ダブルスの秘密

私は卓球の本を300冊以上コレクションしていて、すべて読んだが、面白いとか、感動したといったことを除いて、本当に卓球の役に立った本は一冊しかない。

今野さんが編集し、ヤマト卓球から1991年に発行された『スウェーデン最強の秘密』だ。もう20年近く経つのに、これを越えるどころか比較できる本さえ未だにない、と自分が書いたわけでもないのに自負している。

卓球理論に限らず、理論には次の4種類がある。
①すでに知られていて、確からしいもの
②すでに知られていて、怪しいもの
③知られていなくて、確からしいもの
④知られていなくて、怪しいもの

当然、書く意味があるのは③だが、そんなものはめったにないから、通常は①でお茶を濁している。実は①にすらなってなくて実際には②、つまり迷信を書いている場合もあるし、③を書いているつもりで実際には④の珍説奇説ばかり書く人もいる。

この本は、他の本にはひとつもない③が複数書かれている、本当に貴重な本なのだ。

その中のひとつが、ダブルスのコース取りだ。この本の著者はまず、現代卓球ではダブルスは右利きと左利きのペアが有利であり、1977年以来、世界チャンピオンはすべて右と左のペアであることをデータで示し、そのペアのコース取りのポイントを示す。この、右と左のペアに絞って解説する精密さ自体が斬新であった。今までそんな本はなかったし、これ以後もない。

右と左のペアはお互いに重ならずに得意のフォアファンドが打てるので有利だが、最大の欠点は、フォアクロスを切られて選手が重なってしまうことにあるという。だから、これを防ぐため、パートナーのフォアサイドに打たれないコースに打つ戦術が重要だというのだ。

引用してみよう
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この欠点を補うために、右ききと左ききのペアは、相手が自分のコートのフォアを切るような角度で打ってこないように、自分の打つコースを考えなければいけない。たとえば、右ききのワルドナーが、左ききのアペルグレンと組む場合には、ワルドナーは執ようにボールを相手コートのミドルや左側に送り、アペルグレンのほうは相手コートのミドルか右側に送る。そして、決定打だけは全面に打ち込む。
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「パートナーのフォアサイドを切られないようにコースを考える」とか「パートナーと重ならないように」という一般論はそれまでもあったが、具体的にどうしたらよいかは今ひとつわかっていなかった。それが、このように個別に具体的に説明されると、突如、その偉大な効果が目の前に立ち現われたのだった。そしてワルドナーとアペルグレンのペアが、ユーナムキューとキムタクスのペアと試合をしているビデオを見ると、まさにお互いにそのように打っているではないか。言われてみればこれほど明白なことを自分で気がつかなかったことに、私は頭を殴られたようなショックを受けた。そして、日本の卓球界でこれを明確に言っていた人は誰もいなかったのだ。いたのかもしれないが、少なくとも卓球マニアの私の耳に入るような形では情報は発信されていなかった。

こういうコース取りにちゃんと「フォアクロス封じ」とか「固定サイド攻め」とか名前を付けて卓球人は共有すべきだと思う。

今でもこの本は私のバイブルである。