心霊写真

妻の知人が、子供の手が一部欠けたり消えたりしている写真があるので「事故の前触れか」と心配し、お祓いをしてもらおうとしているという。

私は小さい頃からオカルトが大好きである。世界の七不思議とかの挿絵に興奮したし、『占い入門』という本を買って占いを身につけようと思ったりした。

中学に入ると『恐怖の心霊写真集』やら『うしろの百太郎』、矢追純一の木曜スペシャルなどでオカルト好きは一気に加速された。超常現象を認めない既存の科学に反感を抱き、俺こそ霊魂の存在を実証してやるとばかり、夜中に友達とひい爺さんとひい婆さんが眠る墓地に行って心霊写真を撮ろうとしたり、幽霊の声を録音しようとラジカセを持って行って墓の前で回したりした。ちゃんと本に書いてあった通り、カメラは一週間前から仏壇に上げておいたが、幽霊は写らなかった。
コックリさんもクラスで大流行したが、そんなに簡単に霊など来てたまるかと思い、霊を呼びよせていると称するやつら全員を目隠ししてみたら、案の定コインは動かなくなった。霊が来ているならどうして人間を目隠ししただけで動かなくなるのか。誰かがインチキをしていたからだ。その後で、絶対に信用できる友人だけをつれて誰もいない静かな教室に行って心から真剣にコックリさんの儀式をしたが、コインはピクリとも動かなかった。私は軽々しく超常現象を信じている誰よりも強くその存在を望んでいる。だから偽者は絶対に許せないのだ。

オカルト好きは今も同じだが、これまで分かったことは、心霊写真などというものはすべてカメラのいたずらであり、幽霊が写っているものなどないということだ。

お祓いをして無駄金を使おうとしている、妻の知人が気の毒なので、カメラのいたずらであることを説明するために、心霊写真のようなものが写るメカニズムを実験で確かめた。

体の一部が消えてたり透けたりする写真は偶然に以下の条件が重なったときに起こる。

・体が動いている
・背景が明るい(白い)
・シャッタースピードが遅い(露光時間が長い)
・フラッシュを焚いた

シャッタースピードが遅いときに動くと、動いたものがぶれて薄く写ることは誰でも知っていると思う。そのときに背景が明るいと、そのぶれて薄い部分が明るい背景に負けて消えてしまうのだ。また、フラッシュを焚くと、手前で動いているものはフラッシュが光った瞬間だけ光が強いので止まって写り、フラッシュが光っていなかった間の映像と重なるので、結果的に背景が透けて写るのだ。
下の写真は、カメラをマニュアルで上のような条件にセットして、息子に卓球の素振りをさせて撮影したものだ。このように、消えたり透けたりする写真が100%確実に撮れる。利き腕が消えることが多いのも、よく動かすためだ。

以上のように、カメラの特性で説明がつくものなのだが、妻の知人の写真が本当に霊ではないことまでは証明はできない。例えどんなにそっくりの写真が簡単に再現できたとしても、その写真も同じ原理で撮影されたかどうかまでは誰も100%証明できないからだ。あとは常識で判断してもらうしかない。どのみち、人は自分が信じたいものしか信じないのだ。

それにしても祈祷師は良い商売である。試しに手の欠けた写真を持って行って見てもらうのもよかろう。その祈祷師の「程度」がわかって面白いではないか。「これはなんでもない写真です。祓う必要はありませんよ」と言ったらたいしたものだ。