インスタントコーヒー

近所のスーパー、ウォルマートでイスタントコーヒーを買った。売り場に並んでいたネッスルの昔ながらのデザインのコーヒーを見て、田村を思い出した。

学生時代のあるとき、田村の部屋に友人が来たときのことだ。田村がコーヒーを出そうとして「インスタントしかないけどいい?」と聞くと、友人は「ああ、いいいよそんなの何でも」と言ったそうだ。それで田村がそのとき持っていたネッスルのオリジナルの瓶を取り出すと、その友人は「あっ、それだけは勘弁してくれないか」と言ったというのだ。

この話を聞いて以来、私はネッスルのオリジナルの製品を見ると必ずこの話を思い出して可笑しくなる。その友人にとってそれは一体どれほど不味いのだろうか。

余談だが、田村の部屋はとても汚く、文字通り床が見えないほどいろんな物が置いてあった。訪ねてきた菊池という卓球部の後輩が、洟をかんだ後のティッシュペーパーを、そのまま床に投げ捨てて田村が激怒したことがあった。田村がわざと部屋中をゴミ箱にしていると思い込んだ菊池の浅はかさと、それほど汚くしていたクセに怒る田村の性根が可笑しい。こういうのをどっちもどっちというのだ。

田村はその他にも変わり者で、戸田が卒業するときに布団をくれるまでずっと寝袋に寝ていた。アパートの自分の部屋で3年間も寝袋に寝ていたのだ。また、暖房器具もないので、私が遊びに行くと、台所の料理用のガスを点火して、上空を扇いで部屋を暖めていた。

もしかするとあれは長居をする私への嫌がらせだったのかもしれない。私からの電話が嫌で電話線を抜いていたくらいだからな。