月別アーカイブ: 8月 2015

検証、ジャイロサービス

コメント欄にジャイロサービスについての質問があったので、解説したいと思う。

ジャイロサービスとは、回転軸が相手の方向を向いたサービスのことで、卓球界ではときどき魔球のようなサービスとして語られることがある。

結論から言えば、今の卓球ルールにおいては、完全なジャイロサービスは物理的に不可能、完全ではないジャイロサービスなら可能だが、特に役に立つわけではないというものだ。

詳しく説明しよう。通常、ジャイロサービスといえば誰でも思いつくのが図のようなサービスだ。

ボールの横を上に擦り上げることで回転軸が進行方向に近くなり、空中ではあまり曲がらないが、相手のコートに弾むと台との摩擦で激しく曲がる。一見、良さそうだが、なにしろ上に打ち上げるので球速が遅いし、普通に卓球をしている者なら、出した瞬間にその後の軌道が予測できるし、実際に打ち返してみると、これは【図2】のようにして出す通常の横下とほとんど変わらない。

なぜかといえば、そもそもジャイロを出すときには、気持ちは【図1】のようなつもりでも、実際にはラケットを上だけではなく斜め前方に振っているので(そうしないとボールがコートの方に飛ばない)この横下との中間のような打ち方になっているからだ。だから回転も横下気味とならざるを得ない。

だから、ジャイロは可能だがそれは横下と似たようなものであり、特に役に立つわけではないというのが私の考えだ。

次に、よくあるまったく別の観点でのジャイロ信者の主張を検証してみよう。ジャイロを特別視する人の中には、【図3】のようにボールの右側を打ちおろすことで、【図1】と同じ回転のサービスを出すことができるという人がいる。

これができると、右利きの選手がボールの右側を打ちおろすしゃがみ込みサービスで、相手コートで右に曲がるサービスが出せるというわけだ。通常、こういう出し方をすればボールは左側に曲がるわけだから、これは通常と逆に曲がる、まさに魔球となるわけだ。ところがこれは絶対にできないのだ。

そのためにまず、【図4】のような、完全なジャイロサービスについて考えてみよう。

実際にはサービスは台に2回弾むことで回転軸が少しづつトップスピン方向に変わるのだが、それは無視して、とりあえずサービスの打球直後に回転軸が相手の方を向く場合を考える。

大前提を確認しておくが、卓球でラケットでボールに回転をかける場合、必ずボールのある一点をどの方向にか擦る方法でしかかけられない。何本かの手の指でボールをつかんで捻りながら押し出すというようなことはラケットではできない。できそうな気がしている人がいるかもしれないがそれは錯覚であり、必ずボールの一点を直線的に擦ることしかできないのだ。ラケットで包むようにしてとか、当たる瞬間にひねるとか、いくら頑張っても結局は一点で直線的に擦ることしかできない。どんな打ち方をしようとも、ラケットとボールが当たっている時間は千分の一秒しかないからだ。

それを理解した上で【図4】のようなジャイロ回転を出す方法を考えると、図のようにボールの赤道上の一点を赤道に沿って打球しなければならないことがわかるだろう。ところがその方向には、コートの方にボールを飛ばす成分が含まれていないので、どうやってもボールを前に飛ばすことができず、したがってサービスを入れることができないのだ。入らないで自分の足元に落としてよいのならもちろん可能だ。実際、ボールは足元で右に転がっていくだろう。しかし入らないのではどうしようもない。

ちなみに、打球とは別の手段でボールをコートの方に飛ばすことができれば入れることが可能だ。たとえば今ではルールで禁止されているが、左手で思いっきりラケットにボールを下から叩き付ける、いわゆるぶっつけサービスならば、実際にボールの右側を打つしゃがみ込みサービスで相手のコートで右に曲がるサービスが私も出せる。これが先に「今の卓球のルールでは」と断った意味だ。もちろん、ぎりぎりルールの範囲内で斜め前方にトスし、なおかつコートの上空数メートルから叩き下せば同様のサービスが可能かもしれないが、そんなものができた内に入らないのは言うまでもない。

次に【図5】のように、回転軸が相手の方向に傾いたジャイロサービスを考えてみる。

この回転は、実は【図1】のジャイロサービスと同じ回転だから、実際に右に曲がる。ところがこれをボールの右側を打って実現するためには、前に飛ばすどころかコートから離れる方向に力を加えなくてはならず、ボールをコートの方に飛ばすことは不可能なのである。だからこのサービスは絶対に出せないのだ。

可能なのは、ボールをわずかでも前方に飛ばす打ち方、すなわち【図6】のような、回転軸が手前に傾いたジャイロサービスだ。

フォアサイドのサイドラインの外側に立って、ラケットが台にぶつからないようにして切り下せばできる。しかしこのような打ち方をすると、ボールを台に叩き付けることになるので、ボールが右に曲がるほど回転をかけようとすれば何10センチもバウンドが高くなる、まるでサービスからロビングをしたかのようないわゆる「クソサービス」となる。そこまでして逆に曲がったところで意味はない。

バウンドが高くならないようになおかつ回転をかけると【図7】のような打ち方にならざるを得ず、結局これは相手コートで左に曲がる通常の横下回転あるいは横回転サービスとなってしまうのである。以上をまとると「横下とほとんど違和感のないジャイロサービスなら可能だが、特別な効果のあるジャイロサービスは不可能、したがって話題にする価値がない」というのが私の考えだ。

無念、マスターズ予選

今日は、全日本マスターズの宮城県予選に出場してきた。

2006年以来、9年ぶりの出場だ。ちなみに2006年に出た時は、予選で全敗したのに全国出場するという離れ業をやってのけたものだった。

そのときは、予選に来たのが5人で、上位2人が全国出場となるのだが、私は総当たり戦でさっそく3連敗し、早々に本戦出場の望みがなくなったのだった。それで、最後に同じく3連敗したBさんと最下位決定戦をすることになった。

このBさんはカットマンなのだが、私とは因縁の関係にあり、過去のマスターズ予選で3回ほど対戦し、そのたびに壮絶なツッツキ合いから最終ゲームにもつれ込むというひどい試合になり、たまたま私が全勝し、そのためにBさんは本戦出場を逃し続けているという間柄だ。

その因縁のBさんと最下位対決という後ろ向きの試合をしようと思っていたら、あまりの暑さでへとへとになったBさんから「伊藤さん、俺、棄権すっから。伊藤さんの勝ちでいいよ」と言ってきた。それで私は最下位を免れて4位となったのだが、後日、1位と2位の人が仕事の都合で本戦に出場できなくなり、繰り上げで私が出場することになったのだ。

こうして私は予選で1回も勝っていないのに佐賀に行き、Bさんはまたもや本戦出場を逃したというわけだ。試合を捨ててはいけないという教訓だ(ちなみに私が本戦でさらにひどい目にあったことは言うまでもない)。

さて、今日の試合だ。いろいろあって5人中3位となり、残念ながら本戦出場はならなかったが、みなさん、私が卓球コラムニストであることを知っていたようで、試合の後に記念写真を撮ることになった。

0-3で飛ばされた直後に「いつも読んでます」と握手を求めてくれた柾谷さん

左から、2位の柾谷さん、私、1位の伊藤さん、竹ノ内さん、小西さんの勇姿

知人からは「卓球が本業じゃないし卓球コラムニストなんだから負けてもどうってことないだろう」と言われたが、とんでもない。写真では無理して笑っているが、いつどんな試合でも負けるのは本当に泣いてやろうかと思うほど悔しい。練習してるかどうかなど関係ないのだ。

伊藤さんと柾谷さんには本戦でも頑張ってもらいたいものだ。

棄権するときはヨロシク!(笑)。

チキータのコツ

現代卓球の革命的技術であるチキータ(台上バックハンドドライブを含む)の要点は、如何にして、切れた下回転を持ち上げられるだけのインパクトのスピードを出せるかだ。

そのための重要なコツを物理的に考えると、ラケットの先端にボールを当てなくてはならないはずである。スイングの回転半径が小さいチキータでは、手首を使うサービスと同様に、ラケットの根本と先端ではスピードが大きく違うはずだからだ。

したがって、チキータが上手な選手はラケットの先端にボールを当ててインパクトのスピードを出しているに違いないのだが、私はそれを確かめたことはなかった。

そこで、卓球王国から発売されているDVD『松下大星の裏面打法』に収録されている、ハイスピードカメラによる撮影部分全6カットのインパクトを確認してみた。結果は写真の通りだ。

見事に先端だ。編集部が、先端に当てたカットだけ選んで使った可能性はない。このDVDの中で「先端に当てる」というコツは一切説明されていないし、それを示す静止画もないからだ。

ちなみに、同じDVDの中で、ブロックをする場面の写真が下だ。

ボールの粉がついている位置が若干内側であることがわかる。チキータ以外の打法では先端に当てることは難しい上にメリットがない。チキータは台上の短いボールに対してするものだ。短いボールはかならず遅い(短くて速いボールは物理的にあり得ない)ので、確実にラケットの先端に当てることができるというわけだから、うまくできているものだ。

勘のよい若者たちは無意識にこういったコツを体得するのだろうが、これから挑戦しようという年配者は、このことを意識する必要があると思われる。私もこれを意識すると、ときどきできるので間違いない(笑)。

飲み屋で錦織圭

昨夜は神奈川に住んでいる高校の同級生が仙台に来るというので、共通の友人と3人で飲むはずだったのだが、急にその同級生が熱を出して不参加になってしまった。飲み会の二日前にその連絡は来ていたのだが、飲みたいという気持ちは急には止まらないので、いつでも会える2人ではあるが飲むことになった。

二次会は先週と同じ駅前のカクテルバーに入ったが、目の前のボトルにARUMAと書いてあり、張継科を追い詰めたナイジェリアのARUNAと一字違いであることに気をよくし注文したらワインだった。

そうこうしているうちに近くの席にどう見てもテニスの錦織圭そっくりの男が入ってきた。ほどなくもう一人も入ってきたのだが、二人ともなにやら「騙された」と騒いでいる。この店は店の前に常に可愛い女性が立っていて笑顔で客引きをしているのだ。この二人はそれぞれ飲み会の帰りで、終電のためにたどり着いた仙台駅を目の前にして、笑顔にひっかかりゴキブリホイホイ状態で店内に転がり込んできたのだ。「あれはずるいっす。どうやって帰るんすか俺」なんて言ってる。

ううむ。そういえば私もこの店に初めて入った2年近く前、呼び込まれてフラフラと入ったことを思い出した。同志よ。

それはいいとして、あんまりにも錦織に似ているものだから話しかけると、やはりよく言われるそうだ。実際にはテニスをしたことはなく、野球とソフトボールだけだそうだ。

一緒に入ってきたもう一人の青年は、やはり飲み会の帰りらしいが「自分は暗いんです」としきりに落ち込んでいた。今は酒を飲んでいるから話せているが、基本、他人と話すことは苦手で、それなのになんと営業をやっているという。「そのストレスでつい入ってしまいました」となんとも味のあることを言っていた。中学校のときは部活にはほとんど行かなかったそうだが卓球部だったそうな。気に入った。私に気に入られてもどうしようもないとは思うが。

ともあれ、その二人と、いつとも知れない再会を期して、堅く握手をして店を出たのであった。