今日から金曜まで、上司のデビッドと一緒にテキサス州のラレードという町にある関連会社に出張に来ている。ラレードとは、アメリカとメキシコの国境の町だ。実は関連会社はメキシコ側にあるのだが、日本人赴任者はアメリカ側に住んでおり、毎日国境を越えて会社に通勤している。メキシコ側は危険なので、日本人は会社から外に出ることは禁じられているという、なんとも奇妙なところである。
ドーサンから飛行機を2本乗り、サンアントニオ空港からレンタカーで2時間走って、さきほどこのラレードについたところだ。年寄りのデビッドを疲れさせまいと私が運転したのだが、なんとスピード違反でつかまってしまった。罰金は145ドルだ。さすがに会社の出張費用に請求もできずなんとも情けない話だ。
警察が行った後でデビッドは、自分は違反をしてもつかまらないスキルがあるという。ぜひ教えて欲しいというと、なぜ自分が違反してしまったかを紳士的に説明すれば良いのだという。「フットボールの試合を見に来て道に迷い、つい標識を見落とした」「カーナビの情報が古くてまどわされた」など、とにかく相手につけいる隙を与えないように、話し続けることがポイントだという。そうすると警察は「わかったからもう行け」と言うのだという。・・なるほど、確かに仕事でもデビッドと話しているとそう言いたくなることが多いが、わざとだったとは恐れ入った。
あるときなど、「この車は80年製で古くて79馬力しかない。それに家族4人と家具が積んであり、総重量は○○ポンドだ。坂道を登るためにはフルアクセルで登るしかない。それで頂点を過ぎて下りになったところでついスピードオーバーしてしまった。君ならこの車で上手く運転できるかやってみるかね」といってキーを差し出したら「わかった、もう行け」と言われたという。本当にそんなこと言ったのかこのオヤジ。
「条太の奥さんもスピード違反でつかまったことがあるか」と聞くから「ある」と答えた。「そういうとき、家ではシット(チクショー)とか汚い言葉で腹を立てるだろう」と聞くので「その通りだ」と答えた。
デビッドの奥さんは、自分が捕まることも悔しいが、デビッドだけがいつも見逃されることがもっと悔しくて腹に据えかねているという。「今からその証拠を聞かせてやる」といって、デビッドは携帯電話をスピーカーホンにして奥さんに電話をかけた。「今、ラレードに向かってる」などと前ふりをした後で「警察に止められたが上手く言い訳をしたらまた見逃してくれたよ」と言うと、奥さんは一瞬沈黙して、別人のような低い声で「shit!」とつぶやいた。デビッドは携帯を指差しながら「聞いたか?聞いたか?」とジェスチャーをして喜んだ。悪いオヤジだ。