テニスと比較して卓球の特異性を考えてみると、それはテンポが速いことによる戻りの重要性だ。映画『ピンポン』ではCGでボールを動かしていたが、そのあまりの遅さにがっかりしたものだった。役者たちの演技に合わせてボールを作ると、ありえないくらいボールが遅くなるのだ。なぜなら、役者たちの打球と打球の間隔が長いからだ。役者たちは実際にはボールなしで「エア卓球」をやっているにすぎない。にもかかわらず実際の卓球ほどのピッチではラケットを振れないのだ。あるいはボールが速すぎると観客に理解できず、映画として成り立たないので監督がそのようなピッチを指示したのかもしれない。いずれにしても、卓球のラリーはそれほど速い。
それほど速いと問題になるのは、打球後の戻りだ。全身を使ってボールを打っても、その直後にはニュートラルの姿勢に戻っていなくてはならない。卓球はボールが軽いしコートも狭いので、基本的に、どんなボールを打っても常に返される危険があるからだ。返せないボールはないのだ。だから卓球選手は、ダブルスでもないかぎり、打ってそのまま姿勢を崩すことはない。卓球をしていると当たり前のことだが、これが初心者には難しいことが教えているとよくわかる。
荻村伊智朗の著書『卓球クリニック』では、戻りについて次のように書かれている。
「よいボールを打って一発で抜こうという意識と、もしそれが返ってきたらすぐそれに対応しようという意識を切りかえながら合わせもっていくということが大切です。打つときには返ってくるということは考えてはいけません。打ち終ったらただちに返ってくるということを考えなくてはいけません」
荻村伊智朗はこんなことでもいちいちひっかかるフレーズをちりばめるのだ。そしてそれが、まるで撒き餌のように私のような者を惹きつけて止まない。
下の写真は、その本に載っている劉南奎のフォアハンドドライブだ。私の見立てでは卓球史上最速のドライブは間違いなく劉南奎によって放たれたはずだ。こういうドライブを打った場合でもワルドナーやアペルグレンに当たり前のように返されるのだからたまらない。卓球は恐ろしい。