横浜での卓球トークライブが25日(木)に迫っている。トークライブは今回でちょうど10回目となるが、全日本選手権期間中の開催は初めてである。いつも来てくれる卓球メディア関係者からは「全日本の最中じゃ行きたくても行けません」と苦情だか疑問だかが寄せられている。試合結果をその日のうちに記事にして翌日の見どころなどをWEBに掲載しなくてはならず、卓球王国編集部の場合は、翌月発売号での全日本特集の誌面作りまで並行して行わなければならないからだ。横浜まで行ってバカ話を聞く時間などないのは当然であろう。
こうした事情は元からわかっていたことだが、反面、観客が増える要素もある。全日本選手権には遠隔地から見に来る卓球ファンが大勢いる。わざわざ見に来るほどだから、その中には相当数の重度の卓球マニアが含まれ、その含有率は一般の卓球愛好者より高いことはまた当然の理である。
今回のテーマは、事前に告知した通り、卓球歴史マニアの実態やら古い卓球雑誌の紹介やら荻村伊智朗大先生で、これまでにも増してマニア度が高いので、まさにそうしたマニアをピンポイントで喜ばせようという企画である。
その目論見通り、現状のチケットの売れ行きを見ると、少数精鋭と言おうか意図せざる限定販売と言おうか、ともかく選りすぐりの卓球マニアたちが会場に集結しそうな勢いである。
その中には、卓球マンガ『少年ラケット』で有名なマンガ家の掛丸翔さん、トップ選手のラケットを特注で完全コピーして選手本人にサインしてもらうことを趣味とする「特注ラケットサイン収集マニア」の方までが含まれる。後者にいたっては、観客というよりは「コイツ紹介した方がいいんと違うか」というレベルだが、それは次回以降にするとして、とりあえず今回は大人しく席に座って聴講していただきたい。
今回紹介する人物の中に、卓球グッズのコレクションに人生のすべてを費やす男、チャック・ホイがいる。2万点ものコレクションが国際卓球連盟の目にとまり、卓球博物館の設立を任されて、アメリカから連盟の本部があるスイスに移住してしまった人だ。
チャックは、昨年末に発行された彼が編集する「テーブルテニス・ヒストリー・ジャーナル」最終号で、次のような言葉を残している。
私は、道なき道を選んだのです。その旅は約50年前に始まり、多くの素晴らしい思い出と世界中の友人との出会いをもたらしました。皆様のご健康と研究とコレクションの益々の成功をお祈りいたします。我々のスポーツ、卓球に捧ぐ。チャック・ホイ
感動的なのか可笑しいのか反応に困るが、こうした複雑な感情を抱かせられるのが、マニアの世界である。
今回の最大のテーマである荻村伊智朗も、複雑な魅力を持った人物である。選手としては世界選手権金メダル12個を獲得して世界の卓球を攻撃中心に変え、指導者としては世界チャンピオン10名余りを育成し、終いにはアジア人として初の国際卓球連盟会長になってしまった人である。その器は卓球界にとどまらず、外交官と言った方が近い存在で、ある政治家は荻村を評して「これは総理総裁の器だ」と言ったほどである。要するにスポーツ選手として空前絶後の人物だったのである。
荻村は現役時代後半から亡くなるまでの36年間、専門誌での連載あるいは自身が発行人となった雑誌で、ほぼ切れ目なく記事の執筆を続けた。著作は共著を含めて13冊を数え、膨大な文章を残した。そのどれもが一読して荻村とわかる強烈なものだった。膨大な知識と卓球愛、そしてチャンピオン特有の過大な自己評価をベースとし、卓球というスポ―ツの文化的価値を引き上げようと理想像を示して卓球人を啓蒙した。結果、異様に辛口な選手評と無茶な要求、難しすぎる比喩にホラ話すれすれの自慢話などが巧みな表現で展開され、読むものをときにハラハラさせ、ときに爆笑させ、最後には感動させた。これが荻村の文章の複雑な魅力である。
天才に錬金術はない。ダイヤモンドの原石を持った人だけが、その才能を磨いて、磨いて、磨き抜いて、輝かしい光を競いあうことを許される。その場が世界選手権大会なのだ。「一たび球界にゲーテいずれば、いかに多くの選手たちが無名の詩を綴らねばならぬことか。」と竹内孟は彼の小説に咏った。高校生の私は、その言葉に慄然としたことを覚えている。
荻村の遺作『私のスタンディング・オベーション』(日本卓球株式会社刊)の一説である。ちなみに竹内孟の小説とは、著者の願望丸出しの官能小説まがいの卓球小説であり、それも今回のライブで紹介する予定だ。そういう会なのだ。
卓球王国の今野さんからは「ライブの次の日、みんなで残念会しましょう」と早くも謎のお誘いをいただいているが、こんな幸せな会が残念なはずがあろうか。
なお、今回は会場に来られない方々のために配信も行い、当日から2週間は視聴ができるので、より多くの方々にお届けできたらと願っている。
2024年1月25日(木)19:00-21:00(18:30開場)
会場:Naked Loft YOKOHAMA(ネイキッドロフト横浜)
住所:神奈川県横浜市西区南幸2丁目1−22 相鉄ムービル 3階
TEL 045-534-6268
料金:前売 2,500円 / 当日 3,000円(要1オーダー 500円以上)
配信チケット:2,000円(2月8日まで購入・視聴可)
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