そんなに卓球したいのか

卓球台を持つのが夢だった。卓球をはじめた中学生のとき、どうしても家で練習がしたくて、家にあった材木を使って卓球台を作ったが、フロの焚き木用の材木だったのでボールはぜんぜん弾まないし隙間だらけだし、片方の台を作ったところで飽きてやめてしまった。放っておいたら雪が積って潰れてしまい、風呂の焚き木になった。自宅で卓球ができたらどんなに良いだろうと、畳の上でシュルシュルと横回転サービスを出しながら思ったものだ。

結婚して間もなく、どうしても卓球場がほしくなった。家もないのに土地を買って卓球場を作りたいと言うと妻は「気が狂っている」と相手にしない。しかたがないので、まず家を建ててから卓球部屋を作ることにした。中古物件を何件か見に行った。広めの部屋で左右のフットワークをして広さを確かめたりすると不動産屋が怪訝な顔をするが、説明しても無駄なので説明しない。「この柱を取りたい」などというと、まだ住んでいる持ち主の顔が曇った。人間の感情というものを考えなくてはいけない。

何年か後、ついに家を建てて卓球部屋を作り念願が叶った。壁は卓球場らしく木目調のクロスだ。マシンと150ダースのボールも買った。風呂上りに全裸でマシン練習をしたり、寝る直前にふとパジャマ姿でサービスを研究したりして幸福感に浸った。しかしやはり一人練習は面白くない。ほどなくあまり練習をしなくなり、ついには卓球台はたたまれ、卓球部屋は子供たちがドッジボールをしたりエアガンを撃ったりする部屋になってしまった。

私の3番弟子の小室も家に卓球台があるのだが、それがすごい。家が狭いので、なんと卓球台を半分に切って台所に置いてるのだ。しかもマシン付き。ネットまで半分にしているところがいじましい。そんなにまでして卓球したいのかよ、と自分のことを棚に上げて呆れてしまった。しかし考えてみれば、卓球にとってもっとも重要なのは左右のコントロールよりも縦方向、つまりネットとオーバーのコントロールなので、これでも結構役に立つかもしれない。

それにしても台所である。やっぱり小室、卓球台で飯を食べるのだろうか。