ジョンの話

昨日、ジョンが床屋に行ってきた。ジョンは日本に2年ぐらい長期出張していたのだが、日本の床屋のサービスが大のお気に入りだ。何人も人がいてタオルをもってきたりマッサージをしたり耳かきをしたり、顔を剃るときにシェービングクリームを顔全面に塗られて目と眉の間まで剃られるんだと言ったら、デビッドが「本当か!?信じられない!」と驚いていた。
ジョンは「頭を洗ってもらっているときに必ず何か聞かれるんだが、彼らは英語は絶対に話さないので、未だに何を言われていたのか分からない」と言う。私が「カユイトコロナイデスカだろ?」と言うと「それだ!」と言った。アメリカ人には到底思いつかないサービスだろう。なにしろ襟足に髪の毛の切りクズを無数につけて平気で仕事をしているんだから。

床屋が英語を絶対に話さないことから、ジョンが経験した最悪の話になった。日本にいるときに、ある同僚の日本人がジョンを休日に食事に誘ったのだという。ところが当日ジョンはひどい風邪をひいてしまい、具合が悪いので今日は止めたいと言ったという。その日本人は、一見、ジョンの話を理解したように聞いているのだが、実はまったく理解しておらず、「そうかそうか。さて行きましょうか」という調子でまったくジョンの言いたいことが伝わっていない。ジョンは日本語で「カゼ」とも何度も言ったのだがその男は天気のことだと思って空を見て怪訝な顔をしたりしている。ジョンは具合が悪いことを示そうと顔を覆ったり表情で示したりもしたが、文化の違いからか、それすら伝わらない。「風が怖いんだな」と思われて陽気に笑ったりしているのだという。ジョンは仕事のつきあいもあるし、彼がその日のためにレストランを予約したりいろいろと準備をしたいたらしいことを知っているので、力づくで断るわけにも行かない。
結局、手を引かれてむりやり車に乗せられて1時間以上ドライブしてイタリアレストランに連れて行かれ、何かを食べて帰ってきたそうだ。車の中ではあまりに具外が悪くて意識が朦朧としていたという。
ジョンいわく、「カゼ」「ゴーホーム」「テリブル」と百回以上言ったがついにわかってもらえなかったという。人生最悪の経験だったそうだ。なんとも気の毒だが可笑しい話だ。