明晰夢

明晰夢というのをご存知だろうか。てっきり、はっきりと見える夢のこと思っていたが、調べてみると、「これは夢だ」と自覚しながら見る夢のことだという。

初めて明晰夢を見たときのことははっきり覚えている。小学校5年ぐらいのことだ。私は家の前の川の橋の上に立っていて、そこでふと「これ、夢じゃないかよ」と気がついたのだ。それならいつもできないことを思い切ってやろうということで、川の中の石めがけて頭から飛び込んでやったのだった。それで目が覚めて、今後はいつでも夢だと気がついて怖い夢を怖がる必要もないし、夢の中で好きなことをやろうと思った。ところがそう簡単にはいかないもので、その後、明晰夢を見たのは数えるほどしかない。

それとは別に、異常にはっきりくっきりと映像を見ることができる夢というのがある。これは今まで2回だけ見たことがある。そのうちの1回が、つい最近で、しかも「これは夢だ」と思いながら見たので大変面白かった。

まず、夢のなかで「これは夢だな」と確信をした。それで、ひとつこの夢の映像がどれだけはっきりと見えているかチェックしてやろうと思った。そう思いながら目に映っている映像を見ると、覚醒時とまったく同じ精細さで見えている。目を大きく見開いて(夢の中でだ)、目の前にある花だの紙に書いてある図形だのをしっかりと見たのだが、夢にありがちな曖昧さは微塵もなかった。人間の脳とはなんと面白いのだろうか。

この夢の精度を後で確かめられるようにと、私は目の前の紙に書いてある図形を見ながら、鉛筆で丁寧に別の紙に図形をトレースしたのだ。もちろんこれも夢の中なので、そんなことをしても後で確かめることなどできないのだが、そこは夢の浅はかさである。

「はっきりと見えたような気がした夢を見た」のではない。夢の中で、覚醒時と寸分変わらない精細な映像を見たのだ。しかも夢だと自覚しながら。これをわざとできるようになったらものすごいことになるだろう。ハイビジョンどころではない、無限のコンテンツが無料で見られるのだ。

人間の脳にはこういう可能性があるので、あるはずのないものが見えたり聞こえたりすることなど当たり前のことだ(UFO、幽霊など)。

叔母さんから聞いた話。大学時代に同居していた友人が首吊り自殺をした。自分の布団の上で首を吊られたという。叔母さんは徹底した唯物論者だが、ショックは大きく、その日から一年間毎晩、目をつぶるとその友人の姿が現れたという。歩いていても後から呼ばれ、振り向くとその人がいて、来ている服の模様から差している傘まではっきりと見えるのだという。叔母さんは「人はこれを幽霊と言うんだ」と自分に言い聞かせながら睨み返すと、すーっと消えていくのだそうだ。すべて、自分の心理から起こる錯覚だったのだ。

幽霊を信じたい人は、この話を聞いても「それは本当の幽霊で、睨まれたから消えたんだよ」と言うことだろう。結局、人は自分の信じたいことしか信じないのだ。