ビートルズ

先日、アキラくんから「条太さんは小さいとき何になりたかったんですか」と聞かれた。そういう質問は実にひさしぶりだ。そのときは、中学校のときにマンガを描いていたことを思い出して「マンガ家になりたかった」と答えた。「卓球王国でイラストを描いているから半分ぐらいはその夢が叶ってますね」とココアバター風味の阿部さんが良いことを言ったので、しみじみとした。

その後、家でふと思い出した。そういえば私はビートルズになりたかったのである。中2でビートルズを知って熱中したのだが、次第にレコードを聴くだけでは満足できず、ついには自分がビートルズそのものに、なかでもジョン・レノンになりたくてしかたがなくなってきたのである。こういう人は世界中にいると思うのだが、これはビートルズの特徴ではないだろうか。

かくして、私は、ビートルズになるべく、家にあった家族のいらない服を2週間ぐらいかけて改造し、墨でヒゲを書いて写真を撮り、ビートルズになった。高2のときである。4人中3人が卓球部で、もちろんジョン・レノン役が私である。背が低いくせにポール役をやりたいという不当な要求を繁則がしたので、しかたがないので、靴を3足ぐらい重ねて履かせてつま先立ちをさせて、やらせてやった。この後も私たちはたびたびビートルズになったものであるが、ビートルズになるのに音楽をやろうとは思わなかったところが、音楽の才能がないということなのだろう。我ながら冷静である。ビートルズにあこがれる気持ちとバックに広がる田園の対比が、可笑しくもやがて悲しい。

私は中学から現在まで卓球とビートルズであるが(しつこいのだ)、この2者の親和性はどのようなものだろうか。ロック雑誌で「卓球」の文字が出てくるときは石野卓球が取り上げられるときだけだろう。一方で卓球雑誌で「ビートルズ」という言葉が載ったことがあるとすれば、まだビートルズが騒音だと言われていた頃に、「ビートルズなどという浮ついた音楽にうつつを抜かしているようではボールも浮きやすく、相手から打ち込まれることは必定である」などと教育的に書かれた可能性がある程度だろうか。くだらん!