水谷が吉村のミドル付近に打ったドライブに対する、吉村の上半身だけで無理やりフォアで打ったプレーが見事だった。昔から卓球界ではこのような身のこなしを指して「柔軟性が優れている」と表現し「だから柔軟体操が大切だ」と言われてきたが、完全に間違いである。
卓球選手は、関節の稼動範囲よりもはるかに小さい範囲でプレーをしているので、いわゆる柔軟性は何の関係もない。このようなプレーを可能にしているのは、重力に抗して体を支える足腰の筋力なのだ。もし、このときの吉村の格好を床に寝て真似をすれば、誰でもできる程度の関節の角度のはずである。長谷川信彦に代表されるように、柔軟体操が苦手で筋肉の塊のような選手が卓球をすると体を柔らかく使えるのもそのためだ。