雑誌『卓球人』

昭和22年発行の雑誌『卓球人』は、私の卓球王国での連載につながった特別な意味がある古本である。これを入手したときに、なつかしく読んで喜んでもらえそうな人ということで、『卓球物語』を書いた藤井基男さんに、読みたかった送るという趣旨の手紙をニッタク・ニュース付けに出したのである(藤井さんはニッタク・ニュースで連載していたからだ)。もちろん知り合いでもなんでもないのだが、さっそく返事が来て、これを貸したところ大変喜んでくれて、わざわざ仙台まで返しに来てくれた。以来、手紙のやりとりをさせていただくようになったのである。

何年かしたあるとき、仙台に来るというので昼食をご一緒することになった。そこで、「卓球本のコレクションがあるんだからこれを世の中に紹介することは卓球界のためになる。そういう連載をしたらどうか。その気があるなら雑誌に紹介する。」という話をいただいた。藤井さんへの手紙はいつも面白く書くように努めていた甲斐があったわけである。私は以前から卓球雑誌などで「特別寄稿」などという記事を見ると、「どうしてこんな人のが載るのに俺の文章が載る機会はないのか」と勝手な憤りを感じていたぐらいなので(当たり前なんだが)、願ってもない話であった。ところがその反面、締め切りに追われて連載を続ける自信はなかったのだから情ない話である。それで、喜んだものの断腸の思いで「仕事もあるので書く時間がとれず続ける自信がない」と断ってしまった。すると藤井さんが「伊藤さんね、物書きはヒマがあるから書くんじゃないんですよ」と言った。これはキツかった。私はすぐに考えが甘かったことに気づき「やります」と言ったのだった。それで卓球王国に紹介してもらい(編集部にはすでにいろいろな物を送りつけて断られている仲だったので少々気まずかったが)、連載にこぎつけたのである。

後日、藤井さんに「今野さん(卓球王国の編集長)、伊藤さんのこと知ってたよ。だいぶ有名みたいだね。」と言われて恥ずかしかった。人生、何がきっかけになるか分からないものである。

ともあれ、この『卓球人』は面白い。昭和22年発行なのに「あの頃を語る」とさらに昔を語ったり、卓球小説、卓球川柳などとにかく可笑しい。これを毎日1ページずつ紹介したいぐらいである。「電光石火」「意表を突く」とあるが、意表を突かれたのはこっちだって。