年別アーカイブ: 2008

悪質マンション勧誘の続き

マンション勧誘の話はかなり興味がある人がいたらしく、ゲストブックとメール合わせて3件のコメントがあった。3件のコメントの背後には30人の興味ある人がいると思われる(ネズミと同じだな)。

その中で特に有効と思われる対策が「失業中ですがそれでもいいんでしょうか・・・」と力なく言うというものだ。さすがにルンペンを相手にしている時間はないと思われるのでこれはいいような気がする(ただし会社では使えないが、バカならだまされるかも)。

ある人の職場では、すでに職場異動してしまっている人にかかってくる電話があるというのだが、用件を聞いても答えず、「勧誘ですか」と聞くと必ず怒るのだという。必ず怒るというところが面白い。いったい何に腹を立てているのだろうか。電話に出た関係ない人に怒るメリットは何もないので、もしかすると本当に頭のおかしい人なのかもしれない。何にしても、彼らとの会話を最後までやり遂げた人を知らないので、本当の目的は未だにわからない。「何でも言うとおりにするから何をしたいのか教えてくれ」と誰かやってみてほしい。

私がそういう電話を受けたときには「先月退社しました」と言うことにしている。「死にました」というのもやってみたかったのだが、さすがに縁起が悪いのでやったことがない(周りに人がいることだし)。

振込み詐欺に合ったら、前々からやってみたかったことがある。騙されたふりをして銀行に行き、2円だけ振り込むのだ。多分「バカヤロー」と言われるので、「すいません、間違えました」と言って今度は1円だけ振り込む。ぜひともやってみたいのだが、身の危険があるので、このアイディアは2番弟子の田村に譲ろうと思う。

職場の先輩で振込み詐欺に合った人がいるので実例を書いておこう。家に「旦那さんが事故を起こした」と電話があったそうで、旦那役の人が電話口に出たと言う。その男は泣いていて「ごめん」とだけ言ったそうだ。奥さんは信じなかったので旦那の携帯に電話をしたのだが、旦那は電源を切っていたそうだ。どうしてかというと、旦那の方には事前に、工事かなにかがあるので電源を切っておくように連絡があったという。そこまで念を入れた作戦なのだ。それにしてもその人、事故を起こして泣くようなタマじゃないんだが・・。詐欺師チームはターゲットを誤ったようだ。

悪質マンション勧誘

日本にいるときに、悪質なマンションの勧誘電話でひどい目にあった。たぶん大学の名簿から名前を拾って会社にかけてきたのだと思う。「マンションに興味がない」と言うと、「興味でやるものじゃないでしょ」と言う。「勧誘でしょう」と言うと「どうしてそう決め付けるのか」と減らず口をたたく。話をやめる様子がないので途中で切ると、すぐにまたかかってくる。3回かかってきてあとは来なくなった。

それから2ヵ月後くらいに、今度は家にいるときにかかってきた。声からして明らかに別人だが、「興味でやるものじゃない」「どうして勧誘と決め付けるんだ」とすっかり同じせりふを言う。マニュアル化されているのだ。こちらも腹が立ってくるので切ったり反論したりすると、向こうは怒り出し、何回も延々とかかってくる。住所もわかっているとそれを読み上げ、「今から行く」などともいう。このときはさすがに生きたここちがしなかった。大げさだが「俺は今日、殺されるかもしれない」と思った。警察に電話をすると「まず家には来ないから心配するな」とのこと。実際何も起こらなかった。

その後、会社に同じ奴からかかってきた。向こうは覚えていない様子だ。会社の人事からの指示にしたがって「こちらからかけなおすので電話番号を教えてください」とさんざんねばり、やっと教えてもらった番号にかけたら「ハイ、山口組です!」と相手が出た。相手の名前を言うと「そんな人はいない」と切られた。この山口組ですという台詞が、あまりにドラマのやくざそのものの口調で芝居がかっていたが、本物の可能性も否定できない。市外局番が兵庫県だったからだ。いずれにしても、向こうが名乗った電話番号はでたらめだったことになる。その後も電話はかかってきて「かけてみたのかよ」とかすっかり喧嘩腰になっている。結局、電話を切り続けてその後は何もなかった。

人事部からは「はっきりと断ることが大切」とか「相手の電話番号を聞くこと」という通達があったが、そんなもの何の役にも立たない。こっちはとっくにそんなことは言っているのだ。

彼らの目的、戦略がどのようなものかを冷静に考えてみて、次のような結論を得た。彼らの目的は、こちらを怒らせることだ。怒れば当然、失礼なことを言いたくなる。それをとらえて今度は向こうが怒るのだ(正確に言えば怒っている振りをする)。「その言い方は何ですか」とか難癖をつけてくるのだ。こちらは失言した認識があるので相手が本気で怒っていると感じられるし、相手を怖い人だと思うことになる(会社にかかってきた電話で相手を散々こき下ろしてやった後、こちらの自宅の住所を読み上げられたときの私の恐怖を想像してほしい)。それで正常な判断をできなくして、おそらく言いなりの契約を結ぼうと言うのだろう(そこまでいったことがないのでわからない)。これ以外に、彼らが見ず知らずの我々に電話料金と時間をかけて難癖をつけてくる理由は思い当たらない。ためしに相手の話を素直に聞いて時間がかかってもいいから穏便に収めようとしたこともあるが、そのとき相手は子供の人数を聞いてきたのだ。当然不安になって「教えられない」と言うと、「どうして教えられないんですか、私が何かすると思ってるってことですよねそれ」とまた難癖をつけてくる。つまり、彼らは何か言いがかりをつけるネタを探しているのであり、こちらがどんなに丁重に相手をしても絶対に怒ることが決まっているのだ。

それではこういう相手にはどうすればよいか。とても簡単だ。ただ電話を切り続ければよい。電話を切られたからと言ってこちらの居場所をつきとめて交通費を使ってやってきて悪さをするメリットはどこにもない。ノルマを達成できなくて上司にしばかれるだけのことだ。第一彼らは、本気でこちらに怒っているわけではなく、ポーズでやっているだけなのだ。ぜんぜん気にすることはない。実際にかかってくると延々と電話がかかってくるかのような恐怖に襲われるのだが、冷静になってみれば、たかだか10分ぐらいのことなのだ。それがわかってからはとても簡単になった。職場に私以外の人が同じような目にあうことがあったが、ぜんぜん問題なし。20分間電話を切り続けるつもりで落ちついて対処をすると、ものの10分ともたない。たったの6分ぐらい電話を切り続ければいいだけなのだ。なんと簡単な。卑劣とはいえ相手も仕事だ。出る可能性がない相手に10分間も電話をかけ続けることに何のメリットもないことはすぐにわかる。最後の方になると「お前絶対ぶっつぶしてやるぞ」とか「ばーか」とか言い始めるが、これさえもお決まりだ。気にすることはない。もちろん、留守番電話にするとか電話線を抜くとかでもよい。ポイントは、相手は本気で怒っているわけではないと言うこと。これが恨みで無言電話をする人たちとの違いだ。これはビジネスなのだ。一日中何人にも電話をかけまくっている彼らが、わざわざ押しかけてくることは万に一つもない。

とはいえ、相手も人間なので、あまりにひどい対応をすると損得勘定抜きで、本当にやってきて危害を加えられる可能性を否定できないので、最初だけ丁寧に対応して、あとはただ無言で20分間切り続けて、相手に腹を立てる隙を与えないに越したことはない。果てしなくバカだったり気が狂っている可能性だってあるのだから。

なお、一度だけまともなマンション勧誘の電話がかかってきて逆に驚いたことがある。「まともな人もいるんですね」と誉めてやった。

原稿書き

編集の野中さんから、「4月発売号の原稿は世界選手権の感想を条太節でお願いします」とメールが来た。これまでも卓球の話でなくても「条太節」などと何人かから言われたことがあるのだが(仕事でさえだ)、どういうことだろうか。

たぶん原稿は普通に書いてもまた「つまらない」と言われるので、気が違ったような内容を書かねばならないのだろう。まじめな感想や意見を書くのは簡単な一方、可笑しいことやハチャメチャなことはそうそう転がっているわけではなく、苦しい。しかしなんだかんだ言ってもバカ話を考えるのは楽しく、結局、自分で「ヒヒヒ」と笑って家族に気持ち悪がられながら昨日、原稿を仕上げたのだった。ひとりよがりでなければいいのだが。

ドル札が911を予言!

同僚から面白いことを教わった。アメリカのドル紙幣が、911テロを予言していたというのだ。

ドル紙幣を飛行機の形に折ると、5ドル、10ドル、20ドル、100ドルの順に、ツインタワーが徐々に煙を吐いて崩れていく様子が描かれているのだという。結局、建物の木の量の違いが煙の量の違いになっているわけだが、よくこんなことを見つける人がいるものだ(1ドル札が入ってないのはもちろん、うまくいかないからだ)。

当然、中には本気でこれを予言だと考えるイカれた人がいるだろう。そうだとすると、いったいいつから予言していたことになるのだろう。紙幣のデザインを決めたときだろうなやっぱり。それにしても、事件が起こってからわかるのだから、役に立たない予言だ。もっとも、役に立った予言など歴史上、一度もないわけだが。

マイクにこれを見せると「これは面白い、ワイフに見せなくちゃ」といって私の札をズボンのポケットにねじ込んだ。

アメリカの郷土料理

このブログでいろいろとレストランの食事を紹介してきたが、ほとんどがインチキ日本食と韓国料理ばかりで、アメリカの料理を紹介したことがない。一度だけステーキを紹介しただけだ。

アメリカの食事といっても、ハンバーガーやピザといったファーストフードは、ここ50年ぐらいに広まったものだろうから、郷土料理とはいえない。第一、日本人でも知っているのであえて写真を載せる価値がない。

そういう意味では、ときどき行く、アメリカンバッフェと呼ばれる、バイキングスタイルの店においてある料理が、たぶん昔からある料理なのではないかと考えている。ちょっとクセのある味付けなのだが、例によって私はとても美味しく食べている(私の好みで肉類が多くなっているが、野菜煮込みなどたくさんある)。

アメリカにきても、ハンバーガーやピザ、ステーキばかりではなくて、このような料理を食べれば健康的に暮らせると思う(ただし右端の写真ようにお菓子をたくさん食べるのは悪い例である)。

クシャミ

同僚のマイクと一緒に他の建物に行く用事があって外を歩いた。例のように太陽を見て私がくしゃみをすると(1/16参照)「風邪か」と言う。そこで、日本人の30%は太陽を見るとクシャミが出る人がいることを説明すると、「そんなこと聞いたこともないから日本人だけだろうな」という。

そこで、目的の会議室についてから、集っていた人たちに「この中で太陽を見るとクシャミがでる人いるか?」とマイクが聞いた。はからずも、二人が「出るよ」と言ったのだった。マイクは驚いて「そんなこと聞いたこともないぞ」と言った。誰も日常生活でそんなことをわざわざ話す人がいないということなんだろう。マイクはよほど不思議らしく、太陽とクシャミとなんの関係があるんだという。あたかも、「鼻の頭を押すと左足が上がる」ような話に聞こえるんだろう。

この分だと、耳掃除をすると咳が出る人もいるに違いない。

その後、席に戻って仕事をしていると、マイクがたまたまクシャミをした。そして「おっと、太陽が出たかな」などと独り言をいった。可愛い奴だ(歳上なんだが)。

杉浦君のニュー・アイテム

さっそく杉浦君からメールが来た。18kHzではなくて8kHzだそうだ。私の記憶違いらしい。また、人は音源の位置を推定するのに、音の位相の情報を感知しているという反論ももらった。やはりオーディオマニアである元同僚のヤスさん(彼も例のオーディオ専門店の2階に行って70万円のプリアンプを買ったりしている人だ。例の店長はヤスさんにも「JBLのスピーカーは置物です」と言い、店内においてあったJBLを指し「このモデルからスピーカーになりました」と言ったそうだ。素晴らしい。)からも「18kHzなど絶対聞こえない、エセ科学だ」とメールが来た。何の世界でもマニアの熱意はたいしたものだ。

杉浦君は最近、ヤフーオークションで新しいスピーカーを入手したとかで写真を付けてきた。これが困ったことに、以前から彼が持っているスピーカーとほとんど同じらしい。それにしても、マニアじゃない人からみたら、右の写真などとてもスピーカーには見えないだろう。マニアというのはそういうものだろう。私も卓球の本の版違いまで持っているし、それどころかあまりに素晴らしいので版が同じなのに複数持っている本さえある。

杉浦君、当然ながらカメラにも凝っている。20年ぐらい前、高校の同級生の小原と杉浦君と3人で北海道に旅行したのだが、ラベンダーの色を綺麗に撮るためと言って、いちいちフィルターをつけたり外したりしていたものだ。なぜだか50ミリのレンズも5個だか10個だか持っていると言っていた。

どうにもオチのない話で恐縮である。

困った教え子たち

久しぶりに卓球の練習をした。チャックとウォレンとやったのだが、練習にもっときてコーチしてくれと言われた。それは嬉しいのだが、その言い分が少しおかしい。

「お前が来ないから、俺たちは足を小まめに動かすこともしないし、膝で体を回転させるといったこともちゃんとしないんだ」と言う。コイツら、自分でどうやればいいか分かってるくせに、私が行かないからそれを実行できないと私に文句を言っているのだ。なんたる根性だろう。

「俺たちは小さい頃からまともなコーチを受けたことがほとんどないので、お前のような知識がある人からコーチされることに飢えているんだ」という。そこまで言われれば悪い気はしない。以前、アドバイスをして全然従わなかったことは忘れ、もう一度アドバイスしてみることにした。

さっそく、バックカットの足の位置を正してやった。ウォレンはバックカットで常に左足が前なので、いつもからだの内側でカットして、守備範囲がとても狭いのだ。すると、ウォレン、「そんなに足を動かしたらもつれて引っかかったりする」とさっそく反論してきた。お前、教えて欲しいんじゃなかったのかよ。「日本では中学生だってこんなことは当たり前のようにやっている」と言うと「そりゃ中学生ならできるさ。俺は40だぞ」ときた。ダメだこりゃ。

次にチャックだ。とてもいいドライブをもっているんだが、一本打つとすぐにバックのツブ高面で止める癖があるので、打てるときは打ち続けろと教えた。するとチャック、「俺は今までこのブツ高ブロックで得点してきたので、守備型だと思っている。週に1回しか練習もできないので、ドライブで攻め続ける技術を身につけることはできない。俺たちの相手はそんなに安定性がないから、この方法で十分勝てる」と言う。

私に何を求めているのだろうか。チャックの練習のとき、私のバックにボールを集めてもらってチャックのコートに散らす練習をしたのだが、チャック、何度言ってもこちらのオールコートに打ち込んでくる。さすがに何発も私が返せなくて練習効率が下がるので、「バックに打ってくれ」と言っても無言でオールコートに打ち込んでくるのだ。見ていたウォレンが「バックに集めろよ」と言うと「いいだろ、コートに入れてるんだから」と言う。

なんというか、日本ではこういう人は見たことがない。文化・教育の違いというのは本当に面白い。

オーディオの話 続き

昨日、オーディオの話を書いたら、さっそく二人の友人からメールがあった。心の琴線に触れたものと思われる。男は大なり小なりオーディオに興味があるものだなと思った。

女性でオーディオマニアというのは一度も見たことがない。車やバイクなら「買って乗る」という観点で好きな人は知っているが、「やっぱりCDはアナログレコードにかなわないね」とか「カセットデッキはナカミチじゃなきゃダメ」とか「端子が金メッキだと音がいい」などと口走る女性は一人も知らない。スピーカーを自作するなどもっての他だ。

さて、私の知る限り、もっとも強烈なオーディオマニアは、卓球でも用具マニアとして紹介している杉浦くんだ。そのスピーカーの自作の数は、ラケットの比ではない。ドーサンの隣町、デルヴィルの古道具屋で、自作スピーカー用のボックスが山ほど置いてある店を見つけたが、杉浦くんが見たら狂喜するんだろうなと思った。

彼のオーディオ好きに関連しては、いろいろと逸話があるのだが、もっとも強烈なものを紹介しておく。あるとき杉浦くんが「カセットデッキが故障しているのだが、店員がなかなかそれを認めない」という。それは困ったことだと思い、どんな故障かを聞くと「18kHz以上の音域で左右の音の位相がズレるんだよ」という。・・店員が認めないのも当然だ。音の位相の違いなんて人間にはわからないはずなのだが、どうやってわかるのかと聞くと、ステレオをモノラルにして聞くと左右の音が干渉して音質が変わるので、位相がズレていることがわかるのだという。つまり、普通に聞いていたのではわからないことをわざわざ分かるようにして聞いて、しかもイコライザーで18kHz以上という音域を特定して「故障」を発見しているのだ。

こういうことがオーディオマニアの世界では当たり前なのか、それとも杉浦くんのオリジナルなのかはわからない。これを故障だとねじ込まれた無防備な店員はさぞ困ったことだろう。

私のオーディオ顛末記

男は概してメカ類が好きなものだが、私はそれほどでもなく、バイクや車に興味を持ったことはない。しかしビートルズを聞いていた関係で、オーディオだけは中学生の頃から興味を抱いてきた。

しかし高価なものを買う機会はなく、ずっとラジカセだけで音楽を聴いていたが、大学3年のときに奨学金をもらえることになったときに、ローンでオーディオセットを買うことにした。それで仙台市内のある専門店に行ったのだが、なかなか濃い経験をした。私は友人が持っているようなものが欲しくて、KENWOODのデッキだの、ダイヤトーンのスピーカーだのを買おうとして、一本7万円ぐらいのスピーカーをいろいろと聞き比べていた。

するとそれらの中に、いかにも異様な外見のスピーカーが混じっている。他のものは音が出るところに金属の網がはってあってメタリックな感じなのに、そのスピーカーだけスポンジみたいな表面でそっけない。大きさも小さく、まるで鳥の巣箱のようだ。ところが値段は他のものよりも高いのだ。不思議に思った私は店員に「これは何ですか。どうしてこんなに高いんですか」と聞いた。するとその若い店員は「聞いてみたい?」と言う。

それで鳴らしてもらって驚いた。バイオリンの曲だったのだが、音の滑らかさがまるっきり他のスピーカーと違うのだ。これと比べると、他のスピーカーの音はまるで笹笛のように割れた音にしか聞こえない。「なにコレ?」と驚くと、その店員は「ほう、耳は確かなようですねえ」と言う。客に対する応対としては失礼な発言だが、これはかなり自尊心をくすぐられる。素人ならすっかりその気になるところだ。もちろん私は素人なのですっかりその気になった。

「じゃ、他のも聞いてみる?」と言われて連れて行かれたのが二階のフロアだ。これが一階とは異なり、すべて外国製の見たこともないオーディオ機器ばかり置いてあるVIP専用フロアと言う感じで、ひとりの客もいない。化け物のような形のスピーカーも置いてある。そこで親玉の店長がうやうやしく出てきて、いろいろオーディオ論をぶった。売る前にまず私を洗脳しようというのだ。「JBLがジャズ向きだというお客さんがいますが、私はそう思わないんですよね」「何向きなんですか?」「あれは飾りですねえ」「タンノイがクラシック向きだと言う人もいますが、私はそう思わないんですよね」「何向きなんですか?」「あれも飾りですねえ」といった調子で、この人、抜群に話が面白い。

その店長のお薦めのエレクトロボイスというメーカーの『オパール』というスピーカーを試聴すると確かに怖ろしく良い。結局、カセットデッキとアンプとスピーカーだけを買いに行ったはずが、薦められるままに真空管アンプとかレコードプレーヤーとかいろいろと買ってしまったのだった。

さすがにレコードプレーヤーが24万円もしたのは後悔して、翌日返しに行った。ところが、アームやらカートリッジやら別売りの部品をすでに組み立てたので返品はできないという。そうこうしているうちに、前日の私と同じように二階におびき寄せられた学生風の男が、やはり私と同じように店長の演説を聞きはじめた。「彼にも同じプレーヤーを薦めるので、彼が買うことになったらそっちに回すからいいよ」と店員が私に耳打ちをした。30分ぐらいすると、その学生は見事に私と同じプレーヤーを買うことになり、私は無事、返品をしてもっとずっと安い中古品を買うことができた。後で会社に入ると、その店から『オパール』を買った人に何人も出会ったのには驚いた。店ぐるみの底知れない接客術である。

この『オパール』というスピーカー、確かにバイオリンとか静かで美しい曲には息を呑むほどいい音を出すのだが、私がよく聴く、ビートルズやハードロック、パンクにはまったく合わないことが買ってからわかった。しばらく失敗を認めたくなくて、そのスピーカーに合うCD(シャーデー、ジョージャクソン、スティングなど)を買うということまでしたが、これこそ本末転倒だ。

ビートルズやパンクといった音楽は、私の場合、ラジカセやカーステレオの方が良かったのだ。最近では、そもそも音質自体、重要ではないと思ってきている。妻はもっとも好きなのはジミ・ヘンドリックスで、ニョロニョロになったテープのラジカセでも全然気にならないと昔から言っていて私はバカにしていたのだが、今になって同じ考えになってしまったのが少し悔しい。

それで、アメリカに来るときにヤフーオークションでオーディオ機器をすべて売った。先の恐るべき接客術のオーディオ専門店で買ったSMEのアームだのトーレンスのなんとかやスーパーウーファーが高く売れて、レコードやギターなど合わせると全部で26万円にもなった(下の写真が売る前の最後の記念写真だ)。私には高級オーディオが必要ないことがわかるのに20年かかったわけだ。