あまりに異常なのでこれは名前を伏せて書くが、学生時代の後半、私は親しくしていた卓球部の後輩に毎日のように電話をかけていた。自分としてはそんなに長話をした覚えはないのだが、後で聞くと、「最低2時間は話された」とのことだ。話の内容はだいたい、卓球のことで、アペルグレンだの陳龍燦だの、スピードグルーの効果だの卓球部員の悪口だのだ。
その後輩は、ときどき私との電話の最中に尿意をもよおすことがあったという。彼の部屋にはトイレはあるのだが、先輩である私の話をさえぎることができず、そいうときは仕方がないので電話をしたままコンビニのビニール袋に小便をし、置き場所がないので窓の外にぶら下げたという。
この話を私はだいぶ後になって聞いて驚いたものだった。いくら先輩からの電話だからといってトイレにも行けないなんてことがあるはずがない。本当は私の話が面白すぎてトイレに行けなかったんだと思う。
それにしても、ハンズフリーでもない黒電話で、片手で電話をしながらいったいどうやってビニール袋などという形が定まらないものに小便を収めることができたというのだろうか。もし穴が開いていたらとか、形が崩れて漏れたらとか考えなかったのだろうか。大家さんも、まさか窓からたびたび小便をぶら下げている住人がいるとは思わなかっただろう。
そのうちこの後輩はだんだんとずうずうしくなり、最後には電話線を抜いて対抗するようになったのだった。これも後で聞いた話で、当時は、電話に出ないので留守かと思っても、行ってみるといるのでおかしいとは思っていたが、まさかそんなことをしているとは全然気がつかなかった。
お互いに結婚してからは、さすがに線を抜かなくなったが、私が話している最中に「わかった。それじゃ。」と言って突然切るようになった。もっとひどいときは何も言わずにブツッと切るときもある。機嫌よく話していた私が言葉の途中で急に黙って受話器を置いて本を読み始めたりするものだから、妻が驚いたものだった。そのうち事情が分かり「可愛そうに。また切られたの」と言うようになった。
変わった後輩を持つと苦労する。