またデビッドの話

朝6時にラレードのホテルを発ち、来たときと同じようにデビッドとサンアントニオ空港までレンタカーを運転し、そこから飛行機で、アトランタ→ドーサンと乗り継いで帰ってきた。

サンアントニオまでのドライブ中、デビッドが前日のメキシコ料理の影響で、急激な便意をもよおしてマクドナルドに緊急停車した。「しょうがないなあ」と思っていると、その30分後には私が脂汗を噴き出し、見知らぬホテルに駆け込み、同様に尻を熱くした。

車の中でまたいろいろと話した。先日のスピード違反のことを妻に言って怒られた話をすると、デビッドは「日本女性もアメリカナイズされて強くなったんだろう」と言う。デビッドの奥さんは典型的なウーマンリブの世代で、とても強いのだと言う。アメリカでも日本と同じで、デビッドの親ぐらいまでの世代では、妻は夫の言うことには必ず従うものとされていたそうだ。「なぜ」などという疑問は許されず、とにかく夫が指をパチンと鳴らして「やれ」といえばやるしかないのだという。デビッドの奥さんはそういうことが間違っていることに気づいた世代で、強烈にそれを嫌っているらしい。

ずいぶん昔、デビッドの親戚の集りでのことだ。デビッドの姉夫婦も来ていて、これがやはり古いタイプの夫婦だった。妻がハンバーグを焼いて夫に差し出すと、夫はそれを手にとって食べる前に「私がこれを食べ終わるまでにもうひとつ焼いておきなさい」と妻に言ったのだという。妻はまだ自分の分も焼いていないし当然食べてもいない。この光景を見ていたデビッドの妻は、怒りのあまり両腕がブルブルと震え出したのだという。

今でもときどきその時のことがギャグのネタとして使われるらしい。デビッドが妻に料理を差し出されると、それを食べる前に「このスパゲッティーを食べ終わるまでにもう一皿用意しておきなさい」とわざと言うと、妻は「OK、一生待ってなさい」と言い返すのだという。もちろんこれは、デビッドがわざと言っているとわかっているからであって、もし本気でデビッドがそんなことを言ったら大変だという。

この話に私が喜ぶと、またもやデビッドは携帯電話をスピーカーホンにして妻に電話をかけ始めた。デビッドはチリという料理が好きなのだが、妻は寒いときにしかこれを作らないのだと言う。それで、ドーサンは今夜は寒いはずだから、家につくまでにチリを作って用意しておいてくれ、と言った。デビッドの妻は自宅でベビーシッターをしているので、こういう、彼女の都合を無視した一方的な要求に彼女は耐えられず、「一生待ってろ」というはずだというのだ。ところが妻は「材料があるか探してみるわ」などと親切なことを言ったのでデビッドは拍子抜けし、「今、日本人の同僚と話してたんだ。いつもの台詞を言ってくれよ」となった。

仲の良い夫婦なのである。