ビートルズを無理して聴くことはないと書いたが、どうしてそういう気持ちなのかよく考えてみた。要するに、がっかりされるのが嫌なのだ。ファンなので誰かがビートルズを聴いていいと思ってくれればもちろん嬉しいのだが、往々にしてそうでもないのだ。
信じがたいことにもう14年も前になってしまったが、ビートルズの『アンソロジー』というCDがやはり世界同時発売された。2枚組が3作出たので、合計6枚という大作だ。マニアにとっては文字通りよだれが出るCDで、各曲の録音途中の曲や、正規版とは違うアレンジの曲が入っている素晴らしいものだった。
しかしこれはあくまでマニアにとってだけ素晴らしいものだったのだ。ところが東芝EMIはこれをあたかもビートルズのベスト集かのように意図的に誤解を許す宣伝をして大々的に売った。結果はもちろん、すぐに中古屋に山のように並んだのだ(私はそれを見越して3組とも中古屋で買った)。
「鳴り止まぬ心のバイブル」という白々しいキャッチコピーを今でも苦々しく覚えている。その帯を見て買った人が1枚目に入っている、ジョンとポールが10代半ばに出会った頃に自宅のレコーダーで録音した劣悪な「最古の音源」を聴いてどう思っただろうか。ジョン・レノンが歌っている途中で笑いが止まらなくなってけたたましく笑いながら歌うAnd your bird can singや、途中で間違えて演奏を止めるI’ll be backを聴いてどう思っただろうか。こんなものをマニアでもない人たちに聴かせるというのは間違っている。
今回のは音質が良くなるだけなのだからそういう心配はないのだが、過剰な宣伝をすれば、やっぱり「なんだ、全然良くないじゃないか」と思う人が出てくるだろう。そういう人がちょっとでもいることを考えるだけで嫌な気持ちになってしまうのだ。まあ、これもビートルズという超巨大なバンドのファンゆえの病気のようなものだ。あきらめるしかないのだろう。