今回のこの出会いを私は当然、奇跡的な偶然だと思った。
しかし世の中にそんなに上手い偶然はそうあるものではない。よく考えればそんなに不思議なことでもないのではないかと思い始めた。
まず、アメリカは卓球人口が少ない。彼らの年代で選手としてやっていた人がどれだけいただろう。しかも競技人口は西海岸とニューヨーク近辺に固まっている。また、元一流選手でも、卓球でメシが食えるわけでもないので、普通のクラブで趣味として続けるしかないだろう。だからそういう人が普通のクラブにいることは当たり前のことなのかもしれない。
しかしたまたま私が行った日のその時間にアメリカ代表が3人もいたのはやはり奇跡と言っていい幸運だろう(彼らが毎日ずーっといるのでなければだが)。さて、会うまではいいとして、そこから昔話になる確率はどれくらいあっただろうか。実は私は、これは100%の必然だったと思っている。
私だって自分から50年も前の話をしたりはしないが、思い返すと、私が「イトウ」と名乗ったときにジャックが伊藤繁雄のことを言ったことがきっかけだった。思うにこのジャック、常に誰かと自分を含めた昔の卓球の話をしたがっているのだろう。だから、偵察の意味で初対面の相手にそれらしい話を振るのだ。仮に私の名前がイトウでなくても、無理やりそれらしいキーワードを使って偵察してきたのに違いない。それで乗ってこなければ止めればいいだけだ。時々私のように見事に食いついて、あれよと言う間にピンポン外交の話まで突入するマニアが何年かに一人いるのに違いない。
いくら元アメリカ代表といっても、普段クラブに卓球をしに来ている20代、30代の若者たちにとっては何の興味もない対象だろう。昔話など誰も聞く耳持つまい。なにしろ日本でいえば昭和25年頃、私ですら生まれてもいない時代の話までするのだ。
まったく何のあてもなく無理やり気まずい思いまでしながら行ったラスベガス卓球クラブだったが、その結果はこの上ない貴重なものになった。
こういうことが度々あるのなら、神様を信じてもよいかもしれない(言ってみただけ。絶対に信じない)。