怪我の顛末

オフロードのバイク乗りというのは初めてだったが、さらにクラッチ付のバイクに乗ったことは過去にほとんどなかったのがまずかった。コースにはジャンプ台がいくつもあってみんな軽々と5,6メール飛んでいるのですぐにできるもんだと思ったが甘かった。ジャンプ台の後が平らなら着地も楽なんだろうが、実際にはジャンプ台の前と同じくらい低く、うまくジャンプしないとつんのめるように前輪から着地し、あわや前転しそうになるのだ。それで、ジャンプをするのは諦めてそろりそろりとジャンプ台をやり過ごして、どうでもよい平地のカーブで間違って急ブレーキをかけて転んでしまった。

転んだ直後は特別痛くも無く、すぐにバイクを起こしてスタート地点まで運転して帰った。転んだのを見ていたカイルが「腕は上がるか」というので右腕を上げて見せた。しかし私は嫌な予感がしていて、あえて肩を触るのを避けていたのだった。覚悟を決めて触ってみると、案の定、折れた鎖骨が皮膚を内側から突き上げていた。

鎖骨が折れていることが分かった途端にショックで貧血になり文字通り目の前が暗くなってしゃがみこんだ。吐き気と便意が襲い、まともに話もできなくなってしまった。命に別状のない骨折ぐらい何でもないことだが、不注意で無駄な費用と時間をかけることになってしまったショックだ。

カイルが「これでお前も本当の男(リアル・マン)になったな」とか「保険料をいつも払ってばかりだと損だから、たまにはこうやって使う方がいいんだ」などと言うのを聞いているうちにだんだんと気が楽になり、やがて平常心をとりもどした。

一緒に行った子供たちが「お母さんが聞いたら何て言うかな」としきりに言うのが可笑しかった。私がこっぴどく怒られると思って心配しているのだ。そのくせ「もう帰らないとダメ?」などという。当たり前だ。