家の周りは自然がいっぱいである。ドーサンという町は中くらいの町なのだが、あちこちに原生林と思われる森がある。おそらくアメリカ全体が土地が広いので、こうなるのだろう。
我が家の裏は林に面しているのだが、そこの大きな木にキツツキが来て穴を掘り始めた。穴はだんだん大きくなり、とうとう全身が入るようになり、メスもやってきた(どっちがメスか知らんが)。こんなに間近で毎日キツツキを見るのはなかなか楽しく、いつしか私は「キツちゃん」などと呼んで見るのを楽しみにしていたのだが、なぜかいなくなってしまった。
道路ではよく車に轢かれて死んだアルマジロが見つかるし、リスはあちこちにいるし、通勤途中に鹿を轢いたので肉屋に寄ってから出勤してきた社員もいた。野生天国である。
3年ぐらい前に、こどもたちにせがまれてカブトムシの幼虫を飼ったことがある。プラスチックの容器二つに5匹ぐらいづつの幼虫を入れて、餌となる腐葉土を入れた。幼虫はほとんど腐葉土にもぐっていて見ることはできないが、小豆のような形の糞をするので生きていることがわかる。めったに見えない幼虫たちにしだいに情がわき、いつしか「カブちゃん」と呼ぶようにまでなっていた。あるとき、どうも生きている気配がしないので、容器をひっくり返してみると、なんと幼虫が一匹もいない。
そこで、何日か前からその容器の近くに土が落ちていたことにハタと気がついた。よく見るとそれは、腐葉土が入った30リットルのビニール袋に向かって点々と続いているではないか。近づいてみるとビニール袋の下から10cmぐらいのところに丸い穴が空いていて、そこから土がこぼれている。一瞬、顔から血の気が引いた。幼虫たちは、ツルツルの容器の壁を登り、何を頼りにしてか知らないが、腐葉土が詰まっているビニール袋めがけて突進し、袋を食い破ってその中に入り込んでいたのである。庭でビニール袋の腐葉土をひっくり返して探すと、案の定、そいつらは全員そこにいた。生命力の旺盛さに驚くとともに、大量の餌に囲まれた彼らがどれだけ興奮したかと想像して嬉しくなった。
何週間かしてたまたま庭をいじっていたら、ひからびた幼虫が一匹見つかった。拾い忘れたようだ。「そんなことしてて、なにがカブちゃんなんだか」と妻は言った。
その後、生き残った幼虫は全員成虫になったが、なぜか死んだりして飽きてきた。最後は、2匹を近くの適当な林に放して無理やりお終いにしてしまった。その林がカブトムシの生息に適していたかどうかは知らない。