壁に貼ってあるのは卓球用品だけではない。自分が試合に出たときの写真や、新聞に載ったときの記事の切り抜きが貼ってあるのだ。3年前に私が上げた、彼のことを書いた卓球王国のコピーも貼ってあった。
驚いたのはある新聞記事で「アラバマ州のトッププレーヤーのひとりであるJota Itoはドーサンからブリュートンにやってきて、疲れて音をあげるまで、8時間もピータースとプレーした」なんて書いてある。ブリュートンのスポーツ新聞だ。どういう記者だか知らないが、ピータースが自分でそんなことを得意気に記者に話したのだ。まったく、ちゃっかりしたジジイだ。だいたいその時だって私は、「南アラバマ卓球クラブ」という名前に騙され、メンバーが17、8人いるというから来てみたらこの家だったのだ。
私が「俺のこと書いてる~っ!」と驚いていると、彼は別の新聞を取り出してある部分を指し「じゃこれは見たか」と言った。そこには次のように書いてあった。
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土曜日 卓球クリニック開催
南アラバマ卓球クラブは、第一回の年度行事として、日本からの講師を招き、フロリダ州とアラバマ州の選手を対象に卓球クリニックを開催します。
Mr. Itoのクリニックは土曜日で、練習は金曜の午後から日曜の午後までできます。
人数に限りがありますので、興味のある方はあらかじめ867-3198までお電話ください。
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ひぇーっ、新聞に広告出してるーっ!まるで講師を日本から呼んだかのようである。しかも第一回の年度行事とある。これから毎年やるつもりなのだ。
もちろん、電話してくる者などいない。今回の卓球クリニックの受講者は、ピータース本人とスタン、それから普段からピータースが教えている大学生の二人と分かりきっているのだ。そもそも南アラバマ卓球クラブなんてないし、年間行事もなにもない。すべてピータースがひとりで言っているだけなのだ。
誰も来ないのにこんな広告を新聞に出しているピータースを見ていると居たたまれなくなるのだが、そのいじらしさがなんとも愛おしい。ここまでくると、もうこのジイさんが何を言おうと、どんな性格だろうと関係ない。ここまで卓球を愛する人なら問答無用で仲間である。