世の中には、公然と人をだます大人がいるとういことを知ったのは小学校高学年のときだ。それまでは、まさか本にウソが書いてあるとは思いもしないし、大人が売っているものにウソがあるとは思ったことがなかった(もちろんウルトラマンなどのフィクションとしてやっているものは別だ)。
あるとき、家族の誰かに連れられてデパートの食堂でラーメンを食べたのだが、そのテーブルの上にメロンほどの大きさの球形の占いの機械が置いてあった。100円硬貨の投入口が12箇所あり、自分の星座のところに入れてレバーを引くと、下から運勢を書いた巻物が落ちてくる仕組みだ。こんな小さな機械でどうやって星座ごとに別の巻物が落ちてくるのだろうかと、硬貨の投入口をのぞいて驚いた。すべての投入口が中で繋がっているのだ。どこから硬貨が入ったか検知するような部品もない。つまり、どの星座から硬貨を入れようとも、出てくる巻物は同じなのだ。それまで、こんな占いにも何か原理があるんだろうと思っていた私には、大変なショックであった。
親に買ってもらった『占い入門』を熱心に読んだが、だんだんとおかしい所が目につくようになった。手相の見方のところで、手に青いアザがあると水難の相、赤いアザがあると火難の相だというのを見て私はブチ切れた。水が青いのはたまたま光の関係でそう見えることが多いだけだ。水道の水は透明ではないか。ガスの火は青い。そもそも手に青や赤のアザがあることと、人が水や火をどう見えるかの関係があまりにもないではないか
同じ本で、コイン5枚を投げて表と裏がどういう順番に出たかで運勢を占うやり方が紹介されていた。投げたコインの結果によって、32通りもの運勢の表が書いてあった。ところがやり方のどこを見ても、「最初の1回だけが有効」とか「複数回やったときは平均をとること」などという条件が書いていない。では、続けて何回もこの占いをやったらどうなるのか。もし占いが正しいなら、何回やっても同じ結果が出るか、または、どの回を運勢として採用すべきなのかの注意書きが書いていなくてはおかしいではないか。だからこれはデタラメなのだ。
大人が小学生向けにまじめぶって書いている本にこんなにデタラメなことが書いてあるのはショックだった。しかしそれでも不思議なことが好きだった私は、その後も、ウソだとはっきりとわかる物以外は、だいたいの事は信じ続けていったのだった。
デパートの食堂の占いの機械や小学生向けの本だからデタラメだったのだろうか。残念ながらそうではない。街の易者はもっとひどいインチキであることが後で分かることになる。それは後日、書くことにしよう。