NHK『情熱大陸 ~中国を倒してこそ~ 水谷隼』

NHKの『情熱大陸』を見た。

面白かった反面、とても残念なところがあった。それは、回転の威力の説明がデタラメなことだ。以前、卓球王国の原稿にも書いたが、テレビ局はいつも卓球の回転の威力を、何が何でも軌道の変化だけで説明しようとする。まさか製作スタッフ全員が卓球における回転の本当の威力を知らないとは思えないから、これは意図的なものだろう。軌道の変化にしてしまった方が画面で表現しやすいからなのだ。

今回の『情熱大陸』でも、水谷がサービスで絶妙な横下と横上で吉田のネットミスとオーバーミスを誘ったシーンをバウンド後の軌道の変化で説明しているのだから呆れる。卓球選手にとって、ボールがあの程度曲がることぐらい何でもないことであり、そんなことで点を取れるなら世話ない。野球やサッカーじゃあるまいし冗談ではない。

さらに、水谷のナックルドライブまで軌道の変化がそのポイントだと説明するのだからその頑固さは異常である。回転量で軌道がそんなに違うくらいならかえって回転がわかって打ちやすいではないか。軌道に大きな違いがないからこそボールの回転量がわからず、反発方向の推測ができずにミスをするのだから話はまったく逆である。ちなみに、放送によれば、ナックルドライブは普通のドライブより高く跳ね上がるそうである(右図の赤線)。それ自体初耳だが、仮にそれが正しいとして、予想より高く跳ね上がったボールをいかなる原理で相手がネットミスを連発するというのだろうか。

こういう、卓球競技をしている者なら中学生だって分かるデタラメが公然と放送されてしまうところが、卓球というスポーツのステイタスの低さを表している。「回転の方向の説明なんかしたら分かりにくいから軌道の説明にしてしまおう。原理も適当にでっち上げて」なんていう製作姿勢なのは、どうせ分かる人なんてごく一部のマニアしかいないと思われているからなのだ。本当に残念で悔しいことだ。

写真は左から、放送された画面の
「吉田がレシーブでネットミスした場面」
「吉田がレシーブでオーバーミスした場面」
「普通のドライブとナックルドライブの軌道の違い」(赤線がナックルドライブだそうな)