奥さん

身内の呼び方で気になるのは「奥さん」だ。「奥さん」は「お子さん」と同じく尊敬語だ。自分の子供のことを「うちのお子さんは」と言ったらおかしいのと同じく「うちの奥さん」「うちの旦那さん」と他人に言うのはおかしい。

もっとも、そう言いたくなる気持ちはわかる。他にしっくりくる言葉がないからだ。以下に妻と夫を表す言葉をあげてみる。

妻-夫
家内-主人
奥さん-旦那さん
女房-亭主
嫁-婿
カミさん-ごくつぶし?
かあちゃん-とうちゃん
うちの人-うちのヤツ

私も結婚したばかりのころ、正しくは「妻」だとわかっていても、使い慣れていないしかしこまった感じがしてとても言いにくかった。「女房」や「カミさん」は年寄りっぽいし、共働きなのに「家内」は事実と異なるし、子供もいないうちから「かあちゃん」もおかしい。「うちの」だと、名称をはっきり言えない不快感にとらわれる。

あまりに考えすぎてついには「配偶者」などと口走って奇人扱いされたりした。一度、「嫁」と言ったら「両親と同居してるんですか」と言われた。これは20年前の話だが、今では「嫁」は結構使っている人がいるようで、それほど違和感がないかなと思う。ある時期は一般名詞ではなくて妻の名前を使っていたこともあるが、なんだか知りたくもない人に名前を宣伝しているような気まずさに耐えられず途中で止めた。結局、不本意ながら「うちの」と口ごもっていたような気がする。こんなことでモヤモヤした気持ちになるのが、なんとも不愉快だった。

今は歳もとったしすっかり慣れたので、眉ひとつ動かさずに「妻」と言っている。なお、私の妻を「おまえんとこの妻」と言う知人がひとりだけいるが、わざと失礼を意図してのことに違いない。そういう人なのだ。

用具マニア杉浦くんの学校の先輩だか助手だかに「奥」という名字の人がいて、当然ながらいつもみんなに「奥さん」と言われている。一生に何度それをネタにされるのだろうか。