yeah right

7年前、この町に出張に来たときに、ロナルド・ピータースという人の家に泊りがけで卓球をしに行ったことがある。彼は歯医者でインテリで、食事の間中、いろいろな自説を語ってくれた。その中でひときわ役に立って記憶に残っているのがyeah rightの話である。

ロナルドは私に「面白い英語を教えよう。英語でyeah rightって言ったらどういう意味だと思う?イエスかノーのどちらだと思う?」と聞いた。yeahはyesだし、rightは「正しい」だから、単体ではどちらもイエスの意味である。私は「わざわざあなたがそう聞くということはノーの意味なのですか」と言うと、そのとおりだと言う。

彼は用例を語ってくれた。たとえば友達が「俺、明日大統領になるぜ」と言ったようなときに「yeah right」と言えばよいのだという。理由は知らないが現実にはそういう皮肉の意味でしか使われないのだそうだ。方言の可能性もあると思ったので、しつこく聞くと、これはテレビや映画でもそういう使われ方しかしない言葉なので、方言ではなくてアメリカ全体の共通事項だという。日本語でいうなら「そりゃよーござんしたね」とでもいう感じなんだろう。

翌週、職場で何人かのアメリカ人に聞いてみると彼らも全員が同意した。よほど親しい友達どうしが皮肉で言うとき以外は使わない言葉であり、ましてビジネスではありえない失礼な言葉だと言う。そこでブライアンは「実は本社(日本)のSさんがしょっちゅうそれを言うのだが悪気はないとわかっているので気にしていない」と告白した。これは相当腹に据えかねているに違いない。

そういえばそうだ。私もしょっちゅうそのSさんが電話口で「イエーライ、イエーライ」と相槌を打っているのを聞いていたのである。これはまずい。その人は社外との交渉の担当なのだ。社内ならともかく、社外の人に「そりゃよーござんしたね」と相槌を打っていたのではどうりで交渉が失敗するわけである。これは大変だ。

私は日本に帰るとさっそくその人に事情を説明した。彼は「言い方によるんだよね。状況とか。」と言って決して認めない。

悔しいので次に出張に来たときに私は「yeah right」と言って失礼ではない状況や言い方があるかを何人かにしつこく聞いたが、結局どんなに考えてみても「そんな状況や言い方はない」との結論を得た。

確実に知らないことを話すことは危険である。わからないならバカみたいでも安全にyesと言えばよいのであり、慣れたふりをしてyeahと変形させたり、それでは寂しいからといってrightをつけたりするのが間違いの元なのである。もっとも、私は英会話教室で、講師の話を聞くときにいちいち「イエス、イエス」と相槌を打っていたら「それは変だから黙ってうなづけ」と言われた。ちなみに、「yeah」「you are right」「right」はいずれも問題なく普通に使う。「yeah right」だけがダメなのである。難しいものである。