ロックが好きなのにミュージシャンやファンの素行の悪さが嫌いである矛盾の続きだ。
それを初めて強く感じたのは1986年に宮城県菅生であったロックンロールオリンピックという野外コンサートだった。ルースターズとスターリンを目当てに行ったのだが、ファンたちが中高校生ばかりで、すでに22歳だった私は場違いなところに来てしまったような気がした。レコードは聴いていたが、コンサートにはほとんど行ったことがなかったのだ。
ロックンロールオリンピックは、朝から晩まで何組かのロックグループが順番に出てくるお得なコンサートで、当時、毎年夏にやっていたイベントだった。
客席は椅子もないただの芝生なので、人気グループが出てくると客たちは一斉に前列に押しかける。そのたびにDJが、前の人が怪我をするので前に押しかけないように注意をしていた。何度注意をしてもほとんど効果がないようだったが、あるときついにこのDJの我慢が限界に達した。突然、声色が変わり「お前ら、止めろって行ったら止めろ!」と怒鳴ったのだ。そこまではいい。次にこのDJは「お前ら、女の子のひとりも守れねえのかよ」と言ったのだ。なんだそれは。いったい、何がこのDJにこんな不良同士の仁義のような奇妙な台詞を言わせたのだろう。このDJ本人が、大人にもかかわらず本気でこのような価値観を持っているのか、それともロックファンの中高生ならこう言われればその気になって反省すると思ったのだろうか。とにかくこの不快感は忘れられない。
さらにこのDJ、怒りが収まらないと見えて、ファンたちに説教を始めた。はっきり覚えているのは次のような台詞だ。「どうせお前ら、こうやってロックだなんだと大騒ぎしてるけど、あと2、3年もすれば綺麗にスーツ着て大人しく就職活動して、電車に揺られてるんだろ?」と批判したのだ。わけが分からない。一緒に行った、中学教師を目指して就職浪人をしていた友人が「間接的にオレが批判されてんのか?就職のどこが悪いんだ」と言った。
このDJの主張を要約すると、どうもロックファンは、コンサートでは会場の秩序ではなくて女の子を守るために前に押しかけないようにして、なおかつ就職はしないものらしい。
こいつ、たまたま自分がDJという職を得ているからそんなことを言っていられるんであって、DJの才能も音楽の才能もない大多数の凡人にそんなことを勧めてどうしようというのだろう。この世界では物事がわかっていないこんな人間が大きな顔をして、あろうことか中高生に説教までしているのだ。
ロックという表現は大好きだが、その周りにたむろしているこういう人たちとは絶対に関わりたくないと強く思ったものだった。