今週からテイラーという新入社員と働いている。ニッサンの工場で4年間働いた後、今月、私のいる会社に入社してきたのだ。彼は自己紹介のときに「テイと呼んでくれ」と言った。Taylor(テイラー)だからTaye(テイ)がニックネームだという。
こういう話は他にもある。アメリカではロバート(Robert)のあだ名はボブ(Bob)だし、ウイリアム(William)のあだ名はビル(Bill)というように決まっている。もちろんニックネームをつけない人もいるし、本名がボブやビルの人もいる。
これらに比べればテイラーがテイとは簡単だ。またひとつ覚えたと思って、この話をティム:本名ティモシーにしてみると、そんなニックネームは聞いたことがないという。「さてはあいつ、勝手に自分で考えたんだな」と私が喜んでいると、ティムは急に真顔になって「それは本人に言わない方がいい。それは異文化を揶揄することになり、彼らは差別に敏感だから」という。テイは黒人なのだ。
それはさておき、ティムは得意の長話でアメリカ人のニックネームについて語ってくれた。一般に女性はニックネームを持たない傾向があり、もっぱら男性がニックネームを使うという(そういえば日本人と同様、女性の名前は短い)。ニックネームで名乗るのは、大人の男になったような誇らしい気持ちがあるという。ティムは小さい頃は本名のティモシーと呼ばれていたが、成長期に「俺は男だ」という感じで「ティム」と名乗り始めたという。だが両親には未だにティモシーと呼ばれて「子ども扱い」されていて、それはボブもビルもそうだろうとのことだ。会社には大人でもロバートと名乗っている人がいるが、彼はボブと名乗るきっかけがなかったか、知人にボブという人がすでにいて、自分の独自性を出すためにあえてロバートのままにしたか、そんな理由だろうとティムは語った。
彼らにとって短縮形のニックネームは親しみの象徴ではなくて、大人の男の象徴なのだ。これは日本人の感覚だと逆のような感じがする。ただし免許証や賞状などでは当然、正式名が書かれる。
もうひとつ日本人と大きな違いがある。それは、日本人は普通、ニックネームを自分では決められない、仮に決めても相手がそう呼んでくれる保証がないということだ。もちろん中にはハッシーだのアッシーだのと自分で名乗って成功している人も私の周りにいるが、それは少数派であり、たいていはカジヤンとかズンズとか、必ずしも呼ばれたくもないあだ名で呼ばれるのが一般的だろう。
これをティムに言うと、それはアメリカ人にはありえないという。もし自分が誰かにティモシーと呼ばれたら「ノー、俺はティムだ」と必ず訂正するし、それでもティモシーと呼ばれるようならその人とは話をしないという。日本人がこれをやったら「ちょっと我が強い人」という印象になるだろう。こんなところにも個を優先するアメリカ人の考え方が出ていて面白かった。
ところでテイのことだが、後でアキラくんに話すと、なんのことはない、テイはニッサンにいたときに日本人からテイとニックネームをつけられ、それが気に入ってそのまま名乗っているだけなのだという。黒人文化とは何の関係もなかったのだ。ちなみにテイも私の会社のアメリカ人がそうだったように電子メールに自分の名前をTaye-sanと書いてきた。アメリカ人が自分の名前にMrやMsをつける習慣からくる誤解だ。日本語では自分の名前に「さん」はつけないということを、ニッサンで4年間いても教えられなかったものらしい。すぐに教えてやった。