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エドモンド・ペタス橋

メンフィスからの帰りにセルマという町にある「血の日曜日事件」で有名なエドモンド・ペタス橋を訪れた。
血の日曜日事件とよばれる事件は、世界に10個以上もあるようだが、これは、1965年に公民権運動に際して起きたものだ。

黒人の権利を主張するデモ隊がセルマのある教会からアラバマ州都であるモンゴメリーをめざして70キロの旅をしようとしたのだが、町を出るところの橋で警官隊に待ち伏せされて催涙弾を浴びせられて滅多打ちにされ、女性一人が死亡した事件だ。

これを命じたのは当時の州知事、ジョージ・ウォレスで、この知事は、なんと「今こそ人種隔離、明日も人種隔離、人種隔離を永遠に!」という途方もないスローガンで当選したという知事なのだ。これで当選したというのだから、アラバマ州恐るべしである。

橋のふもとには、公民権運動の偉人たちの碑がちゃんと建てられていた。

ヘレン・ケラーの肉声

ヘレン・ケラーの展示を見ていて気になったことがひとつある。

彼女の有名な演説の映像が上映されていたのだが、どう見ても時代が合わない。1925年の演説だというのに、あまりにきれいなカラー映像なのだ。第一、ヘレンもサリバン先生も数多く残されている写真と顔が違いすぎる。それで管理人に「これは実物の映像なのか役者による再現なのか」と聞いたが、私の英語がまずいためか、要を得ない返事しか返ってこなかった。

後でネットで調べてみると、上映されていたのは
http://www.youtube.com/watch?v=rfr6YO-zLZc
で、やはり役者による再現映像であった。ヘレン・ケラーが亡くなったのは1968年だから、世界中を歴訪した彼女の実際の映像などいくらでもあるはずである。ところがそれはネットで探してもまったく見つからない。彼女が話している映像が見つからないのだ。

おそらく、彼女のイメージダウンを恐れ、ある程度印象の良いものだけを流布させているのだと思われる。目も見えなくて耳も聞こえないんだから、言葉が不自由なのは当然である。それでもいいから人情としては彼女の肉声を聞いてみたかったが、生家の展示からして再現映像では、たぶんそのチャンスはないのだろう。

ヘレン・ケラーの舞台

生家の隣の敷地には『奇跡の人・ヘレン・ケラー』という有名な劇の屋外舞台セットが備えてあった。6月から7月半ばまで毎週金土の夜、2時間の上演があるという。私は舞台の演技のわざとらしさがどうにも嫌いで、さらによく俳優などがなにかというと「舞台でお芝居をやりたいです」というのを聞いてますます反感を持っていたのだが、このセットを見ていると猛烈に見たくなった。残念ながら予定に入れられず、見ることはできなかった。

なお、劇のタイトルである「奇跡の人」の原題は「Miracle Worker」で、ヘレン・ケラーではなくサリバン先生のことらしいが、日本人はこの邦題のせいでほとんどが誤解しているという。

劇のハイライトである井戸がちゃんとセットの中央においてあって「なるほど、ここで手に水をかける気だな」と思った。

井戸

目も見えないし耳も聞こえない7歳のヘレン・ケラーが、この世に言葉というものがあることを初めて理解したのがこの井戸である。井戸から出る水を手に浴びながら、もう一方の手にサリバン先生がW-A-T-E-Rと字(もちろん特別な文字だろうが)を書いたという有名な井戸だ。

目も見えない、耳も聞こえない人に、どうやって言葉を伝えたのか考えると気が遠くなる。

ちなみに「井戸」は英語で「well」だ。副詞のwellと同じなので、知らないととても頭を痛めることになる。英語にはときどきこういうとんでもない単語があるので、油断をすると痛い目に合う。他にも最近、「fast」に「断食」の意味があることを知った。健康診断のときに、前日に何を「速く」するのかいくら集中して読んでもさっぱりわからなかった。分からないわけだ。

ヘレン・ケラーの生家

カルマンの次にはタスカンビアとう町にあるヘレン・ケラーの生家に立ち寄った。
もちろんここも観光地になっている。

もっとも感慨深かったのは、彼女が育った母屋ではなく、離れにあった台所の小屋だ。当時は、台所は別の小屋になっているのが普通だったという。これが見事にボロボロだった。入り口が二つあり、左側が炊事をするところで、右側がコックが住んでいた部屋だということだ。これが歴史にも何にも残らないただのコックの部屋かと思うと、ある意味ヘレン・ケラーよりも感慨を覚えた。やっぱりこういうのに弱いのだ。

アベマリア・グロット4

売店でキリストの像が売っていて興味をそそった。私は信者ではないが、キリストの人形がよくできていてとても面白かった。

何十個ものキリスト像が売っていたのだが、よく見るとイエス様はそれぞれに個性があり、やけに苦しんでいるのやら痩せすぎているのもある。

アベマリア・グロット3

ヒロシマがどうのと書いてある黄色い建物もあったが、こんなのヒロシマにあるんだろうか。

この脈絡のなさと異常な執念は、山下清の貼り絵か、シュバルの理想宮http://ja.wikipedia.org/wiki/シュヴァルの理想宮(フランスの片田舎のシュバルという郵便配達夫がたったひとりで33年かけて造った建造物)を思い起こさせた。

パンフレットに載っていた尋常じゃない目つきのジョセフの写真を見ながら「やっぱりそうとうイカれてたようだな」ということで妻と意見の一致をみた。