洗う順番

レストランで、阿部さんがココアバターローションでひどい目にあった話を披露すると、そこから話は意外な広がりを見せた。

「だいたい、どうして股間から洗うんだよ」という意見がまず出された。「普通は顔からだろ」という者があれば「自分はわきの下で泡を立ててから全身を洗います」という者もある。中には股間にて泡を立ててしかるのちにその泡で全身を洗うという技巧派もいた。私の場合は、泡の清潔度と重力の方向を考慮して必ず上から下に順番に洗うことに何十年も努めている。まず頭を洗う。今は頭髪がほとんどないので、シャンプーなどという虚しいものは使わず石鹸である。そのまま顔、上半身と泡の効力が続く限り洗うのだ。股間が先だなどとんでもない話である。「そんなところの泡で他を洗うなど、臭くて洗えたものではない」と言うと、「お前のはどうしてそんなに臭いのか」とくる。知るものか。

いつのころからか私は口臭もきついらしい。歯医者に行くと「臭くないですよ。気にしすぎです。」と言われた。口を洗ってから言ったのがまずかったらしい。この歯医者は私を自臭病という精神病にしようと図っているのだ。車を運転していて私が話し出すと後ろの席に乗っている妻や子供たちが「お父さん臭い」と言って窓を開ける、これのいったいどこが気のせいだというのか。この次は寝起きにそのまま歯医者に行ってやれ。

話がそれた。考えてみれば、普通、風呂で体を洗う順番を話し合う機会などない。それぞれが確固たる信念のもとに順番を決めてやっているのだということがわかり、人間ウォッチャーの私としてはとても面白かったというわけである。

「俺は気分次第で日によっていろんなところから洗い始めるよ」などというイカれた奴がいなかったことは幸いであった。それにしても「俺は足の裏からだ」と言う人は日本に6人ぐらいはいるのだろうか。