当然ある。
今回のアジア優勝で特筆すべきは、平野のプレースタイルが、ドライブによるローリスクな卓球だったことだ。これまでも希に日本選手が中国選手といい勝負をしたり勝ったりしたことはあったが、それらは往々にして、低いボールでも強引にスマッシュしたり、間違いとしか思えないようなカウンターによるハイリスクな卓球によってだった。だから勝ち続けることはできなかった。
そういう無理な卓球でなければチャンスがないほど実力差があったのだ。
ファインプレーというのは、その場では素晴らしいことだが、長期的観点からは実は褒められたことではない。ファインプレーをしなくても勝てるほどのローリスクの卓球を身につけるのが理想なのだ。それを実行しているのが中国だ。中国は昔から一貫して弧線を重視するローリスク卓球だ。低いボールをフラットにスマッシュするような選手は建国以来いない。前陣速攻の荘則棟、江加良でさえそうだった。
これは世界的にも同じで、低いボールをフラットでスマッシュを連発して世界チャンピオンになったのは、93年の玄静和(韓国)だけであり、1960年以降の近代卓球では、そういう卓球は成立しないことを示している。
今回の平野の卓球は、打球点が早いというリスクはあるが、基本、ボールに強いドライブをかけて安定を図るローリスクな卓球だ。これで中国選手3人を破ったということは、これが一時的なものではない「本物」だということを意味している。戦術とか意外性によってではなく、純然たる力比べで勝ったということなのだ。
平野がデュッセルドルフで世界チャンピオンになったとしても少しも不思議ではない。
ちなみにこれまで、アジアと世界の両方で優勝した選手は、丁寧、張怡寧、喬紅、鄧亞萍、何智麗、曹燕華、小和田敏子、松崎キミ代という、卓球史に燦然と輝く錚々たる面々である。
一方、世界でだけ優勝したのは、李暁霞、王楠、郭躍、玄静和、童玲、葛新愛、パク・ヨンスン、胡玉蘭、林慧卿、森沢幸子、深津尚子、邸鐘恵、江口冨士枝、大川とみとなり、超名選手が含まれてはいるが、総じて知名度が落ちることは否めない。荻村伊智朗が言うところの「強い世界チャンピオンもあるかと思えば弱い世界チャンピオンもあります」(『笑いを忘れた日』)というところか(それにしてもなんたる言い草だ)。
さらに、アジアでだけ優勝した選手となると、朱雨玲、劉詩雯、郭焱、林菱、牛剣鋒、李菊、唐薇依、斎宝香、張立、枝野とみえ、李莉、大関行江、尹基淑、関正子、伊藤和子、崔京子となり、さらに知名度が落ちる。
やはり大会のステイタスの違いから、アジア大会への準備が世界選手権よりは若干おろそかになるためだろう。大会への準備はそれだけ重要であり、それによって勝敗は逆転しうることを意味している。
それにしてもデュッセルドルフの結果が楽しみである。私は今回は行かないが、日本から手に汗握ろうと思う。