幽霊の話

幽霊が怖いと言う人がいるが、私は幽霊がいてくれたらどんなにいいだろうかと思う。普通、人が一番いやなのは死ぬことだ。だから世界中の宗教が死後の世界、霊魂というものを前提としている。自分というものが無くなるなど考えたくもない怖ろしいことだからだ。

もし幽霊というものが実在するのなら、霊魂の存在が確定することになる。つまり自分が死んでも魂が残るということだ。これは嬉しい。自分がなくならないのなら、たとえ幽霊にたたられて、最悪、死んだとしても、自分もまた幽霊になって好きなように人生(霊生?)を謳歌すればいいのだからどうってことないではないか。

そう考えると、幽霊が怖いどころか、愛しささえ感じてくる。もし幽霊に出くわしたら「よくぞ来てくれました」と諸手を上げて出迎えるだろう。幽霊だってもとは人間、話せばわかるはずだ。英語も要らないのでアメリカ人よりよっぽど楽である。霊界が未知の世界だと言っても、もとはみんな人間なのだから、卓球部を卒業したOBみたいなもんだろう。ときどき頼まれもしないのにしつこく部活に来て説教をしたり、これ見よがしにスーツにネクタイを締めて社会人風をふかしに来たりする鼻持ちならないOBと同じことだ。そんなやつらを怖がるヒマがあったら練習しろってことだ。

完全に話がそれた。言いたいことは、「幽霊」よりも「幽霊がいないこと」の方がよっぽど怖ろしいということだ。

赴任直前に学生時代の友人および後輩と久しぶりに飲んだ。そこでこの話をしたのだがその後輩は「僕、死ぬのは全然いやじゃないですよ。むしろ生きるのがつらくて仕方がないですよ。」と言う。彼は人を悲しませず迷惑もかけずに楽に死ねるならいつでも死にたいと言う。一流企業に勤めて奥さんももらい、最近家を建て、そんなにハードに働いているわけでもないのにだ。こういう本能が欠けたような特殊な奴と話してもさっぱり話が噛み合わない。さらにもう一人の友人は宗教にどっぷりと浸かっていて、「条太、進化論は間違っているって知ってるか」と主張し始め、私の送別飲み会はいよいよわけのわからない議論で白熱していったのであった。