昨年、ドーサンに赴任する直前、2番弟子の田村と杉浦くんに私の送別会をしてもらった(文字通りさせたのだ)。会場は田村にまかせたら、やはり食い放題の店だった。しかしさすがにミルキーウエイのサラダバーということではなくて、どっかのビルの4階ぐらいに入っている洒落た店だった。
田村も杉浦君も学生時代からの卓球関係の友人なので、卓球を中心に語らった。田村がテーブルにi-podみたいなのを置いているので手にとって見ようとすると「触るな」という。どうして触ってはいけないのか、なかなか口を割らなかったのだが、とうとう、送別会の記念に会話を録音しているのだと白状した。それで赴任してから5時間分のデータが送られてきた。
そんなもの聞くヒマあるかよと思っていたら、その機会は意外と早く訪れた。昨年の夏ごろ、カゼで熱を出して2日ぐらい寝込んだ。そのときに寝ながらヘッドフォンで5時間分を2回聞いた。さすがに自分たちの会話だけに内輪受けの極致であり、熱があるのに面白くて寝られなった。しかも本人だけあっていちいち言うことに納得がいく。随所に忘れていた話題もあり、田村の仕事に感謝したい。
バカ話を録音するなど、ちょっと異常な感じに思えるかもしれないが、そうでもない。大学4年のとき、大学院の入試に落ちた。クラスで22人が受けて落ちたのは私と友人の2人だけだったのでさすがに落ち込んだ。するとたまたま東京の大学に通っている高校時代のクラスメートである小原から一本のカセットテープが送られてきた。聞いてみると、それは小原ともうひとりのクラスメートである佐々木が、酒を飲みながら高校時代のクラスメートや先生の悪口やら矢追純一のUFOやらノストラダムスの大予言やらを琵琶のようなギターをポロポロと弾きながら語っている愚劣なテープだった。落ち込んでいた私にとってこれは本当に楽しく、何度も何度も聞いたものだった。
私は友人に感謝したり、ましてやそれを公言することなどないが、このときばかりは本当にありがたかった。私がお返しのテープを送ると、その後も何度かテープが送られてきた(私には高校時代の卓球部以外の友人はこの二人しかいない。3年間、クラス替えどころか席替えさえなかったので、入学時の50音順の席で隣と斜め後だった小原と佐々木は3年間そのままだったのだ。姓名が友人を決めた珍しい例である。席替えはやった方がいいと思う)。記念に、送られてきた封筒をカセットのラベルにして大切に保管してある。
それ以降、私は録音を目的に自宅にマイクを2本備え付け、人を集めて数時間会話を録音して一本のテープに編集し、参加者に配ることを趣味としていた。座談会や討論会といってもすべてバカ話なので(寝る奴がいたらそいつの寝息を録音したり、悪口を言ってやったりだ)、一般的には何の役にもたたないクソテープであるが、20年も前の自分の声と頭の中が分かるテープなので、私にとってはこれほど貴重なものはない。
まだ若い皆さんにお勧めの遊びである。