アメリカに来てしばらくしてのこと。メールで卓球の練習をさそわれたので、車で230kmの道のりを走った。意外なことにアメリカは卓球台の消費が世界一だと以前卓球レポートで読んだことがある。その情報どおり、家に卓球台を持っている人は普通にいるのだ。家が広いこともその理由だろう。やはり卓球は娯楽の王様なのである。
ただし競技としてやっている人はまったくといっていいほどいない。人数あたりの比率は日本の1/40である。だからまともな相手を探そうと思ったら車で1時間、2時間走るのは当たり前なのである。逆に言えば、そういう状況でも競技卓球をやっている人は、みんな異常な情熱を持っているのである。それは後で書くとして、車である。
アメリカで、気持ちのよい日に新しい車に乗って卓球をしに行く、そのあまりの幸福感に私はすっかり平常心を失っていた。どんどんアクセルを踏んでいって、最後に時速180kmまで行くと、アクセルを踏んでいるのに突然減速しだした。多分自動ロックが働いたんだと思う。
それからもずっと時速140kmぐらいで走っていると、物陰からパトカーが出てきてつかまってしまった。
私はそのとき初めて「スピード違反をしたらつかまる」ということを思い出したのである。警察はいないだろうとか、つかまらないだろうではなくて、本当に思いつかなかったのである。楽しすぎると私は正常な判断力がなくなるのだなあと思った。
つかまったときの速度は時速140kmで、罰金は200ドルであった。あとで同僚に聞くと、もし時速180kmでつかまっていたら刑務所行きだったのだという。それで、「むしろ俺は運がいいんだ」と思うことにした。
警察は切符を切った後、「テイク・ケアー」といって去っていった。悔しい。