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中国リポート

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 11月20日まで中国・広州市で行われた第16回アジア競技大会・卓球競技。開催国である中国が7種目を全て制し、78年の第8回バンコク大会以来、32年ぶり2回目の全種目制覇を達成した(以前、中国は全種目制覇はないと書きました。スミマセン)。混合ダブルス準々決勝で張継科/丁寧が敗れたものの、これまで取りこぼしの多かったダブルスでも確実にタイトルを獲得。これまで「中国がなぜか勝ち切れない大会」だったが、集合訓練できっちり調整し、危なげのない勝ちっぷりを見せた。

 今大会で最も多くのタイトルを獲得したのは、女子団体・シングルス・ダブルスの三冠王となった李暁霞。女子シングルス決勝はダブルスのパートナーである郭躍との、三冠王を賭けた戦い。ゲームカウント0-3と大きくリードされ、第6ゲームには9-10とマッチポイントを握られたが、最後まで集中力を切らさず、粘り強い両ハンドの攻守で勝ち切った。「これまで私はずっと精神面が弱く、メンタルの部分で壁を乗り越えられなかったけど、この3年間でずいぶん成長したと思う。少なくとも最後まで試合をあきらめることはなくなった。これは進歩と言えると思います」(李暁霞/出典『北京晩報』)。
 ちなみに大会期間中には、李暁霞と同じ李隼コーチの指導を受けていた張怡寧が、李暁霞のプレーについて李隼コーチと常に連絡を取り合い、戦術面についてアドバイスを与えていたことを、ピンパン世界の夏娃編集長が明かしている。李暁霞の三冠王は「チーム李隼」の勝利でもあったわけだ。

 一度は世界ランキング1位(08年11月)に立ちながら、王楠や張怡寧の陰に隠れ、劉詩ウェンや丁寧の控えに甘んじて、常にチームの4・5番手だった李暁霞。両ハンドの安定感のあるドライブで攻めるプレースタイルも、郭躍の斬りつけるようなカウンターや劉詩ウェンの俊敏な攻守、丁寧のスケールの大きい両ハンドドライブに比べると、もうひとつファンにアピールしない。日本の卓球ファンの中でも「李暁霞のファン」という人は、結構珍しいのではないだろうか。

 しかし、今回のアジア競技大会の活躍で、「李暁霞が中国女子の“一姐(エース)”」との声も高まっている。今年1月に急性虫垂炎を患いながら直通莫斯科を戦い抜き、超級リーグではプレーオフでの大活躍で、チームを優勝へと導いた。そしてアジア競技大会・女子シングルス決勝での劇的な逆転勝ち。レベルが接近し、技術面で大きな差はない中国女子にあって、精神面の成長をアピールできたことは大きな意味を持つ。来年の世界選手権ロッテルダム大会(個人戦)で、07年ザグレブ大会で逃がした大魚を釣り上げたいところだ。

Photo上:李暁霞、中国女子では8人目のアジア競技大会優勝者となった
Photo下:団体戦で中国女子のベンチに入った李隼コーチ
アジア競技大会・卓球競技で次々とメダルを獲得している日本男女チーム。今日19日の男女ダブルス準決勝が終了した時点で、6個の銅メダルを獲得した。前回の06年ドーハ大会がメダルゼロ、02年釜山大会が女子団体の銅メダル1つだったことを考えると、今大会のメダルラッシュはまるで「大爆発」。ダブルスではアジアのライバルである韓国や香港を連破し、出場した6ペアのうち5ペアが準決勝に進んだ。

 しかし、準決勝で日本を待ち受ける中国の壁はやはり高い。6個の銅メダルのうち、5個は中国勢に決勝進出を阻まれたものだ。
 これまで、最も中国に肉薄したのは男子シングルス3回戦で馬龍に挑んだ松平健太(早稲田大)。ゲームカウント2-1とリードし、第4ゲームも7-4とリードした。ここで中国ベンチがタイムアウトを取り、惜しくも逆転を許したが、強烈なバックドライブと堅固なブロックで、世界ランキング1位の馬龍と互角のラリーを展開した。試合後、馬龍のベンチに入った劉国梁監督が、次のようなコメントをしている

「松平は以前よりもハングリーになった。昨年の世界選手権が終わってから、いくつかの大会では勝利へのモチベーションが希薄だと感じたが、今大会は団体戦でも個人戦でも眼差しは鋭く、非常にガッツがある。
 彼はまだ若いが、技術的な特長があり、サービス、ボールセンス、戦術面、どれをとってもすばらしい。あの年齢で、あれだけのプレーができる選手は本当に少ない。一つひとつの要素が、ほんの少しずつ足りないだけだ」(出典『華奥星空』)。


 世界団体戦モスクワ大会では、水谷隼(明治大・スヴェンソン)を「彼は天才」と褒めちぎった劉国梁。その一方で、チームの選手たちに対しては毒舌で知られており、馬龍も「もう崖っぷち」と酷評されたばかり。今回のコメントも馬龍や他の若手選手の闘争心をあおる狙いがありそうだが、これまで危険な若手のひとりだった松平が、中国の主要なライバルとして認識されたことは確かだ。来年5月の世界選手権ロッテルダム大会(個人戦)で、もう一度馬龍との対戦が見てみたい。

Photo:劉国梁、強力なライバルの出現はむしろ望むところか?
 11月16日、現地時間の午後14時30分から行われたアジア競技大会・女子団体決勝。5月のモスクワ大会の女子決勝と同じ、中国vs.シンガポールの顔合わせとなったことで、勝敗の行方に注目が集まったが、結果は中国の完勝。トップから3番まで、3試合とも3-0のストレートで勝利する一方的な展開となった。女子団体決勝のスコアは以下のとおり。

 [中国 3-0 シンガポール]
○李暁霞 8、13、9 王越古
○郭炎 8、6、9 馮天薇
○郭躍 10、7、5 リ・ジャウェイ

 完璧なリベンジを達成した施之皓監督のコメントを紹介しよう。
 「『シンガポールに復讐したい気持ちはあるか?』と聞いてくるマスコミもいるが、私にはそんな気持ちは毛頭(もうとう)ない。スポーツの世界に身を置く以上、毎日が勝利と敗北の連続だからね。勝ちたいと思う気持ちは誰でも同じで、肝心なのは自分本来のプレーができるかということ。シンガポールの周樹森さんは私の大先輩だし、我々は友人でもある。だから復讐なんて気持ちはなかったね」(出典『揚子晩報』)。…もちろんシンガポール戦は、中国にとっては絶対に負けられない一戦。タテマエの世界ではあるが、圧倒的な実力差を見せつけ、余裕のコメントとも言える。
 今回の女子団体決勝に起用されたのは、李暁霞、郭炎、郭躍の3人。国家体育総局の蔡振華局長も久々に出陣し、サッカーやバドミントンの視察で多忙を極める中、男女団体準決勝・決勝は劉国梁、施之皓の両監督と話し合ってオーダーを決定したという。準決勝の韓国戦では、3番に金キョン娥が出てくることも読み切っていたというから、巧みな用兵術で幾つもの伝説を築いた蔡振華だけのことはある。

 モスクワ大会の決勝で2点を落とした劉詩ウェンは、準決勝でも2点起用されたが、トップで中国から帰化した右シェーク異質速攻型・石賀ジュンにゲームオールデュースで惜敗。4番で李暁霞が鞍山市チームの先輩でもある石賀ジュンに競り勝ち、チームの決勝進出を決めたが、ラストで劉詩ウェンと朴美英の対戦が実現していたら、結果はどうなっていたか分からない。結局、決勝では丁寧とともにベンチを温め、地元・広州市のファンの前で、自らの手で優勝を決めることはできなかった。
 蔡振華局長は会見で劉詩ウェンについて「今が劉詩ウェンにとって最も苦しく、最も重要な時期。これを乗り越えられるかどうかは、彼女自身にかかっている」とコメント。劉詩ウェンは個人戦で唯一出場する女子ダブルスで、丁寧とともに名誉挽回を期することになった

Photo上:施之皓監督、団体優勝という最低限のノルマは果たしたか
Photo下:決勝トップに起用され、見事に期待に応えた李暁霞
 10月30日~11月4日に行われた『2010年全国優秀青少年卓球調賽』。国家2軍チームの選手たちが上位を占める中、意外な選手がタイトルを獲得した。準々決勝以降の記録は以下のとおり。

●準々決勝
朱雨玲(四川省) 6、10、8、3 江越(華東理工)
車暁曦(黒龍江省) -10、5、9、8、1 袁雪嬌(鄭州市)
顧若辰(雲南電網) -8、7、-6、7、7、4 張薔(江蘇省)
李佳イ(火×4)(遼寧省) 3、8、6、10 左ルー(王+路)(解放軍)
●準決勝
朱雨玲 8、11、10、3 車暁曦
顧若辰 8、7、7、-3、-2、-7、8 李佳イ
●決勝
顧若辰 9、7、10、10 朱雨玲

 優勝したのはダークホースの顧若辰(グゥ・ルオチェン)。雲南電網の所属になっているが、名門・山東魯能卓球学校で腕を磨いている15歳の右シェークドライブ型だ。第1ステージと第2ステージのリーグ戦でそれぞれ1敗を喫しながら、リーグ1位で上位に進む強運ぶり。第3ステージでもノーマークの存在だったが、1回戦でパワフルな右シェークドライブ型の趙岩、準々決勝で右ペンホルダードライブ型の張薔、準決勝で全中国運動会女子複4位の李佳イと国家2軍チームの選手たちを苦しみながらも連破。そして決勝では第1シードで世界ランキング23位の朱雨玲にストレート勝ちし、一気に頂点へと上り詰めた。
「対戦相手は国家チームの選手ばかりで、なかなか調子の波に乗れなかったけど、次第に調子が上がってきた。負けてもともとなので、プレッシャーもなく、積極的に攻めていくことができた。次の目標は国家チームに入ること、そして中国の代表選手として活躍することです」(出典『太倉新聞網』)。

「パワフルなシェークドライブ型」が主流となっている中国女子チーム。この全国優秀青少年調賽でもベスト4は全員が右シェークドライブ型。張怡寧や李暁霞ほどの上背はないが、ガッチリした体格でバックハンドも強く、パワフルな両ハンドドライブを駆使するという点では共通している。ルックスまで男性化しているような気がするのも…、気のせいではないようだ。
 上位選手はいずれも15~16歳という年齢だが、現在の国家チームの主力である郭躍や劉詩ウェン、丁寧はこの年代ですでに国際大会で活躍していた。「次代のホープ」でいられるのもあと2年くらい。数少ないチャンスを確実に活かしていくしかない。

Photo上:荻村杯で一気に頭角を現した朱雨玲だが、優勝ならず
Photo下:準決勝で顧若辰を追いつめた李佳イ(顧若辰の画像がなくてスミマセン)
 10月30日~11月4日まで、江蘇省太倉市の太倉体育館で開催された『2010年全国優秀青少年卓球調賽』。全国43の省と市から300名を超える選手が参加して盛大に行われた。出場資格があるのは、1993年1月1日以降に生まれた17歳以下の選手たち。年齢詐称を防ぐため、骨年齢の計測も行われている。
 試合方式は、まず第1ステージが6名によるリーグ戦。4位までの計64名が第2ステージに進み、4名によるリーグ戦の上位2名が第3ステージに進出。第3ステージは32名によるトーナメント形式で行われ、優勝するためには第1ステージから通算12試合を勝ち抜かねばならない。17歳以下のトップ選手による選抜大会ではあるが、より多くの試合を戦わせる経験の場でもある。国家2軍チームのコーチも視察に訪れ、優秀な人材の選抜に当たる。
 まず男子の上位の結果は以下のとおり。

●準々決勝
呉家驥(遼寧省) 4、7、7、-9、8 徐晨皓(新彊ウイグル自治区)
劉亜楠(解放軍) 9、3、3、7 李朝旭(北京市)
林高遠(広東省) 9、9、-3、6、10 范勝鵬(河北省)
周啓豪(広東省) 10、10、5、8 呉迪(北京市)
●準決勝
呉家驥 -8、-7、9、7、-11、4、6 劉亜楠
林高遠 12、5、5、4 周啓豪
●決勝
呉家驥 1、5、9、4 林高遠

 国家2軍チームから9名の選手が参戦したが、昨年度3位の鄭培峰(福建省)や4位の尹航(解放軍)が第2ステージで3位となり、ベスト32に進めない波乱。その中で、強さを見せつけたのは昨年度チャンピオン、右ペンホルダー両面裏ソフトドライブ型の呉家驥(ウ・ジアジィ)。第1ステージから9試合連続ストレート勝ちと快進撃を続け、唯一の苦戦となった準決勝の劉亜楠戦を逆転で乗り切ると、決勝では国家2軍チームのチームメイトである林高遠(リン・ガオユエン)にストレートで完勝。昨年に続く2連覇を決めた。
 今年は7月の荻村杯では、15歳にしてプロツアー初代表に選ばれた呉家驥。超級リーグと日程が重なったため、ジュニア選手のみの派遣となったことが幸いした。荻村杯では男子シングルス1回戦で上田仁(青森大)にゲームオール11点で競り勝ったものの、2回戦で水谷隼(明治大)に一方的なスコアで完敗。プロツアーの洗礼を受けた。運動能力は非常に高く、体つきもまだ細いが筋肉質で、これから大きくなりそう。「王皓2世」と呼ぶには裏面打法の技術レベルがもうひとつだが、まずは国家1軍チーム入りが目標だ。

Photo上:中国期待のペンドラ・呉家驥
Photo下:決勝で呉家驥に完敗したが、安定した勝ち上がりを見せた林高遠
(写真はともに2010年荻村杯)
 第16回アジア競技大会・広州大会の開幕を明日(12日)に控え、広州市内では最後の聖火リレーが行われた。10月12日に北京・天壇祈念殿で採火されたあと、1ヶ月をかけて中国全土の21都市をリレーされてきた聖火。その総移動距離は12215キロに及ぶという。「なぜアジア競技大会で聖火リレー?」という気もするが、要は大会を盛り上げるイベントの一環。昨年の東アジア競技大会ですら、聖火リレーが行われていた。

 広州での聖火リレーは11月5日から行われており、最終日の今日(11日)は会場施設の1/3が集中している学園都市「広州大学城」で行われた。130名のランナーが15kmの距離を走るというから、ひとりの受け持ちはだいたい100mちょっと。最終日だけあって、02年冬季五輪スピードスケート500・1000m金メダリストの楊揚、香港のスーパースター・譚詠麟(アラン・タム)、北京五輪開会式でも演奏したピアニストの郎朗など、芸能・スポーツ界の有名人が大集合している。そして、卓球界から選ばれる栄誉に浴したのが、地元・広東省女子チームの劉詩ウェンだ。

 大会前の集合訓練のエキシビションマッチでは、準決勝で李暁霞を4-2、決勝で丁寧を4-3で下し、見事優勝した劉詩ウェン。残念ながらアジア競技大会の女子シングルスのエントリーから外れたが、そんな彼女に吉報が待っていた。130人で行う聖火リレーの128番目で走る劉詩ウェンが聖火を渡す相手は、なんと章子怡(チャン・ツィイー)。日本でも映画『初恋のきた道』や『グリーン・デスティニー』で有名になった、国際派の若手トップ女優だ。「チャン・ツィイーは大好きなんです。あれだけ頑張って国際的なスターになるなんて、本当に大変なことですから」とは劉詩ウェンのコメント(出典『新華網』)。ますます笑顔の聖火リレーになるだろう。

 ちなみに聖火台に点火する最終ランナーはまだ明らかにされていないが、地元広東出身である往年の名サッカー選手・容志行と並んで、トウ亜萍の登場も有力視されている。花火16万発が飛び交うド派手な開会式になる模様だが、翌日に試合を控えた国家チームの選手団は、開会式には参加しないそうだ。

Photo:一度はやってみたい聖火リレー。劉詩ウェンが広州の街を走る!
 長く中国のマスコミを賑わせていた「張怡寧の引退問題」に、一定の回答が出たということか。「引退するかどうかは現時点では言えない」「(今後の去就については)年内には必ず表明する」とこれまで明言を避けてきた女王・張怡寧から、実質的な引退宣言ともとれるコメントが飛び出した。

 現在、中国の元五輪金メダリスト、元世界チャンピオンが多く在籍する、北京体育大学の冠軍班(チャンピオン・コース)に入学し、体育教育専攻の研究生(大学院生)として学んでいる張怡寧。
 ちなみに冠軍班とは、スポーツ界のトップ選手により高度な教育の場を提供することを目的として、2005年に創設されたもの。引退した選手もいれば、現役バリバリのトップ選手もいる。2010年度には39名が入学し、卓球界からは王涛と王皓、その他にも08年北京五輪体操・個人総合金メダリストの楊威らが名を連ねた。もっとも、最初に行われた講義に出席したのは39名中、たったの3名だったとのこと。研究生(大学院生)とはいっても、現役選手は訓練、引退した選手はビジネスに余念がないようだ。

 …前置きが長くなったが、今年からこの北京体育大学・冠軍班では、半年から1年間のアメリカ留学を実施している。今年7月にその第一陣として19名がアメリカに渡り、その中には新婚ホヤホヤの劉国正の姿もあった。そして11月4日、アメリカ・ウィスコンシン大学マディソン校と北京体育大学、国家留学基金管理委員会の三者による正式な交流協定締結の式典に、張怡寧も出席したのだ。「引退か、現役続行か」について質問された張怡寧のコメントは以下のとおりだ。

「私は今の大学の生活が気に入っています。引退に際して、必ずしも正式な発表が必要だとは思わないし、これまで引退試合やセレモニーをやりたいと考えたこともない。注目を浴びるようなことはしたくないし、このままゆっくりと皆さんの視界から消えていければいいと思っています」

 「引退します」と明言しているわけではないが、それ以上に現役復帰の意思がないことを、強く感じさせるコメントになっている。今年に入ってからは体力トレーニングを続けながらも、ほとんどボールを打ってはいなかったという張怡寧。まだ結婚生活も2年目に入ったばかりだが、アメリカへの留学も視野に入れているそうだ。
 芸術的な前陣攻守を展開し、卓球界に一時代を築いた女王。ポーカーフェイスな試合運びと同様、淡々と卓球界から姿を消していくのか。派手な引退発表やセレモニーはいらないという態度は、サッパリしていて潔いが、このまま「再見(サヨナラ)」では少し寂しい気もする。

Photo:08年北京五輪(上)と04年アテネ五輪(下)での張怡寧
 中国男子チームの劉国梁監督は、今月13~20日に行われる第16回アジア競技大会の男子代表メンバーのうち、男子団体と混合ダブルスにエントリーしていた王励勤を許シンと交替させることを発表した。
 今回の中国男子チームのエントリーは、王皓・馬龍・張継科・馬琳・王励勤と全員が右利き。男子団体は5シングルスのABC-XYZ方式で行われるため、中国の優位は揺るがないが、問題は男子ダブルス。中国が2大会連続で金メダルを逃し、過去12大会で3回しか優勝していない鬼門(きもん)の種目だ。故障を抱える馬龍と王皓と、ほとんどペアを組んだ経験がない馬琳と張継科のペアリングが予定されていたが、日本の水谷隼/岸川聖也をはじめとするアジアの強豪ペアに大しては盤石ではない。ダブルスに強い許シンを陣容に加え、ペアリングを変更してくる可能性が大きい。団体戦でも序盤を中心に許シンを起用し、経験を積ませるだろう。

 2002年に釜山で行われた第14回アジア競技大会で、男子シングルスのチャンピオンに輝いた王励勤。しかし、06年のドーハ大会は直前の国際大会での不調もあり、エントリーされず。男子シングルスでは王皓が優勝した。翌07年の世界選手権ザグレブ大会で2連覇を果たし、09年横浜大会でも2位と気を吐いた王励勤だが、どうもアジア競技大会との巡り合わせが良くないようだ。
 08年10月にマスコミの質問に対し、「09年の世界選手権と全中国運動会、この2つの大会が終わったら、あとは成り行きに任せる。広州でのアジア競技大会については、特に考えていない」とコメントしていた王励勤。ロンドン五輪への道は果てしなく険しく、広州大会も引退の花道ではなくなった。このエントリー変更が、国家チーム首脳陣からの「肩たたき(引退勧告)」と言えるものなのか…?

Photo:上海市チームの先輩・後輩で、全中国運動会のチャンピオンペアでもある王励勤(上)と許シン(下)
 2010年のプロツアーシーズンもいよいよ終盤。4月のチリオープン、6月の中国オープンが中止になったものの、11月10~14日に行われるITTFプロツアー・ポーランドオープンで、プロツアー13大会の全日程が終了する。
 そして、ここに来てプロツアースタンディング(獲得ポイントのランキング)に異変が生じている。中国選手がひとりもプロツアーグランドファイナルへの出場権を獲得できないまま、シーズンを終えようとしているのだ。左の男女シングルスのプロツアースタンディングを見ながら、以下の文章を読み進めていただきたい(クリックで拡大)。

 プロツアーグランドファイナルの出場資格は、シングルスは6大会出場もしくは3大陸での大会出場、ダブルスは4大会出場となっている。まず男子シングルスのスタンディングでは、1位の張継科を筆頭に2位の許シン、4位の王励勤、5位の馬龍、6位の馬琳、10位の王皓と上位全員が出場資格を満たせず。大会への出場回数は多い選手でも4大会なので、残り1大会では資格に届かない。また、2大陸の大会に出場している選手はいずれもアジアとヨーロッパの大会に出場しているので、ヨーロッパのポーランドオープンに出場しても3大陸出場とはならない。
 女子シングルスも同様に、スタンディングでトップ3を占める劉詩ウェン、郭躍、李暁霞をはじめ、丁寧、馮亜蘭、郭炎、武楊といずれも出場資格には遠い。グランドファイナルでは99年大会優勝の陳静(チャイニーズタイペイ)以外、すべて中国代表の選手が優勝。2000年大会から続く中国女子の10連覇も、08年大会から続く郭炎の2連覇も、今大会で途切れることになる。グランドファイナルが中国で開催されれば、ワイルドカードで地元選手の出場枠がひとつ与えられるが、今回は韓国・ソウルでの開催なので、その可能性もない。またダブルスでも、男女とも出場資格を獲得できるペアはいない。

 もっとも、中国もすでに全選手にグランドファイナル出場の資格がないことは折り込み済み。ポーランドオープンには林高遠、宋鴻遠ほか若手男子の6選手しかエントリーしていない。国家体育総局卓球・バドミントン管理センターの劉風岩主任は、以下のようにコメントしている。「現在の中国の大会出場の原則は『以我為主(自国の状況を主とする)』。現在の卓球界は、大会スケジュールがやや過密になっている。我々の最終目標は五輪での金メダル獲得であり、そのための大会出場と成績の向上には全力を尽くすが、すべての金メダルを争う必要はないということだ」。

 超級リーグと集合訓練をベースに、格付けの高いプロツアー数試合にだけ出場し、じっくりと五輪や世界選手権に向けた強化を進めていこうとしている中国。過去にも05年のグランドファイナルのシングルスで、馬龍と張怡寧しか出場しなかったケースがあるが、出場選手がゼロというのは異例。プロツアーという大会のステータスを揺るがす事態と言えそうだ。

※左は11月5日現在のITTFプロツアー・スタンディング。上が男子、下が女子のスタンディング
Photo:グランドファイナルでは、男子の馬龍とともに2連覇中だった郭炎
 現在、男子は広東省厦門市、女子は広東省中山市でアジア競技大会に向けた集合訓練を行っている国家1軍チーム。1990年の北京大会以来、20年ぶりに中国で開催されるだけに、男女チームともベストメンバーで大会に臨む。10月26日に発表された、卓球競技の代表選手団は以下のとおり。

男子:馬琳、王皓、馬龍、張継科、王励勤
女子:李暁霞、郭躍、郭炎、劉詩ウェン、丁寧


 この男女5人のメンバーのうち、女子ではすでにエントリー種目が発表されている(エントリーは直前に変更の可能性あり)。

女子シングルス:郭躍、李暁霞
女子ダブルス:郭躍/李暁霞、劉詩ウェン/丁寧
混合ダブルス:王励勤/郭炎、張継科/丁寧


 大会が行われる広東省チームのエースである劉詩ウェンは、女子シングルスへのエントリーが確実とみられていたが、意外にも女子シングルスの代表に選ばれたのは郭躍と李暁霞。劉詩ウェンの担当コーチである孔令輝は『城市快報』の取材に対し、以下のように答えている。「劉詩ウェンと丁寧はモスクワ大会で良いプレーができなかった。彼女たちはアジア競技大会にも初めての出場であり、国家チームとしても再び冒険をするわけにはいかない」。結局、劉詩ウェンは女子ダブルスのみの出場。“公認カップル”である張継科とのダブルス結成も実現せず、孔令輝曰く『彼女はまだ若い。今は全精力を練習と試合に集中すべき時だ』。

 なお、男子については早い段階から、王皓と馬龍のシングルスへのエントリーが報道されている。国家男子チームの劉国梁監督は、現時点ではふたりのエントリーを認めながらも、「これが最終的なエントリーではない。大会が始まる3日前までエントリーの変更は可能だ」と相変わらずのコメント。王皓は男子ワールドカップで2大会ぶりの優勝を飾り、完全に復調の気配だ。馬龍の左足のケガは「順調に回復している」(劉国梁)というが、回復状況によっては張継科とのエントリー変更も考えられる。

 1958年の第3回東京大会から、アジア競技大会の正式種目となった卓球。第6回バンコク大会を除き、これまで12回開催されているが、実は中国が7種目すべてを制したことは一度もない。世界選手権での中国の圧倒的な強さを考えると、意外と言うほかない。※11/19加筆修正 中国は1978年の第8回バンコク大会で7種目を制しています。大変失礼致しました。
 ちなみに1962年の第4回ジャカルタ大会では、日本も男子シングルスで三木圭一、女子シングルスで松崎キミ代が優勝するなど、完全制覇を達成している。今回の広州大会でも日本選手が大活躍を見せれば、大会が盛り上がること必至だ。

Photo上:前回大会優勝の郭躍が、女子では史上2人目の2連覇を狙う
Photo下:地元メディアの期待も大きかった劉詩ウェンだが…