アトランタの日本食レストランでラーメンを食べた。これが前代未聞のラーメンで、汁は薄いはそのくせ変な臭みのある後味で、麺は普通だが、ともかくひどいラーメンだった。これまで食べたすべてのラーメンの中で2番目にまずかった。
こう書けば当然、1番目にまずいラーメンとはどんなものか興味がでるだろう。それは、私が通っていた小学校の近くにあった、町で最初の食堂である、その名も「農民食堂」という店のラーメンだった。確かにまわりは農民だらけだったが、どういうつもりでこんな名前にしたのだろうか。親しみを出そうとでもしたのだろうか。
それはいいとして、小学校高学年のとき、どういう経緯からかその店で一度だけラーメンを食べたのだ。それはもう筆舌に尽くしがたいラーメンだった。なにしろあなた、麺の塊が完全にほぐれずに固まったまま汁から頭を出していたのだ。しかも湯ですすいでいないので、麺の表面についている白い粉がそのまま汁に入っていて、白濁している(当時はそういう原因だとはわからなかったが、後に正しいラーメンを知ってからわかった)。さらに汁の塩味はほとんどなく、それになぜか胡椒がたっぷりとかけられていて、食べられないほど辛かった。
ラーメンの作り方をまったく知らない店主がラーメンを作って小学生の私に出したのだ。こんなことで生計をたてようと考えた店主のことを思うと、なんだか胸がしめつけられる。今でもときどきあの「農民食堂」という看板を思い出して、可笑しいやら悲しい気持ちになることがある。
その頃私は、店で食事をすることがほとんどなかったから、インスタントではない普通のラーメンというものを知らなかった。その後、隣町でラーメンを食べたとき、適度な塩味の澄んだスープと、ほぐれた麺を見てほれぼれしたものだった。