真面目なのか

学生時代、みんながやることはやらなかったので、結果的に酒は飲まないし、タバコもマージャンも賭け事もしなかったので、アルバイトで卓球をコーチしていたおばさんたちから「真面目なんだから~」と言われて、嬉しいような腹立たしいような気がしたものだ。

まあ、真面目に定義などないのだから、そういうことを真面目だと言うのなら、確かに真面目だったのだろう。そのかわりビートルズに扮装した写真を撮ったりバカ話を録音したりしていたわけだが。

ただ少なくとも、授業を真面目に受けていなかったのは確かだ。今でも思い出すのは1年のときのドイツ語の授業だ。ある物語の本を一文づつ席順に訳させられたのだが、私の文章はたった二つの単語で、文末にクエスチョンマークがついていた。席順を逆算して自分の文章がわかったとき、あわてて辞書を引いたのだが、ひとつの単語が「馬」だとわかった時点で自分の番が来てしまった。しかたがないので私はあてずっぽうに「それは馬ですか?」と答えたのだった。

なんと馬鹿げた訳だろう。いったいどんなストーリーならこんな台詞がある得るというのだろうか。いや、ストーリーだけでなく、馬を目の前にして「それは馬ですか?」と聞く機会が人間にあるだろうか。ない。英語の教科書の「私は少年です」という台詞と同じくらいにない。

友人に「バカ条太、単語二つしかないのにまちがえてやんの。しかも”それは馬ですか”だって。マヌケ」と言われ、自分でも可笑しくて仕方がなかった。正解は「馬はどこ?」だった。この物語で覚えているのはこの台詞だけだ。なにしろこの台詞がわからなかったくらいだから、他の文章を理解していようはずもない。