実」との報道も流れた張怡寧。国家女子チームの施之皓監督は、『新浪体育』の取材に対して次のようにコメントしている。「世界選手権すら欠場して、休養期間に充てているのだから、超級リーグを欠場しても不思議ではない。今年の年末に張怡寧と話し合いの場を持ち、去就は彼女の意思に委ねるが、ひとつだけ確信していることがある。『どれだけ休養期間が長くなろうと、現役復帰には何の問題もない』ということだ」。
 施之皓監督をはじめとする関係者の口から、「いつでも現役復帰はできる」という言葉が聞かれるたび、逆に現役復帰が遠のくようにも思えるのだが…?

↓「中銀香港傑出運動員選挙」での張怡寧の写真はコチラ(網易体育/中国)
http://sports.163.com/10/0312/16/61JCCH0V00051KMJ.html

Photo:張怡寧復活を望むファンは日本にも多いはず
 
 約3カ月後の6月9日に開幕を迎える「2010中国卓球クラブ超級リーグ」。2月22日に各クラブの登録が締め切られた。先日、八一解放軍男子チームが大型スポンサーを獲得したニュースをお伝えしたが(中国リポート2010/02/24『八一解放軍男子チーム、巨大スポンサーを獲得』)、他のクラブは決して順調ではなかったようだ。

  まず女子では、昨シーズン9位で、甲Aリーグとの入れ替え戦を制して歓喜の残留を決めた重慶康徳。10年シーズンは馮天薇(シンガポール)や丁寧、昨シーズンのエースだった金キョン娥との獲得交渉に当たったが、資金不足からいずれも断念。結局超級リーグを戦えるだけの選手が集められず、入れ替え戦で勝利しながら、超級リーグへの参戦権を甲Aリーグのチームと交換している。「残留を決めてから、ずっと来シーズンへ向けた準備を進めてきたが、スポンサーの獲得も選手との交渉も進まなかった。甲Aリーグで戦うのはやむを得ない選択」(重慶康徳・胡蓉蓉総経理)。
 超級リーグの参戦権がクラブ間でやりとりされるというのは、ちょっと信じがたいが、超級リーグでは決して珍しいことではない。毎シーズン、参戦権を取得して超級リーグに参戦してくる“泡沫(ほうまつ)”クラブが存在し、お決まりのように下位に沈んでいく。クラブが10チーム揃わずに9チームでのシーズンになることもあり、8チームへ削減することが毎年のように議論されている。ちなみに今シーズン甲Aリーグを戦う重慶康徳のメンバーは、右ペン粒高攻守型の陳晴をエースに、麦楽楽(05年全中国ベスト8)、楊飛飛、そして今シーズンはブンデスリーガでプレーしていたベテラン桑亜嬋(香港)。甲Aリーグとしてはかなりの豪華メンバーだが、超級リーグでは力不足は否めない。

 そして今、緊急事態を迎えているのが、張怡寧と丁寧を擁して昨シーズン優勝を果たした北京女子チームだ。北京時博体育賽事有限公司とのスポンサー契約が終了し、スポンサー獲得に苦戦。携帯電話では中国最大のシェアを誇る中国移動通信集団公司とようやく契約にこぎ着け、「中国移動北京女子卓球クラブ」として超級リーグに登録しようとしたのだが、中国卓球協会は登録を拒否。中国移動通信のライバル会社である中国聯通が、中国卓球協会および超級リーグのオフィシャルスポンサーになっているためだ。「そのようなスポンサーに関する規制は、これまで協会側から一切通知されていなかった。今さらどうやって新しいスポンサーを見つけろと言うのか?」(北京市卓球チーム・張雷総監督)。
 北京女子チームには、スポンサーが未確定でも仮登録できる救済措置が与えられたが、今のところ新規スポンサー獲得の報道はない。今シーズン、張怡寧が超級リーグに参戦する可能性は低く、さらに丁寧と郭炎のどちらかを超級リーグのドラフトにかけねばならない北京女子チーム。泣きっ面に蜂の状態になっている。

 張怡寧という金看板を擁する北京女子チームでさえ、04年北京海菲泰、05年北京御意、06-07年北京首創、08-09年北京時博国際と冠スポンサーは毎年のように替わっている。「1シーズンか2シーズン、社名を宣伝できれば十分」というスポンサーが多いのも事実だが、超級リーグがそれだけのステータスを確立できていないとも言える。コロコロ変わるチーム名、コロコロ変わる開催地。八百長問題で大揺れに揺れている中国サッカークラブ超級リーグも悲惨な状況だが、卓球の超級リーグも卓球の人気低迷に歯止めをかけることはできていないようだ。

Photo:張怡寧不在の北京市女子チームで、若きエースとしての活躍が期待される丁寧。果たして無事に新シーズンが迎えられるのか
☆「直通莫斯科」女子第2ステージ
〈予選リーグ〉
●グループA

1. 常晨晨(7勝0敗)/2. 郭炎(6勝1敗)/3. 曹臻(4勝3敗)/4. 王シュアン(4勝3敗)/5. 彭陸洋(3勝4敗)/6. 范瑛(2勝5敗)/7. 文佳(2勝5敗)
●グループB
1. 劉詩ウェン(7勝0敗)/2. 丁寧(5勝2敗)/3. 姚彦(4勝3敗)/4. 饒静文(4勝3敗)/5. 武楊(3勝4敗)/6. 楊揚(1勝6敗)/7. 木子(1勝6敗)
●準決勝
丁寧 10、8、-5、-5、8、8 常晨晨
劉詩ウェン 4-3 郭炎
●決勝
劉詩ウェン -7、-7、7、-8、4、10、9 丁寧

 国家女子チームで、世界団体選手権モスクワ大会の2枚目の切符を手にしたのは、世界ランキング1位の劉詩ウェンだった。
 予選リーグでは丁寧、李暁丹とゲームオールの接戦になったものの、危なげなく1位通過を決めた劉詩ウェン。準決勝の対戦相手は強敵・郭炎。昨年5月の世界選手権横浜大会では4-0でストレート勝ちを収めているが、10月のイングランドオープン、12月のITTFトーナメント・オブ・チャンピオンズではともに決勝で敗れている相手。劉詩ウェンがゲームカウント3-2とリードした第6ゲーム、郭炎9-5のリードから劉詩ウェンが10-11と逆転してマッチポイントを握るが、11-13と郭炎がしのぎ切って、勝負は最終ゲームへ。最後は9-9から劉詩ウェンがサービスを効かせて2点連取し、ゲームオール9点で郭炎を破った。

 劉詩ウェンが決勝で相まみえたのは、同世代のライバル・丁寧。準決勝でダークホースの常晨晨とのサウスポー対決を制し、決勝へ勝ち上がってきた。波乱が続出した男子に対し、女子決勝はほぼ順当な対戦カード。劉詩ウェンのベンチには孔令輝、丁寧のベンチには郭躍・范瑛らを以前指導していた任国強が入った。孔令輝にとって会場の塘沽体育館がある天津市は、15年前の世界選手権天津大会で世界チャンピオンになった験(げん)の良い場所だ。

 最近の対戦は、常にゲームオールの接戦になる劉詩ウェンと丁寧。丁寧が2-1とリードした第4ゲーム、丁寧が10-7とゲームポイントを握ったところで、ベンチの任国強コーチがゲームを取ったと勘違いし、立ち上がる場面も。「コーチも周りが見えなくなってますね~(笑)」(テレビで解説していた楊影)。丁寧が第4ゲームを11-8で取り、3-1と優勝へ王手をかけたが、劉詩ウェンはここから反攻。第6ゲーム3-7のビハインドでも、ミスを恐れない両ハンドの連続強打で丁寧を押しまくり、12-10で奪ってゲームオールへ持ち込む。
 出場した16選手中、武楊に次いで若い18歳の劉詩ウェンだが、7歳で故郷(遼寧省撫順市)を離れ、層の薄い広東省女子チームをひとりで引っ張ってきた精神面の強さはダテではない。最終ゲームも準決勝の郭炎戦と同様、9-9から強気の攻めを貫き、ゲームオール9点で勝利。郭躍に続いて世界団体選手権モスクワ大会への切符を手にした。「丁寧のしゃがみ込みサービスにペースを崩されて、ミスが出ましたが、孔令輝コーチのアドバイスでレシーブにより変化をつけ、回り込みドライブを増やすようにした。第6ゲーム後半はそれで挽回できた」(劉詩ウェン/出典『羊城晩報』)。

 国家女子チームの施之皓監督は、試合後に「決勝戦でのふたりのプレーはすばらしかった。ふたりとも優勝させてあげたいような内容だった。劉詩ウェンには(ロンドン五輪までの)2年間でもっと成長してもらいたいし、張怡寧のようなチームのリーダーたる人物として、ロンドン五輪を迎えてほしい」(※出典『華奥星空』)とコメント。劉詩ウェンへの期待の大きさをうかがわせた。
 これまで国家チームで代表権を獲得したのは、男子が20歳の許シンと22歳の張継科、女子が21歳の郭躍と18歳の劉詩ウェン。4人の平均年齢は20.25歳。世代交替の波が、一気に国家チームへと押し寄せて来た。

Photo上:接戦の連続を制し、首脳陣の信頼を勝ち得た劉詩ウェン
Photo下:わずかな差で代表の切符を逃した丁寧(写真はともに10年1月のITTFプロツアー・グランドファイナル)
 許シンに続き、若手の張継科が世界団体選手権モスクワ大会の代表権を獲得した、男子の「直通莫斯科」第2ステージ。張継科はこれまで世界選手権(個人戦)で2大会に出場しているが、シングルスでの出場経験はなく、プロツアーでの優勝もない。昨年の「直通横浜」では、第1ステージでの成績の低迷とコーチへの反抗的な態度により、カタールオープンとクウェートオープンへのエントリーを取り消されている。抜群のボールセンスと高い運動能力を備えながら、ここ一番で弱気の虫が顔をのぞかせると言われてきた。
 しかし、今回の「直通莫斯科」第2ステージ決勝では、馬龍に最終ゲーム10-7のリードから10-10に追いつかれ、10-11と逆にマッチポイントを奪われたが、最後まで強打で攻め続けた。昨年9月の全中国運動会・男子団体決勝ラストで、馬琳から劇的な勝利を収めてから、成績が安定してきている。毒舌で知られる国家男子チームの劉国梁監督も、珍しく「非常完美(まさにパーフェクト)!」と最大限の賛辞。若手に自信を与えると同時に、ベテラン勢の奮起を促す狙いもありそうだ。

 一方で、劉国梁監督が厳しい言葉を投げかけたのは王皓。リードされた場面での無気力なプレーを指摘され、「あんなプレーを続けるようでは、これから必ず悔いを残す。君が愛しているこの卓球台から、さっさと離れたほうがいい。今回のようなプレーは、これが最後にしてもらいたいね!」。また、王皓の担当コーチである呉敬平は次のようにコメントしている「これが王皓にとっては2回目のスランプだ。1回目はアテネ五輪決勝で敗れた直後だが、彼はまだ伸び盛りだったし、すぐにスランプを脱することができた。それから5年の間、彼は平均して高いレベルをキープできていた」(※出典『新浪体育』)。昨年3月の厦門での集合訓練では、期間中に軽度のうつ症状になり、特例として1週間の休暇が与えられた王皓。その技術の完成度の高さとは裏腹に、精神面では非常にもろい一面があるようだ。「直通莫斯科」第3ステージでも、奇跡の復活劇はイメージしづらい。

 許シンと張継科の代表権獲得。お気づきの方も多いことと思うが、それは国家男子チームの主力選手である「二王二馬(王皓・王励勤・馬琳・馬龍)」のうち、誰かひとりがモスクワ大会の代表メンバー(5名)から外れることを意味する。3名の代表選手を決定する「直通莫斯科」の後、残る2名は協会推薦で決定するが、劉国梁監督は「我々が国内外の大会でのプレー、そして2012年ロンドン五輪への選手育成という面も含めて決定する。ロンドン五輪のために、我々は貴重な機会を無駄にするわけにはいかない」とコメント。推薦される可能性が高いのは、やはり馬龍と王皓ということになる。
 「直通莫斯科」男子第3ステージは、4月に大連での開催が伝えられている。モスクワ大会の最終エントリーは3月23日に締め切られるが、選手の変更およびキャンセルは5月1日まで認められているため、第3ステージの時点では仮エントリーの状態だ。当落線上にいる王励勤と馬琳にとって第3ステージは、まさに背水の陣での戦いとなりそうだ。

Photo上:バックドライブに秀でた技術を持つ張継科。自力で代表権をつかみ取った(写真は10年1月のITTFプロツアー・グランドファイナル)
Photo下:08年北京五輪で、劉国梁の激励を受ける王皓
★“華夏銀行杯”「直通莫斯科」男子第2ステージ
●準々決勝
馬龍 10、-11、5、-5、5 ハオ帥
陳杞 2、-14、9、-7、5 馬琳
張継科 4、11、6 王励勤
王皓 6、9、-9、9 雷振華
●準決勝
馬龍 6、-9、10、7 陳杞
張継科 2、-8、4、9 王皓
●決勝
張継科 10、-4、6、-9、11 馬龍

 「直通莫斯科」男子第2ステージは、第1ステージに続いて波乱含みの展開。北京五輪の男子シングルスで表彰台を独占した馬琳、王皓、王励勤が準決勝までに姿を消し、世界ランキング1位の馬龍も決勝で敗れた。世界団体選手権・モスクワ大会代表の2枚目の切符を手にしたのは張継科。世界選手権は07・09年大会に続き3大会目の出場、団体戦は嬉しい初出場。世界ランキングのトップ10のうち、6人が顔を揃える今回の「直通莫斯科」で、世界ランキング15位の許シン、同12位の張継科とランキングが低い選手から先に代表権を獲得している。

 カタールオープンでプロツアー33カ月ぶりの復活優勝を果たした王励勤は、「直通莫斯科」第1ステージとカタールオープン決勝で勝利するなど、これまで分が良かった張継科に準々決勝で完敗。第2ゲーム10-8で迎えたゲームポイントをものにできず、第3ゲームはノーチャンスのままストレート負けを喫した。
 王励勤とともに、モスクワ大会で6大会連続の世界団体戦出場を目指す馬琳も、第1ステージに続いて陳杞に惜敗。第2ゲーム以降はシーソーゲームの展開となったが、最終ゲームは陳杞5-3でのチェンジエンドから陳杞が一気にリードを広げ、逃げ切った。04年アテネ五輪、07年世界選手権とペアを組んでダブルスを制した馬琳と陳杞だが、勝者と敗者には厳然としたラインが引かれる。劉国梁監督の次のコメントが、国家チーム内の絶え間ない競争をよく現している「『不進則退(進まざれば則ち退く)』という言葉があるが、国家男子チームについて言えば『慢進則退(進むこと慢なれば則ち退く=歩み遅きは後退)』だ。王励勤と馬琳も進化していかなければ、チーム内の競争には勝てない」(出典:『新晩報』)。

 そして低迷が続く王皓は、準決勝でこれまで対戦成績では大きくリードしていた張継科に1-3で敗退。第1ゲームは2-0のリードから、張継科に11点連取を喫するなど、YGサービスからキレのある3球目攻撃を連発する張継科の前にペースを掴めないまま敗れた。「第1ゲームと第3ゲームは、リードされた後は完全に諦めたようなプレーだった。精神面が王皓の最大の問題だ!」(劉国梁監督)。王皓、完全復活の日はまだ遠いようだ。
 「直通莫斯科」男子の詳報、そして女子の結果も続けてお伝えします!

Photo:王励勤(上)と馬琳(下)、自力でモスクワ大会の代表権を勝ち取るまで、残されたチャンスはあと1回だ(写真は10年1月のITTFプロツアー・グランドファイナル)
 3月10日から、黒龍江省ハルピン市の黒龍江大学体育館で行われている「直通莫斯科」。開幕に先立ち、3月9日に黒龍江大学体育館で「直通莫斯科」の記者会見、そして「国家男子チームが我が校にやって来た!(中国ピンパン球男隊走進校園)」と銘打たれたイベントが開催された。

 まず最初に行われたのは、国家男子チームのイベントの定番である「性別大戦(男子選手と女子選手のハンデマッチ)」。馬龍と王励勤が出陣し、黒龍江卓球協会に所属する女子選手2名と、3点ハンデの5点マッチで勝負。結果はなんと2試合とも女子選手の勝利。馬龍と王励勤、翌日の「直通莫斯科」に暗雲が立ちこめる…ことはもちろんなく、お約束の敗戦だ。
 続いては、王励勤・馬琳と学生たちが組むダブルス。学生相手にはもっと厳しいハンデを、ということで王励勤はラケットの替わりにプラスチックの丸いお皿、馬琳はフライパンで出場。馬琳のフライパンのグリップはさすがにシェーク。無理にペン持ちして手首を痛め、「直通莫斯科」を棄権したら劉国梁監督から引退勧告が下されるだろう。カット主体で防戦一方の馬琳ペアに対し、王励勤はお皿から嬉しそうにスマッシュを繰り出した。

 そして、完全に大学祭のノリと化した会場をさらに沸かせたのが、このイベントで出ずっぱりの王励勤と女子学生とのカラオケ。王励勤は国家チームでも随一と言われる美声の持ち主。08年北京五輪後に香港を訪れ、香港芸能界のスターたちと競演した際には、人気歌手のレオ・クー(古巨基)に「プロ並みの美声」と折り紙をつけられている。
 男と女が歌うということで(?)、選ばれた曲はまさかの「デュエット」。若手のトップ女優の趙薇(ヴィッキー・チャオ)を始め、幾つかのラブ・ロマンスが伝えられてきた王励勤だが、女子学生と眼も合わせない歌いっぷりはぎこちなさ満点。冷やかしの声が飛ぶ中、女子学生に導かれるように卓球台の周りを回る姿は、姉に手を引かれた弟のようだ。最後に女子学生に抱きつかれ、ニヤニヤしながら見守っていた劉国梁監督が爆笑する一幕も。
 「卓球もデュエットも楽しかった、とてもリラックスできたよ。明日はみんなに良い試合を見せたいね」(王励勤)。

 ちなみに王励勤がデュエットした曲名は「広島之恋(広島の恋)」。意外にも日本とつながりがある。広島を舞台に、戦争と原爆で傷ついた男女の悲恋を描いたフランス映画『ヒロシマ・モナムール(1959年公開/中国語題:広島之恋)』にインスピレーションを得て、台湾の歌手・張洪量(ジェレミー・チャン)が作った名曲。カラオケでおネエさんと歌うデュエットソングとして人気があるそうで、なかなか大胆な選曲ではある。

王励勤のデュエットなどを伝えるニュース映像はこちら↓
http://sports.joy.cn/video/1088238.htm

Photo:このマイクはカラオケ用ではありませんが…。王励勤の試合の結果などは、後ほど詳しくお伝えします!
 国家男女卓球チームによる、世界団体選手権モスクワ大会の代表選考会「直通莫斯科」。男子第2ステージは昨日10日、黒龍江省の黒龍江大学体育館で開幕。女子第2ステージは今日11日から、天津市の塘沽体育館で熱戦の火ぶたを切る。
 第1ステージでは波乱が相次ぎ、出場選手の中で世界ランキングが最も低かった許シンが代表権獲得の第1号となった男子チーム。第2ステージでは許シンに替わって雷振華が加わり、引き続き8名によるトーナメントの優勝者が代表権を獲得する。対戦カードは以下のとおりとなっている。

★「直通莫斯科」男子第2ステージ組み合わせ
馬龍(マ・ロン/WR1) vs. ハオ帥(ハオ・シュアイ/WR7)
馬琳(マ・リン/WR3) vs. 陳杞(チェン・チー/WR9)
王励勤(ワン・リチン/WR5) vs. 張継科(チャン・ジィカ/WR12)
王皓(ワン・ハオ/WR2) vs. 雷振華(レイ・ジェンホア/WR64)


 4試合のうち2試合(馬琳vs陳杞、王励勤vs張継科)が第1ステージと同じ対戦カード。不調の王皓は、全中国運動会でともに団体優勝メンバーとなった雷振華との対戦で、復調した姿を見せたい。ベテランの馬琳と王励勤は、何としてもこの「直通莫斯科」を勝ち抜いて代表権を獲得したいし、カタールオープンとクウェートオープンで優勝を逃した馬龍も、世界ランキング1位の名に懸けてこれ以上敗戦を重ねるわけにはいかない。推薦での代表権獲得の望みが薄いハオ帥と陳杞も、この「直通莫斯科」に勝負を賭けるしかない。…世界選手権ではクールな試合態度が多い中国勢だが、この「直通莫斯科」では相当にアツい戦いが展開されそうだ。

 一方、女子は第1ステージに出場した22名のうち、優勝した郭躍と2位の李暁霞を除く上位16名の選手が第2ステージに進出。李暁霞は第1ステージの直前に発症した急性虫垂炎の手術を3月1日に受けたため、第2ステージは欠場。軽い体力トレーニングを経て、第3ステージでは戦列に復帰できる予定だ。
 女子の第2ステージは8人ずつグループA/Bのふたつのグループに分かれて予選を行い、各グループの上位2名が準決勝に進出。決勝戦を勝ち抜いた選手が2人目の代表権獲得者となる。グループの組み合わせは以下のとおり。

☆「直通莫斯科」女子第2ステージ組み合わせ
グループA:郭炎・曹臻・馮亜蘭・彭陸洋・文佳・常晨晨・王シュアン・范瑛
グループB:劉詩ウェン・丁寧・李暁丹・姚彦・木子・武楊・楊楊・饒静文


 全体的に見て、グループBのほうが厳しい組み合わせとなった。グループAは順当にいけば郭炎が勝ち上がりそうだが、2位以下は予測が難しい。世界ランキング10位の范瑛は、第1ステージで18位に沈みながら、李暁霞の欠場により幸運にも第2ステージへ駒を進めた。グループBは劉詩ウェンと丁寧が実力的に抜けているが、姚彦や木子らの底力も侮れない。カット打ちへの不安が完全に払拭されたとは言いがたい丁寧にとっては、カット主戦型の武楊の存在も脅威。
「最近の国際大会でのプレーをみる限り、今回代表権を獲得する確率が一番高いのは劉詩ウェン。しかし、国際大会と国家チーム内の試合は違う。チームメイトとの戦いはメンタルに様々な変化を生むし、郭炎や丁寧らにもチャンスはあるだろう」(施之皓監督)。果たしてその結果は…?

Photo上:ダークホースとなるか、「直通莫斯科」で王皓と対戦する雷振華
Photo下:張怡寧、郭躍、李暁霞がいない今回の「直通莫斯科」。劉詩ウェンには負けられないプレッシャーがかかる
 国家男子チームの劉国梁監督から減量の指令を受け、今年1月の厦門(アモイ)での集合訓練でダイエットに取り組んでいた現世界チャンピオンの王皓。81キロあった体重は「目標は75キロだったが、想像以上に減量が順調で、73キロまで落ちた」(八一解放軍男子チーム・王涛監督)という。ITTF(国際卓球連盟)のitTVなどでは、かなりほっそりした王皓の姿を確認することができる。
 しかし、肝心の試合は全くの不調。カタールオープンでは(04年アテネ五輪決勝で敗れたものの)圧倒的な勝率を誇っていた柳承敏(韓国)に敗れ、クウェートオープンでは準々決勝で後輩の張継科に競り負けた。この中東の2大会に先駆けて行われた「直通莫斯科」では、初戦でハオ帥にストレート負けを喫しており、現世界チャンピオンの悩みは深い。

 「マスコミが王皓の体重にばかり注目するから、それが彼にとって大きなプレッシャーとなり、不調を招いている部分がある。そんなに王皓の体重ばかり書き立てるのは止めてくれないか」。自身も現役時代、太鼓腹(たいこばら)の丸々とした体格で「パンダ」の愛称をとった王涛監督は『中国体育報』でそうコメントしている。試合中にミスをすると「王涛、痩せろ!」の声が飛んだという、中国卓球史に残る「ぽっちゃりプレーヤー」だった王涛。それだけに、体重ばかり取り上げられる愛弟子の窮状が見過ごせないのかもしれない。
 「太っているか、痩せているかはそれほど大事なことじゃない。体重100kgだって勝つことはできるよ。92年のバルセロナ五輪では僕は体重60kg、95年の世界選手権天津大会では72kgもあった。それでも、キレのあるプレーができれば良いと確信していたからね。王皓は今73kgくらいだけど、身長は176cmある。それに比べたら、当時の僕のほうがずっと太っていたよ」。

 驚異的な運動能力を誇る選手が、必ずしもビッグタイトルを獲るとは限らないし、体重が急激に落ちると逆にフォアで動き過ぎ、勝ち味が遅くなってしまう選手もいる。1カ月半ほどで体重を8kg落とした王皓、確かに少々ダイエットを急ぎすぎたのかもしれない。現在の不調が彼にとって、ロンドン五輪を見据えたいわば「メンテナンス」の時期であることを祈りたいが、馬龍・張継科・許シンらの若手も虎視眈々(こしたんたん)と五輪の椅子を狙っている。26歳と選手としてはピークの年齢で、体重の乱高下から招いた不調が長引き、若手に遅れをとってしまうようなことがあれば、悔やんでも悔やみ切れないだろう。

Photo:09年全中国運動会の団体表彰で、ともに写真に収まる王涛と王皓