久しぶりに用具マニアの杉浦くんについて書いてみたい。といっても卓球の話ではない。杉浦くんという人間の特異性についての話だ。
杉浦くんは科学的な根拠のある話以外はまず信じることはない。私もその傾向があるが、杉浦くんにはとても及ばない。霊魂、宇宙人、超能力といったオカルトは論外としても、ちょっとおもしろそうな俗論でさえ門前払いだ。
あるとき、石川という後輩が杉浦くんに「兄弟構成によってある程度性格が分類されるって知ってますか」という、占いに半分足を突っ込んだような怪しい話をした。すると杉浦くんは途端に不機嫌になり、「お前、そんな話、誰から聞いた?」と詰問したという。石川が「研究室の先輩からです」と言うと「その先輩はどういう人なんだ?」とさらに聞き返したという。「どういう人って、普通の人ですけど?」というと、杉浦くんは「どこがどう普通なのかその特徴を言ってみろ」と迫ったというからエグいではないか。さすが杉浦くんだ。「いやあ、杉浦さん怒っちゃって困りましたよ」と石川は私に言った。
この話を後で杉浦くんにすると、これは石川の誤解と誇張らしい。たしかに石川はいつもあやふやなことを言う奴なので、恐らくそうなのだろう。しかし、この話はいかにも杉浦くんらしいエキセントリックな話なので、とても気に入っている。
杉浦くんは、あまり世間のことには興味がなく、すべてのことを科学的思考にもとづいた自分の理解の仕方でしか絶対に納得しない。
幼少の頃から科学少年だった杉浦くんは、飼っていた亀を冬眠させようと布でグルグル巻きにしてタンスの引き出しに一冬しまい込んで腐らせたり、アルミホイルを電極にして自動車のバッテリーをミミズに通電して「ミミズの電気分解」実験を行ったりという逸話を残している。卓球のラケットの自作もこの延長にあるのだ。
ちなみにマンガはほとんど読んだことがなく、読み方もあまり知らない。唯一、私が読ませたつげ義春の「ねじ式」を最高のギャグだと絶賛されたが複雑な気持ちだ。
こう書くと、かなりとっつきにくい人間のように思うかもしれないが、これで実は極めて温厚で誠実で人間が大好きで人づき合いもよくギャグも得意なのだから、まったくなんと形容してよいかわからない奇妙な人間なのである。